多彩な田舎暮らし

先月、学術調査の仕事で、日本の大学の農学部教授とともに、オーストリアのブレゲンツァーヴァルト地域を訪問しました。

ブレゲンツァーヴァルトは、オーストリア西端のフォアールベルク州のなかにある23の小さな自治体から成り立つ人口約3万人の農村地域です。ドイツとスイスに国境を接するボーデン湖南部のラインの平野に接し、その南にそびえるオーストリアアルプスの谷間に位置し、きれいに管理された牧草地と森林のモザイク景観のなかに、木造建築の家々が分散して点在する美しい景色の場所です。農林業と木材産業、観光業がうまく噛み合い、相互補完的に維持発展している豊かな農村地域でもあります。

私は、自分の専門の森林や木材産業のテーマでは何度も訪れている地域ですが、今回は、酪農がテーマでした。主要な農産物は牛のミルクを使ったチーズです。この地域では、伝統的に、「三段農業」というものが営まれています。季節ごとに牛を飼育する場所を移し替える農業です。冬の間は麓の住まいに隣接する「下段」の牛舎で夏場に収穫保存した干し草を食べさせ、春先と秋口(5 月と10月あたり)は、少し標高の高い「中段」で放牧し、夏場(6〜9月)は、アルプスの高原の「上段」で放牧する、というものです。それぞれの「段」で、牛舎とチーズ工房があり、農家の共同体で自主運営されています。この「三段農業」は、2011年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。

一件の農家あたりの牛の数は10頭から20頭、ほとんどが小さな兼業農家です。何件かの農家を訪問しましたが、農業と林業をやりながら、民宿業を営む、そして冬場はスキーのインストラクター、またはホテルやレストランの事務や給仕、地域の木材産業で職人として働く、公務員、地方議員など、複数の仕事を掛け持ちして、伝統的な酪農を維持していました。「大変なときは、近くに住む娘や息子、兄弟姉妹が助けに来る」と家族の支援も欠かせません。多彩な田舎暮らし、地域や家族への愛情や誇り、家族の絆がありました。

「規模が小さい農業が却って元気」という州議会議員の酪農家の指摘もありました。「規模を大きくしたことで、負債も仕事量も増え、経営が大変になっている農家がある」と。専業化、分業化が進められて行ったのは、人間の歴史では、ここ100年あまりのことです。それまでは、特に田舎の暮らしは、多彩な仕事の掛け持ちで成り立っていました。今、その良さが見直されてきています。

多彩な暮らしは、コーディネートやコミュニケーションが大変ですが、その分、喜びが増え、リスクは分散します。

岩手中小企業家同友会会報 「DOYU IWATE」連載コラム 2019年5月より

粘り強く信念を持って

「4年かかりました」

私の仕事のパートナーが、先日久しぶりに2人で会って一緒に夕食をとっているときに、ぽつりぽつりと自分の仕事のことを語ってくれました。彼は、4年前に、自分のやりたいことを実現するために、それまで長年勤めていた森林組合を辞め、林業事業体として独立しました。

「地区の人たちがようやく自分を信頼してくれるようになりました」

彼は、自分が生まれ育ったところで、持続可能な森づくりをすること決意し、独立後、営業活動を開始しました。

小高い丘陵の森林と田んぼが連なる中に伝統的な日本家屋が点在する、日本の田舎の原風景があるところです。私はそこに来るといつも心が温まります。

彼の会社は従業員が3人、しっかり継続して収入を得るために、車で2、3時間の現場に通ったり、1ヶ月以上、遠い場所で泊まり込みの仕事をすることもありました。その合間を縫って、自分の住む地区の人たちに地道に森林の集約化、持続可能な道づくりと適切な管理の提案をしていきました。彼の住む地区には約800ヘクタールの森林がありますが、そのほとんどが小規模な私有林。森林所有者一人当たりの所有規模は1ヘクタール未満が多数、推定600人から700人の所有者さんが存在。簡単なことではありません。

彼は、昨年末、自分の自宅の近くで、30ヘクタール、30人の森林所有者さんの了解を得ることに成功し、今年、道作りと間伐の仕事に取り掛かります。

「4年かかって、やっと自分のやりたかったことが開始できます」

昨年末の集まりで、地区のリーダーの人が、「彼に任せようじゃないか。彼と一緒にやろうよ」とみんなに言ってくれたそうです。彼は目に涙をためて話してくれました。

「それまで、よそよそしい、怪訝な態度で自分に接していた地区の人たちが、やっと普通に接してくれるようになりました」

4年の間、普段の仕事や従業員のことで数々の苦労もし、体を壊すこともあった彼ですが、信念をもってまっすぐに誠実に地区の人たちとコンタクトを取り続け、いまやっと彼は、自分がやりたいことをスタートできます。

