住まいの温熱⑧ 調熱

No.7では熱放射(電磁波)の有用性の話をしました。太陽光や放射式暖房の熱放射うまく活用するためには「蓄熱体」が必須です。質量があり熱を吸収し放出するマテリアルです。代表的なものに木や土やレンガやコンクリートなどがあります。

ここ30年あまりの省エネ建築においてはしかし、「断熱性能(=U値)」を主要な基準とした建物の建設が推奨されてきました。各国の建物エネルギー証書においては、蓄熱性能も計算には入れられているものの「蓄熱に関して大雑把な計算で十分考慮されていない」「断熱に偏重した評価」など、建築物理の複数の専門家から批判や指摘があります。

断熱性能の評価基準であるU値は、室内外の温度差があるときの熱の通りにくさ(もしくは通りやすさ)を表しています。
蓄熱体は、熱を蓄え放出し、室内の温度変化を緩和します。
断熱体は熱を「断じる」、蓄熱体は熱を調整する「調熱」機能があります。どちらも省エネにつながりますが、人間の健康面、湿度管理の調湿機能、防臭機能、除菌機能などの観点では、伝統的な蓄熱マテリアルである木や土やレンガや石などが明らかに優位です。

省エネ=断熱になっていますが、どういう断熱をするかで、エネルギー的にも人間の健康面でも、大きな違いが生まれます。蓄熱・調湿性能の高い断熱で、放射熱を有効に活用することが、私は最適なソリューションだと経験的に確信しています。

健康な省エネ建築 「蓄熱性能」

住まいの温熱⑦ 熱放射

熱(=分子の不規則な振動によるエネルギー)は伝達されますが、そのプロセスは「伝導」と「対流」と「放射」の3種類があります。

「伝導」と「対流」は物体間の分子の接触もしくは温度差による分子の移動によるもので、マクロの世界を説明する古典物理学の「熱力学」の理論です。

一方「放射」は熱を持つ物体すべてが発する「電磁波(放射熱は主に赤外線)」で、その大きさは、物質表面の絶対温度(K)の4乗に比例し、温度差も接触も必要ありません。こちらは、ミクロの世界を扱う現代物理学の「量子力学」の理論です。

建物の暖房は、その熱伝達の性質により「対流式」と「放射式」に区別されますが、前者は空気を媒介とし、空気を暖めるやり方で、後者は、電磁波が、物や人といった個体の内部を暖める(=分子を振動させる)やり方です。人間の健康面でも省エネの観点でも優れているのは後者の「放射(輻射)」です。熱放射(おもに赤外線)は、物体にダイレクトにエネルギーを与え、空気を温める必要がないので(空気の分子は赤外線をほとんど吸収できない!)、低い投入エネルギーで済みますし、部屋の温度を均衡にするので、寒暖差がなく、空気が静かで埃が舞い上がらず健康です。また、放射による暖房では、対流式より体感温度が高いので、室温が2-3度低くても同じ暖かさを感じます。

しかし、建物のエネルギー性能の計算(ドイツの省エネ法など)においては、「熱力学の理論」だけがベースになっています。温度差を必要とし、空気を暖める「対流式」の暖房を説明する理論です。それとは全く次元と性質の異なる「量子力学」の理論で機能する熱放射(=「粒子」であると同時に「波」でもあり、「光速」で動く「電磁波」)は、熱力学の計算式では十分に表現することはできません。熱放射(熱輻射)の素晴らしさは、いろいろなところで言われていますが、建物エネルギー性能の計算上は、その良さが十分に反映されていません。

健康な省エネ建築「熱放射」

住まいの温熱⑥ 問題意識とソリューション

断熱と気密に偏重した現代省エネ建築に対する問題意識について。

①「ここ数十年の省エネ建築は、技術で解決しようとして過剰設備になっている。昔の建築の知恵を見直したほうがいい」とオープンに話し、反省もし、新しい物件では、自然素材の蓄熱調湿性能を生かしてローテクのソリューションを提案実践している建築家やエンジニアもいます。

②メインストリームに流されず、最初から自然素材で健康で省エネのソリューションを提供し続けている明確な哲学をもった建築業者もいます(彼らのところには、営業しなくてもお、客さんがやってきます)。

