オンラインセミナー「サステイナブルは気くばり」2020年9月ラインナップ

グリーンインフラ、Beyond コロナ、ユネスコ文化遺産とSDGs、農業、手工業、エネルギー、エコタウン、ビオホテルと新しいテーマも加え、9月のオンラインセミナーをラインナップしました。

ドイツ/スイスで同様の活動をする同僚の村上敦(9月24日「エコタウン」)と滝川薫(9月29日「ビオホテル」)との共同企画もあります。

興味がある方、プロ、アマ関係なく、お気軽にご参加ください。

2020年 9月5日(土)20:00-22:00
サステイナブルは気くばり - 森から建物まで
集約版 ⑩+⑪ 国土を守るグリーンインフラ「森林」と「土壌」
https://sustainable-greeninfra-wald-boden2.peatix.com

2020年 9月11日(金) 20:00-21:30
With コロナの世界からBeyond コロナの世界を眺望する
https://sustainable-withcorona-beyondcorona.peatix.com

2020年 9月15日(火) 20:00-21:30
ユネスコ無形文化遺産とSDGs Vol.1「三段酪農によるチーズ作り」
https://sustainable-unesco-dreistufenlandwirtschaft.peatix.…

2020年 9月16日(水) 20:00-21:30
ユネスコ無形文化遺産とSDGs Vol.2「オルガン製作」
https://sustainable-unesco-orgelbau.peatix.com

2020年 9月17日(木) 20:00-21:30
ユネスコ無形文化遺産とSDGs Vol.3「共同組合」
https://sustainable-unesco-genossenschaft.peatix.com

2020年9月24日(木)20:00-21:30  村上敦
MITエナジービジョン - 持続可能な社会の実現へ
Vol.1 ドイツのエコタウンと気候中立のために必要なインフラ
https://mit-energy-vision-ecotown.peatix.com

2020年9月29日(火)20:00-21:30  滝川薫
MITエナジービジョン - 持続可能な社会の実現へ
Vol.2ビオホテルから考える持続可能な観光業 – 100%オーガニック+カーボンニュートラルへ
https://mit-energy-vision-biohotel.peatix.com

2020年10月1日(木)20:00-21:30  池田憲昭
MITエナジービジョン - 持続可能な社会の実現へ
Vol.3 木質バイオマスエネルギーは持続可能なソリューションになるか?
https://mit-energy-vision-holzenergie.peatix.com

オンラインセミナーの案内

【集約版:国土を守るグリーンインフラ「森林」と「土壌」】

8月31日(月)

https://sustainable-greeninfra-wald-boden1.peatix.com

9月1日(土)

https://sustainable-greeninfra-wald-boden2.peatix.com

森と土は、多大で多面的な恩恵みを人間に与えています。その多種多様な恩恵のなかで、今日大きな意味を持ってきているのが、災害や気候変動を防止抑制する機能、すなわち人の命と健康と財産を守ってくれる「国土保全機能」です。

人間は太古の昔から、森と土の恵みである木材や動植物を利用してきましたが、その利用手法や実態は、残念ながら、過去においても、現在においても、森や土の「国土保全機能」を低下させるものがほとんどです。一方で、森や土の国土保全機能を維持もしくは向上させる持続可能な森林業や農業の手法や実践もあります。

このテーマは、森も土も豊かであると同時に壊れやすい環境(雨が多い気候や地質・地理条件)にあり、人口密度が高い日本においてとりわけ重要です。

本セミナーでは、国土保全機能の中の「洪水防止・抑制」と「CO2固定」に焦点を当て、森や土がいかに大切か、科学的な研究データに基づいてわかりやすく話し、人間が生産活動をする際にどのような「気くばり」が必要かを明示します。

7月半ばから8月初めにかけて2回に渡って話したものを、1つのレクチャーに集約したものです。前回好評でしたし、とりわけ日本にとって大切なテーマなので、再度「集約版」として提供します。聴き逃された方、ご興味がある方、お気軽にどうぞ!

森づくり、土づくりによる防災

7月に熊本の球磨川流域の洪水の映像を見て、「また熊本か」と同じ九州の長崎県出身者として心が痛みました。

ここ10年、森林の専門家として、とりわけ急峻で多雨の日本において、森林のマネージメント手法と洪水の因果関係を科学的に検証することを訴えてきました。

熊本は皆伐施業が多い地域で、洪水のあとネットで検索したところ、2007年の研究論文ですが、熊本県の皆伐の約7割が球磨川流域に集中している、というデータがありました。
http://ffpsc.agr.kyushu-u.ac.jp/…/60/bin090514192417009.pdf…

