耳をすまして (DOYU IWATE 1月号より)

12月初め、日没後の暗く静かな森の中を、手作り提灯を手に持ち、幼稚園の子供と先生と親達が、ギターとフルートの伴奏に合わせクリスマスの童謡を歌いながら歩いて行く。たどり着いた小さな広場で、子供達が一人一人、モミの葉っぱで作った螺旋のサークルにロウソクを置いて行く。森の幼稚での季節の行事の中で、もっとも静かで幻想的なセレモニーです。3人の子供を通じて10年間お世話になったヴァルトキルヒの森の幼稚園。末っ子の娘は来年から小学校なので、今回が私たちにとっては最後。クリスマスシーズンの始まりにあるこの短いイベントは、師走の忙しい時期に、いつもほっと心を落ち着かせてくれました。森の静けさに、音楽に、自分の内面に、耳をすます貴重な時間でした。

日も短く、薄暗いどんよりした天気が続き、視覚による知覚が鈍くなるこの季節、人間は、より耳に頼ります。耳の感覚が鋭くなります。耳は、音を聞くだけでなく、バランス(平衡)感覚を司ります。足元が見えない暗い森の中を歩いて行くときは、内耳の三半規管が働きます。目は、外のものを「探索」する外向的な性格を持った感覚器ですが、耳は、外からの刺激を「聞き入れる」内向的な感覚器です。耳が鋭敏になる冬のクリスマスのシーズンは、人々は内向的に内省的になります。

現代人は、知覚情報の約8割を視覚から得ていると言われています。あらゆるものが、テレビやネットなどあらゆる媒介でビジュアル化され伝達されるなかで、ラジオ番組やステレオで聞く音楽、パワーポイントを使わない語りだけの講演など、聴覚だけで知覚するものが、新鮮で、落ち着きや安らぎ、深い感動を与えてくれることがあります。

耳は、人間の発育の過程でもっとも早く出来上がる感覚器です。胎児の耳の形成は、受精から数日後、胎児がわずか0.9mmの大きさのときに始まります。受精から4ヶ月半後には、音を聞き取る器官である内耳の蝸牛が大人の大きさに出来上がっています。耳は、生まれたばかりの赤ちゃんが生存する上で、もっとも重要な感覚器だからです。

視覚による知覚に偏重した現代人は、耳の大切さを忘れています。

ドイツの哲学者のハイデッカーは、耳を通して考えることの大切さを論じました。聴覚で知覚するほうが、思考のプロセスが、より分化され、より注意深く、より正確に、内向的に進行するということを。

 

岩手中小企業家同友会 会報「DOYU IWATE」2019年1月号より

 

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