③「今の木造建築は、テープやシートを貼りまくって、接着剤を使って、将来のゴミを生産しているよ(黒い森の知り合いの大工談)」などと問題意識を持ちながらも、いまの仕事を継続している人たちも大勢います。

④30年後、40年後に生じる可能性がある「各種問題」のことは考えないで、無視して、メインストリームに乗り仕事をしている大勢の人たちがいます。

私は「呼吸(=透湿/調湿)できない、24時間機械換気が回っているテクニカルなモダンな家には住みたくない」という自分の心の声に耳を傾けて、違うソリューションを意識的に探していたので、①や②や③の声によく出会い、④に対して危機意識をもつようになりました。

幸いに、省エネ化がまだそれほど進んでいない日本では、欧州の「失敗」から学び、「いい省エネ」に方向修正できるチャンスがたくさんある、とも思っています。

省エネ建築 ー「対する」でなく、「共に」の原則で

住まいの温熱⑤ 省エネ化によって生じた問題

【住まいの温熱】No.5 省エネ化によって生じた問題
全館暖房を前提にすると、エネルギー性能が悪い家は相当な暖房費がかかります。例えばドイツの築50年以上の建物では、100平米あたり年間で暖房費が2000から4000ユーロというのも稀ではありません。だから躯体の省エネ性能強化が新築でも、改修でも進みました。それによって暖房費が半分、4分の1、8分の1になるのですから、経済的なモチベーションは大きいです。
しかし過去30年の間の取り組みの多くは、「断熱」と「気密」に偏重したものであり、湿気に対する性質の異なるマテリアルが組み合わされて使われたことで、内部結露などの問題を生じさせました。その問題を解決するために防湿シートや防湿材を貼って水蒸気の躯体内での移動を遮断したことによって、部屋の中に水蒸気が溜まり、それを外に素早く排出するために機械換気が導入されました。機械換気は、ダクト内の衛生上の問題課題と維持管理費用のリスクをもたらしました。
業界の中でも、このような悪循環の状況に対する問題意識や反省の声が少しずつ増しています。そして昔の建築の良さを見直し取り入れた新たな省エネ建築や改修の事例も出てきています。

住まいの温熱④ 小さな省エネ措置から

これまで、快適な暖かい生活という基本的人権を保障するための、熱を供給する話ばかりしてきました。でも、もう一つ大切な観点があります。それは、熱をできるだけ使わなくてもいいような措置をする、ということです。それは建物のエネルギー性能をよくする、ということです。具体的には採光、蓄熱、断熱、気密といった措置です。
我が家は、築50年のごく「普通」の家。理想的なやり方は、包括的な省エネ改修を施して、エネルギー性能を良くし、熱需要を大幅に落としてから、その熱需要に見合った熱供給システムを取り入れることですが、それをやってしまうと、かなりの費用がかかり、経済的に無理なので、とりあえず壊れたガスボイラーを新しくし、あとは、細かい省エネ措置を住みながら少しづつ施していく、という戦略にしています。
建物は50年前のもの。半地下一階はコンクリートと礎石造、二階は薄いグラスウールの断熱材が壁と天井に入った木造プレハブ、サッシは主に80年代の木製ダブル。建物エネルギー証書の値は100kWh/m2年(ガス代は年間平米あたり80ユーロくらい)と、新築基準の2倍の熱需要がありますが、築50年の建物としては上出来です。200、300kWh/m2年という古い建物はドイツにはざらにあるので。
最近やった小さな省エネ措置は、玄関と階段の踊り場と物置にあった断熱性能の悪いガラスや窓(熱がたくさん逃る弱点でした)を、性能のいいものに変えたことです。また、窓枠や扉で隙間風があったところをホームセンターに売っているTesaMollという隙間テープで止めました。今後は、日当たりがいい南側を中心に、蓄熱と調湿性能に優れた分厚い木や土壁ボードを部屋の床・天井・壁貼って、寒い時の太陽熱の蓄熱、暑いときのオーバーヒート防止をしようと思っています。土や木は湿度管理にも優れ、匂いも中和してくれますし。

写真の説明はありません。
画像に含まれている可能性があるもの:テーブル、室内

住まいの温熱③ 熱源を何にするか?