豊かな森林とそれによって生成される豊かな土壌は、健全な状態では多大な保水・貯水能力があります。皆伐は、その能力を、最悪の場合、長期にわたって大きく減少させるものです。皆伐だけでなく、鹿の食害の問題や、樹種構成、道路、コンクリート建造物など。様々な洪水の要因はあります。今回のような想像を超える集中豪雨では、健全で理想的な森林であっても災害を防ぐことはできなかったかもしれませんが、被害のスピードと規模をある程度抑制することはできたと思います。

未来のために、科学者、市民、企業、政治、行政が、真剣に取り組むべき課題です。

8月31日と9月5日に行うオンラインセミナーでは、このことをメインに話します。世界共通の課題ですが、とりわけ日本にとって大切なテーマです。

【集約版:国土を守るグリーンインフラ「森林」と「土壌」】
8月31日(月)
https://sustainable-greeninfra-wald-boden1.peatix.com
9月5日(土)
https://sustainable-greeninfra-wald-boden2.peatix.com

写真は、1828年にヨーロッパで出版された、皆伐と災害の因果関係を分析し論じている学術論文の表紙です。古書ですが、先月、バイエルン州立図書館のHPから電子データで全ページ無料でダウンロードして入手しました。

多機能森林業の基礎を築いた人

19世紀初頭に、ドイツ森林学のパイオニアの1人、ヴィルヘルム・ファイルという偉人が、生徒たち(森林官の卵)に次のようなことを言っています:

「木にどう育てられたいか聞きなさい。本を読むよりよっぽどいいことをお前たちに教えてくれるはず」

「すべての理論はグレー、森と経験だけがグリーン」

プロイセンのエーバースバルデ林業大学の初代学長を務めたファイル氏は根っからの実践家、現場の人間でした。トウヒやマツなど成長のいい樹種を一斉に植えて土地から最大収益を得る視野の狭い畑作的林業の風潮が強まっていたなか、土地に合った樹種を育てること、机上の理論より現場の観察や経験がより大事であること、林業経営という狭い視野から脱して森林の国民経済と社会生活への寄与を考える必要があること、などを訴え教え、現在の「多機能森林業」の基礎の一つを築いた人です。

私も現場が好きで、普段はドイツや日本でのワークショップやセミナーでも、できるだけ参加者が森林を五感で体験できるようにオーガナイズしています。

しかし今年のコロナ情勢、それができませんので、春からオンラインセミナーを始めました。5/6月に第一走を好評にて終え、7月19日から第二走を開始します(8月半ばまで)。

緑いっぱいの生命の力が溢れた夏の森林での生の体験は提供できませんが、オンラインにて、その息吹を、包容力を、森林に携わる人たちのスピリットをお伝えできればと思っております。

複合的に考え、多面的にバランスの取れたソリューション

20年前、私は岩手大学でドイツ文学をかじったあと、ドイツのフライブルク大学で「森林学」を学びました。森林官(フォレスター)を養成するカリキュラムです。経営学、政治学、法律、歴史、地質、土壌、地理学、気象学、化学、生物、生態学、狩猟学、樹木生理学、造林学、樹木計測、統計学、木材利用学、人間作業工学、木材工学、森林土木、環境教育、ランドスケープ学、自然倫理、、、と「多様性」ある内容を5年半みっちり実学重視で学びました。当時は講義とセミナーは全て1週間から2週間のブロック(集中講義)形式で、ハードでしたがフィールド学習が多く楽しく学べました。

複合的に物事を捉え、多面的にバランスの取れたソリューションを考え実践するトレーニングを受けました。これは私の大きな財産で、現在の活動のベースになっています。いろんな分野の専門家と専門用語で話せることも「多様性」ある森林学を学んだことの大きな利点です。

私はなりませんでしたが、森林官(フォレスター)は、ドイツの子供達の憧れの職業の一つ。森林官にとって大切な仕事は、森を「クリエイト」すること。その中心的な作業は「選木」です。残す木、切る木を選ぶ作業ですが、この作業で将来の森の方向づけ、価値創出をしていきます。選木作業では、森林官の頭のCPUは、樹木生理、生態バランス、自然保護、防災、作業手法、木材産業の需要、売値、作業コスト、など多面的な知識と経験が複合的に高速でフル稼働し絡み合い、同じものは一つとない一つ一つのソリューションを導き出していきます。

木々の「言葉」が人間を癒す

森の樹木たちは、揮発性オイルというフェロモンを使って、自分の仲間の樹木や他の植物、昆虫などと密な交信をしています。このフェロモンの信号は樹木の「言葉」。木はメッセージに合わせて様々なフェロモン単語(=炭素化合物のバリエーション)を持っています。一つの森で200単語くらい、世界中の森林合わせると2000単語くらいあります。人や地域によって多様な方言や言語がある人間世界と同じ様に。

