健康な省エネ建築(2) 蓄熱性能

ここ数十年、省エネ建築においては、「断熱性能」を中心的な指標として、技術開発と設計、建築が行われてきました。

断熱性能を表す指標はU値(熱貫流率)

単位は、U値=W/m2・K

定義は「室内外で1度の温度差があるときに、対象になる躯体(壁や窓や屋根)1平米あたり1時間に通過する熱量」です。

U値は、躯体システムを対象にしたものですが、躯体システムの構成要素になっている個々のマテリアルの断熱性能は、λ値(熱伝導率)= W/m・K で表されます。

U値やλ値が低いほど、その躯体システムやマテリアルが「熱を伝えにくい(=断熱性能が高い)」ということが言えます。例えばパッシブハウス認定を受けるためには、壁のU値が0.15 W/m2・K 以下、窓は0.8 W/m2・K 以下でなければいけません。

U値が低い(=断熱性能が良い)建物は、冬場、中で暖まった空気が外に逃げにくく、夏場、外の熱気が中に侵入しにくいので、冷暖房の需要を抑えることができます。

しかし、U値(断熱性能)以外に冷暖房の需要に大きな意味があるものがあります。

それは「蓄熱性能」です。これには「容積比熱」という専門用語が用いられますが、

単位は、容積比熱=kJ/m3・K

定義は、「1m3の物質の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量」です。

容積比熱が高いほど、蓄熱性能が高いと言えます。

蓄熱性能が高い建材が使われている建物は、「冷えにくく、暖まりにくい」と言えます。冬場は、日射や暖房で一度暖まった蓄熱建材が、暖房を切ったあとでも室内にゆっくりと熱を放射し、冷えるのを抑え、夏は、蓄熱建材が、暖かい室内の熱を吸収し、室内の温度上昇を抑え涼しく保ちます。蓄熱建材は、温度の上下変化を緩やかでゆっくりにし、冷暖房の需要を抑え、省エネに繋がります。

建材のなかには、

①断熱性能が高いが、蓄熱性能が低いものがあります。グラスウールやロックウール、EPSなど、軽量の断熱材です。

②逆に、断熱性能は低いが、高い蓄熱性能があるものがあります。代表的なものはコンクリートやレンガ、粘土など、重量のあるものです。

③断熱性能が高く、ある程度の蓄熱性能も持ち合わせているものがあります。セルロースファイバーやウッドファイバー、麻断熱材です。

④比較的高い断熱性能を持ち、尚且つ蓄熱性能が高いものがあります。それは木材です。

省エネ建築の熱のマネージメントにおいては、断熱、蓄熱をどのようなバランスで組み合わせるかがポイントです。

例えば、軽量の断熱材を使った躯体と、重量の蓄熱断熱材を使った躯体で、U値が同じであっても、蓄熱性能が高い後者が「冷えにくく、暖まりにくい」ので、実際の熱需要は低くなります。

ここ数十年、省エネ建築の世界では、断熱性能(U値)を中心的な指標とし、それに重きを置いた建築が推進されてきました。

省エネ建築推進の代表格であるドイツパッシブハウス研究所のウェブサイトでは、パッシブハウスの5大原則として、①躯体の断熱 ②断熱窓 ③熱交換式の機械換気 ④気密 ⑤ヒートブリッチがないこと、が謳われています。

「蓄熱性能」は挙げられていません。

一方、伝統建築物の多くは、蓄熱性能が高い部材で躯体が作られています。

断熱性能(U値)に偏重した省エネ建築が普及するなかで、忘れられていた伝統建築物の良さを、エネルギーだけでなく、総合的な観点で見直し取り入れる動きも増えています。

住宅建設においては、本来、エネルギーを節約することが第一の目的ではありません。

住宅は人間の生活空間。住む人の健康と快適性が優先されるべきです。その上での省エネです。

よって、エネルギー性能だけでなく、無害なマテリアル、人間の体に優しい放射(輻射)熱、調湿性能、遮音性能、消臭性能、殺菌作用、有害電磁波防護作用、可視光の取り入れなど、総合的に考慮して建材を選び組み合わせることが大切です。そのヒントの多くは、蓄熱性能の高い自然のマテリアルを適材適所に使用している伝統建築の中にあります。

 

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