26年動いていて、最近壊れた我が家のガスボイラー。そろそろ寿命だと知っていたので、次のボイラーは何にしようか、壊れる前に、設備マイスターや専門家などに色々相談しました。

できれば再エネを使いたい。
まず薪ボイラー。これは手動だし、洗濯機もある機械室が汚くなるし、洗濯物干せなくなるし、薪の調達コスト(値段は上がっています)、貯蔵場所の問題、都市部の住宅地での粉塵の問題などあるのですぐに除外。ペレットボイラーは薪よりメリットはありますが、ペレット貯蔵庫のスペースが確保できないのでこれも除外。ガスをやめて性能のいいヒートポンプでオール電化するという選択肢もありましたが、設備屋さんから「ラジエーターに送る温水が60℃前後と高温なのでエネルギー効率が悪い。モダンな床暖で温水の温度が25℃くらいでいいのだったらヒートポンプはいい選択肢」と言われたのでこれも除外。

ということで再びガスボイラーにすることにしました。ラジエーターに循環させているお湯はガスボイラーが直接温めて送り、浴室や台所で使う給湯は300リットルの温水タンクに貯めて常時50℃に、という以前と変わらないやり方で。変わったのはコンパクトにスリムになったこと。スマート化しアナログがデジタルになり、携帯アプリで遠隔操作できるようになったこと。エネルギー効率もいいので、ガス代が20%くらい削減できる予定です。

ガスと電気と水を一手に任せている(契約している)地元シュタットベルケ(エネルギー公社)は、ガスも「バイオガス」という料金を選ぶこともできて、これであれば一応再エネ。

温水タンクには、電熱棒を差し込む穴が2つついています。これは、主に、ガスボイラーが壊れたときに電気で湯沸かしできるようにするためのバックアップです。そこに、昨年屋根に取り付けた自家消費用の10kWpの太陽光発電の余剰電力を使おうと考えています。1kWhあたり0.08ユーロくらいで発電しているので、ガス代とほぼ同じで、ソーラー電気湯沸かしできます。そうすると、暖房を使わない夏場は、ほぼ太陽光だけで湯沸かしできて、ガスボイラーを休ませることができます。

写真は、古いボイラーと新しいボイラーです。26年間、家の様々な住民の尊厳ある温かい生活を支えて寿命を迎えたガス燃焼炉の写真も。

現在配管は今むき出しの状態ですが、近いうちに、断熱屋さんが来て、断熱施工(パイプを断熱材で包む)します。

住まいの温熱② 暖かい住まいという基本的人権

ドイツをはじめ欧州諸国では、住まいが一定以上の室温に保たれることが人間として尊厳ある生活をするための基本的な需要と捉えられています。
それは、法律にも反映されています。例えばドイツでは、賃貸法(Mietrecht)というのがあり、そのなかで大家に義務付けられていることがあります。それは、どの部屋も基本的に20-22℃以上に保たれるように(細かいことを言うと居間と台所は20-22℃、寝室は18-20℃、浴室トイレは22-24℃)、セントラルヒーティングを設定しておくことです。ただし夜間(23時から6時)は、18℃まで下がってもいいことになっています。
この条件が維持できないような家のつくり、暖房装備、暖房の設定などにより、実際に賃貸人が寒い思いをした場合は、賃貸人は大家に対して家賃の部分的返還を請求できることになっています。それが原因で病気になったりすると損害賠償請求までできます。
我が家の26年使われていた古いガスボイラーも、新しくと取り付けたガスボイラーも、外気温の変化に合わせて、出力を自動で上げ下げして(ラジエーターに送るお湯の温度を40℃、50℃、60℃、70℃と調整できる)、温度を設定できるようになっています。昼間は20℃、夜間は室温16℃にボイラーを設定しています(昼間の余熱蓄熱があるので実際には18℃以下には下がらないので)。今ボイラーを確認したら、外気温は6℃、設定室温は20℃で、ラジエーターに送るお湯の温度は47℃となっています(写真)。