そして、その木々が話す多様な言葉(=多様な揮発性オイル)が、人間の心身の健康に優れた効用があることが、ここ30年あまりの、日本をはじめとした「森林浴」の医学的研究によって解明されてきています。木々が発する言葉やメロディが人間を癒す。まるでおとぎ話の世界のようですが、科学的な事実になりつつあります。

ドイツで最も美しいハイキングルート

私の住む南西ドイツ黒い森の「Zweitälerland(2つの谷の国)」地域が、2019年の「最も美しいドイツのハイキング道」コンテストで、ルート部門1位を取りました。イメージビデオをリンクします。
人間が自然と「共に」の営みの中で造成してきた牧草地と森林と伝統建築が織りなす美しい景観と自然へのアクセスの良さは、地域の自然や文化や地場産業と融合する「ソフトな観光」の大切な資産。
ドイツでは、フルタイム勤務者に年間26-30日の有給休暇(祝祭日は別)が「義務付け」られています。15%くらいの人は、3週間以上まとめて休暇を取っています。
今年は、コロナの影響で、これからドイツ国内での休暇が増えそうです。観光が解禁されて1週間、ドイツの人たちが、国内での休暇の予約を盛んにしているようです。我が家も小さな民泊アパートメントをやっているのですが、ここ1週間で立て続けにドイツ国内からの予約が入り、外国観光客のコロナキャンセルでぽっかり空いていたカレンダーが9月末までもうすぐ埋まりそうな勢いです。昨年「最も美しいハイキング道」の賞を取ったことも影響しているのでしょう。観光業は、我が家も含めて、地域で複合的に多面的に生計を立てている人たちにとって大切な生活基盤です。地域の手工業も観光業と密接な関係があります。

高いお金を払ってドイツから広葉樹材を輸入しなければならなくなった!

数年前、北海道の知内町で森林ワークショップに呼ばれた際、ドイツのフォレスターと一緒に、町の家具建具製作会社を訪問しました。タイトルは、そのときに会長さんが話された印象的な言葉です。
その会社は、広葉樹を剥いて化粧板をつくり、それを貼り合わせて高級な成形家具を製作し、有名なコンサートホールなどに提供しています。優れた技術をもっています。以前は、北海道からオークや白樺やタモなどの大木を仕入れて製品を製作していたそうですが、ここ数十年は、ドイツなどから加工された化粧板を輸入しなければならない状況だそうです。なぜかというと、北海道で、以前あった天然林の大径木がすでに伐り尽くされてなくなってしまったからです。「せっかくここにある化粧板を剥くこの機械も使う需要がなくなってしまった」と不満を露わに言われました。

アメリカのある地域でも同じようなことが起こっていると聞いたことがあります。広葉樹材は「流行り」があります。5年おきくらいにそれは変わります。黒肌のオーク材が流行ったとき、その地域のオークが片っ端から伐採され製材されて高価に売られました。流行りが過ぎで数年後、再びオーク材の需要が高まったとき、その地域の製材工場はオーク材を仕入れることは残念ながらできませんでした。すでに前の流行りのとき伐り尽くされていたので。

原木は重くてかさばります。いかに山から工場への輸送コストを抑えるかが鍵です。遠くなると、工場の採算は合わなくなります。だから地域で持続的に材が供給されることが重要です。

ドイツやスイスでは、幸運なことに、成長量の範囲内での伐採を規定する制度もあり、次世代のことを考えて、様々な大きな木を残しておく森林経営をする森林所有者(州、自治体、民間)が大半なので、製材工場も安心して経営し、将来への投資もできます。とりわけたくさんの種類がある広葉樹を専門に製材する工場においては大切です。

日本には、広葉樹が育つのに最適な環境がたくさんあります。素晴らしい材質のスギやヒノキとともに、様々な広葉樹を持続的に育てていくことは、地域経済に、生態系に、そして観光に、様々な利益を与えると思います。今からでも遅くありません。50年後、100年後のために。

「自然との同盟」+「世代間契約」

時間的に途切れることなく続いている森。大小様々な樹木が共生している「恒続森」は、欧州では数百年前、山奥の森林農家や共有地の森で、代々少しづつ育った木を抜き伐りするなかで、経験的に出来上がったものです。

「納屋が古くなったから、山から何本か木を切ってきて補修しよう」

「娘が来年結婚する。新しく家を建てるようだから、今のうちにうちの山の木も20本くらい伐って、乾かしておこう」

「いま、オランダの造船業が、黒い森のモミの木の大きな丸太を欲しがっている、と村で話を聞いた。近いうちに集落で集めて、長い筏を組み、ライン川を下ってアムステルダムまで売りに行くらしい。うちの山からも何本か出そう。そしたら、牛やヤギも増やせる。新しく製材機の材料も買えるかもしれない」

現代であれば、
「隣のオヤジが新しくジョンディアのトラクターを買った。あれ俺も欲しいな。銀行にお金を借りるのは、利子が安くても気分的にいやだ。うちの山を少し間伐したら買えるな。今木材単価も高いしそうしよう」

といったその時々の様々な動機で、毎回少しづつ択伐的に伐られていくなかで、出来上がっていったのが複層の「恒続森」です。森は貯蓄預金。大切なことは、その元金はかならず次の世代に残しておく、ということ。成長した分(=増えた利子)の範囲で収穫すること。お金と手間がかかる植林はできるだけしない。自然に更新してきた稚樹に、上の木を少しづつ切ることで、少しづつ光を当てて行き辛抱強く育てる。

一方で、一斉に植えて、一斉に育てて、一斉に伐る、という畑作的な林業が、200年前に学術的に体系化されはじめ推進されてからは、択伐的な利用、複層構造の森づくりは、「無計画、不規則、無秩序」と学者や官僚に非難され、一部の地域では、禁止令が出されました(例えば私の住むシュヴァルツヴァルトを以前支配していたバーデン公国)。しかし、幸運なことに、上からの押さえつけに簡単には動じない農家や村の共有地があり、この森づくりは継続されていき、20世紀初頭には、森林学のなかで、択伐的施業や恒続森を、学術的に体系づけ、洗練したドイツのメラーやスイスのビオレーといった異端児の学者が現れました。現在では、そのような森づくりが、国土保全の面でも、生態系の豊かさ、そして生産性の面でも優れている、という大方の認識に至っています。

数年前、相棒のドイツのフォレスターと一緒に、日本のある地域の森林ワークショップに講師として参加しました。樹齢90年のスギやヒノキの立派な森でした。100年前にドイツで苦学し森林学の博士号を取得した本多静六氏が計画した共有地の森林でした。そこで森林の共同所有者さんたちや行政関係者といろいろ話しました。この森をどうしようか、と。相棒のフォレスターと私は、択伐的に利用しながら、恒続森にすることを提案しました。多くの所有者さんが賛成しました。一方で皆伐を推進する人たちも居て、議論が起きました。私たちは、皆伐の様々なリスク(土壌や生態系、長期的な生産性など)を説明し反対の意見を出しましたが、議論は平行線。フォレスターの相棒は、皆伐を強く求める1人にこう質問しました「あなたが皆伐を求める理由はなんですか」。その方の答えは「俺が植えたものは俺が全部収穫したいもん」

持続可能な森林業は、自然と次世代への「気配り」や「愛情」があって初めて成り立ちます。自然との同盟、世代間の契約です。

インターネットは人間の発明物?

いいえ、おそらくホモ・サピエンスが誕生する何千万年も前から、森林には、インターネットと類似のシステムがありました。ここ20年あまりの自然科学の研究で、その概要が解り始めています。

システムの名称は【Wood Wide Web】

生きている場所から移動できない樹木や植物は、キノコ(菌類)が土壌の中に張り巡らす菌糸のネットワーク(=光回線)を通して家族や親類、隣近所や仲間、競合やその他の生物たちと「交信」しています。

どれだけ密な回線網かというと、ティースプーン一杯の土のなかに数kmの菌糸網。樹木は根の先端(=ルーター)でこの光回線と接続しています。そして根は、樹皮の裏にある師管と導管(=LANケーブル)を通して樹木のソーラーパネルである葉っぱと結びついています。菌は樹木に、その時々の樹木の需要に合わせて、樹木が欲しいミネラル分のミックスを、土壌中からフィルタリング(調理)して与えます。その代償として、樹木は、ソーラーパネルで生産した糖分を菌に与えます。同じ目線のパートナーシップ。

菌糸網は、母樹が幼児や弱った仲間に養分を分け与える使者の役割も果たしています。また、樹木たちが共同で水不足や気候変動への対策を練るオンラインの戦略会議(=Zoom会議?)をするための、そして決めたことを迅速に共同で実践するための、安定した強固なコミュニケーションインフラでもあります。

樹木は、土壌だけでなく、空気を通しても、仲間や他の動物と交信しています。このWifiの信号の中身は数百種類あるフェロモンです。自分がキクイムシにやられたら、恥も外聞もプライドもなく、仲間に「俺は今やられた。おまえたち、気をつけろ。早く樹脂を生産して防御せよ」と迅速に信号を送ります。また、毛虫などの害虫にやられ始めると、それを食べてくれる鳥や昆虫に、ここに美味しい餌があるよ、とターゲットを絞った効果的な広告宣伝をし集客します。

このシステムWood Wide Webの使用料金や広告宣伝料金はありません。どのプレイヤーもそれで一儲けしようなどとは考えません。与えてもらったら返す、Gibe & Takeの原則で数千万年維持されています。