住まいの温熱① ボイラーが壊れた

2週間前に我が家の暖房(セントラルヒーティング)と給湯を賄うガスボイラーが壊れ、地元の暖房設備マイスターさんがすぐに対応してくれました。前の家主のときから26年間稼働していたので、そろそろ寿命が来ると覚悟はしていましたが、最悪なことに冬の真最中にそれが来てしまいました。幸い設備マイスターが忙しい仕事を調整して最短で新しいガスボイラー(24kw)と給湯タンク(300リットル)を調達し設置するというスーパーマンのような仕事をしてくれましたので、暖房が切れて寒い日は2.5日間ですみました。
リンクしているビデオは、ドイツ手工業会議所が職人の大切さをアピールするエキセントリックな広報キャンペーンの一つです。まさにこれと同じ状況が我が家に起こりました。仕事中のマイスターに「今の貴方の仕事です」と見せたら「自分の会社の宣伝にピッタリだ」と笑って喜んでいました。
ドイツでは暖かい家は「基本的人権」であり、暖房設備会社は、人々の基本的需要を支える責任の重い仕事です。緊急時の電話に対応する体制も持っていなければなりません。
我が家の緊急事態をきっかけに、ここ10日ほどで「住まいの温熱」について色々考え、調べたりしましたので、これから小分けにして紹介していきます。

古建築から学ぶこと

先日スイスアルプスの麓のBrienz市で、スイス各地の古建築を移築し集めた野外博物館Ballenbergを見学しました。66ヘクタールのなだらかな森林丘陵地に100件以上の建物が立ち並び、その周りには昔の菜園と畑と牧草地が再現。全部隈なく見るには2日はかかるその数と規模にとても驚きました。大変オススメです。

私は古建築や古い家具、骨董品のノスタルジックな雰囲気が好きですが、古いものの魅力と価値は、その趣だけではありません。数百年以上存続している建物には、その土地の気候条件を踏まえ、土、石、木、植物繊維という自然のマテリアルを適材適所に賢く機能的に用いた先人の知恵と経験が溢れています。住まいの「永遠の課題」である寒さや暑さ、湿気に対しては、昔の人は、自然素材の「蓄熱」と「調湿」という性質をメインに、ソリューションを生み出しています。

世界各国で建物の省エネ基準が推奨もしくは義務化されて以来、「断熱」と「防湿」に偏重した設計と建設が行われています。 私は省エネ建築を約15年来ドイツから日本に紹介し推進してきましたが、断熱材で熱を断ち、シートで湿気を封じ、密閉し、そしてそうしたために、機械換気を取り付けて24時間回さなければならなくなっていることに、「これでいいのか」と疑問を持っていました。「自分は住みたいか」と自問したときの正直な答えはいつもノーでした。

 「森林学」では、自然を生かし、自然と「共に」森づくりをやっていくことが、経済的にも環境、社会の面でも持続可能で賢いということを学んだ私としては、「断じ」て「密閉」して防ぎ、「技術的措置」で補う、という現代建築の「対抗」型のソリューションには馴染めませんでした。

ここ数年、「対抗」型だけでなく、「共に」の原則でもソリューションがあるはずだと、建築物理の基礎を自分で学び、時代の潮流や一般常識に惑わされないで本質的な仕事をしている建築業者に出会い、いろいろな事例を見学しました。その答えが自然のマテリアルの「蓄熱」と「調湿」をメインコンセプトにした省エネ建築です。昔の人たちが何百年もやってきて実証されていることです。

今回訪問したBallenbergの古建築野外博物館 では次のような発見がありました。
冬が厳しい山岳地域の建物には「木」がメインで使用されています。熱をゆっくり吸収して、ゆっくり放出する木の性質が生かされています。そしてファサードや室内壁は「黒」く、熱を吸収しやすくなっています。夏暑い平野部の建築は「土」や「石」がメインで、熱を素早く吸収し、素早く放出するミネラル素材の性質で暑さ対策をしています。こちらのファサードの色は光エネルギーを反射する白が基調。どの建物もしっかり屋根の張り出しがあり、雨風雪、夏の日射から建物を守っています。

長持ちしている建築物には、世界中で上述したような共通の原則があります。そして、「ゴミ」になるマテリアル、有害なマテリアルがほとんど使用されていません。ほぼ全て再利用またリサイクル可能!

岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」 2019年8月号に掲載

省エネ建築 ー「対する」でなく、「共に」の原則で

ここ10年来、私はドイツから省エネ建築を紹介してきました。

総エネルギー消費の3割から4割を占める建物でのエネルギー使用量を減らすことは、気候変動防止に大きく貢献しますし、やらなければならないことです。

でも私の心には、絶えずいくつかのわだかまりがありました。

「シートやテープで密閉した、24時間換気装置が回っている家に住みたいか」
と自分に問うと、正直な答えはいつも「No」でした。

「断熱」「気密」「防湿」という言葉にも、正直、親近感を持てませんでした。断つ、密閉する、防ぐ….と何か悪いものに「対抗」「対峙」するようなスタンスだからです。

私の専門は森林で、フライブルク大学の森林学部で、自然に「対抗」するのではなく、自然を「生かし」て、自然と「共に」に行う「合自然的な森づくり」を学びました。その合理性を心から理解し推進している私としては、省エネ建築の分野でも、「対抗」ではなく「共に」の原則でのやり方があるはずだ、と思っていました。

そしてここ2年くらいの間で、一般常識や業界の傾向に捉われずに、革新的なことをやっているエンジニアや事業家に出会い、コンセプトを聞き、その事例を見たことで、答えが見えてきました。

その原則は「蓄熱」と「調湿」です。

蓄熱と調湿性能が高い自然のマテリアル(土や木)を構造、内外装、断熱層にも使うことで、シートもテープも機械換気も必要のない、健康で快適な省エネ建築が可能になります。熱を「断つ」のではなく、冬は太陽光や人の熱放射をマテリアルが「蓄え」て、ゆっくりと放射する、夏は部屋の中で生じた熱を、蓄熱マテリアルが吸収し、室内を涼しくする、という方法です。

カビや建物劣化の原因になる湿気に関しては、湿気の侵入を「防ぐ」のではなく、湿気に「協調性」がある吸湿・放湿性能の高いマテリアルがバッファ機能を発揮し、室内を一定の快適な湿度に保ちます(=調湿)。

自然のマテリアルで、蓄熱、調湿重視の建築をすれば、機械換気の必要性はなくなります。有害物質や湿気が室内にこもることがないからです。人の呼吸に必要な新鮮な空気は、窓のスリット換気や人による窓の開け閉めで取り入れることができます。

このコンセプトで建物をつくっているスイスのある工務店のモデルハウスを昨年訪問しました。その家に実際に住み、一階の半分を事務所としても使用している会社のオーナーが「営業のため、ミネルギープラス(スイスのパッシブ基準)を取得するために機械換気をつけたけど、デモ用で、普段は使っていない。朝と夕方とそれぞれ5分くらい、窓を全開にして換気すればいい」と説明してくれました。「冬でも、このやり方で、熱の損失は問題はない。木がたくさん蓄熱して、その熱放射で暖かかさが保たれているから」と。お客さんにも、機械換気は必ずしも必要ないことを伝えているそうです。

スイスの山岳地域で、蓄熱と調湿の原則で、太陽光を十分に取り入れて、暖房も機械換気もない革新的な建物も存在しています。

蓄熱と調湿、これは別に新しいものではありません。何百年も維持されている昔の建築は、この調湿と蓄熱の原則で成り立っています。シュバルツヴァルトで20年以上、古建築を改修しているスッター社という建設会社があるのですが、古いマテリアルである木や石や土とその蓄熱と調湿の利点を十分に生かし、機械換気が必要ない、快適で省エネの建物を実現しています。

スッター社で一つ興味深い事例があります。ホテル、レストランとして使用されている改修された古建築物。もともと分厚い石壁と土の壁の建物で、その呼吸性能を維持するために壁断熱はしておらず、建物エネルギー証書では年間熱需要が平米あたり100kWhなのですが、実際の熱消費量は約30kWhと、理論的な計算値の3分の1で済んでいます。パッシブハウスに近い性能です。エネルギー需要が高いホテル、レストランで!。

このエネルギー証書上の理論計算値と実際の数字の開きは、スッター社の他の建物でもあるようです。社長のスッターさんは「エネルギー証書は、古建築改修の補助金をもらうために取得している」といい、あまり信用していない様子です。「実際のエネルギー消費は、信じられないくらい低い数字になるから」と。その理由は、数名の建築物理の専門家の見解によると、建物エネルギー証書が、断熱と温度差を主要な基準とした熱力学の理論で計算されているからで、主に量子力学の理論で機能する蓄熱と熱放射が、十分に考慮された計算式になっていないからです。


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健康な省エネ建築①-⑤ 
機械換気を使わないソリューション
蓄熱性能
放射熱
窓と太陽光
調湿