「これから5年後には、今の30ヘクタールの請負を、地区の森林の半分、400ヘクタールに広げることが目標です」

岩手中小企業家同友会会報 「DOYU IWATE 」2019年2月号掲載のコラムより

木食い虫が教えてくれること

2018年のドイツを中心とする中央ヨーロッパは、気候温暖化の影響で、記録的な干ばつと熱波に見舞われた。ドイツでは、この年の平均気温は10.5度と観測史上最高を記録し、晩春から秋にかけては雨が極端に少なく、10月になってもドイツの土壌の70%以上が干ばつ状態にあった。

筆者の住むシュバルツヴァルト地域は、森林率が40%から80%で、林業が盛んなところであるが、水不足と日照りで弱った針葉樹のトウヒに木食い虫が大量発生し、大きな被害をもたらした。

木食い虫の被害のメカニズム

木食い虫の種は世界で4000種以上あるが、中央ヨーロッパで森林被害を起こしているのは主にドイツ語でBuchdrucker(プリンター)という種である。大きさは4〜5mm、生きているトウヒの樹皮に穴を掘り、その中に卵を産み、卵から孵った幼虫は、樹皮の内側の師部を流れる養分を糧に成長する。そのため、一気に大量の木食い虫「プリンター」に襲われた木は、養分の内部分配機能が衰え、枯れて死んでしまう。

通常、健康な状態のトウヒは、木食い虫の侵入に対して、樹脂を生産して自己防衛する。しかし、干ばつが続くと、水不足のため樹脂の生産ができなくなり、木食い虫は、弱り無防備になったそのような木に大量発生する。昨年の夏は、木食い虫にとって絶好の繁殖環境であった。シュヴァルツヴァルト地域を含むバーデン・ヴュルテンベルク州では、2018年、トウヒを中心に推定150万立米の木が被害を受けた。年間の針葉樹の伐採量の4分の1程度に相当する量である。

林業家に経済的な損失

木食い虫の被害を受けた木は、周りの立ち木に虫の害が広がるのを防ぐため、伐採され搬出される。木食い虫による原木へのダメージは外側の樹皮の部分だけであるので、内部の木材になる部分は健全なため建築用材などとして販売することができるが、色が変質しているため、製材工場による買取価格は、通常の値段から30〜50%差し引かれたものになる。森林所有者にとっては経済的に大きな損失である。また、被害木が大量に市場にでてしまうと、供給過多で、価格はさらに低くなり、また、市場がある期間内に買取ることができる木材の量には限界があるので、健全な普通の木の伐採を抑えなければならない状況にもなる。被害が大きかったいくつかの地域では、「普通」のトウヒB/C材の伐採を当面抑えるように指示が出されているところもある。被害にあった木を「片付ける」ことが優先、ということで。

被害の主な原因を作ったのは人間

木食い虫の大きな被害は、ドイツでここ20年間、何度か起こっている。1999年末の大風害の後や、2003年の夏の干ばつの後など、今回同様、異常気象がきっかけになっているが、人間が森に対して過去に行ったことも原因になっている。シュヴァルツヴァルトを始め、ドイツの多くの場所で育っているトウヒは、成長がいい、植えやすい、管理しやすいということで、人間が意図的に一斉植林したものである。日本で言えば、スギやヒノキに相当する。シュヴァルツヴァルトでは、トウヒはもともと、標高の高い場所の湿地や寒冷地に数パーセント点在する樹種であったが、過去200年余りの間で人間が植林によって増やし、30〜40%の割合を占めるまでになっている。トウヒは、根を浅く張る樹種で、夏の日照りや乾燥に弱い。よって、暖かい乾燥した南斜面などでは、弱りやすく、木食い虫の餌食になりやすい。これに対して、シュヴァルツヴァルトでもともと主力だったブナとモミの木は、根を深く張り、地中深くから水を吸収できるので、日照りや乾燥に耐性がある。風害や虫の害など過去の度重なる森林被害の経験から、土地にあった樹種を増やしていくこと、種の多様性を創出していくことが、ここ20年あまり進められているが、森の木のサイクルは100年以上、ゆっくりとした転換にならざるを得ない。

多様性はリスク分散

広葉樹をはじめとする多様な樹種構成で、大径の優良木(A材)が育った森を持っている所有者は、経済的なダメージの度合いは少ない。トウヒの建築用材には関係のないニッチな市場に材を供給できるからである。「多様性」は経営のリスクを分散させる。これは、数世代に渡ってそのような森づくりが行われてきたからである。温暖化の進行によりますますリスクが大きくなっている単一樹林では、今の世代が将来の世代のために多様性のある森林への転換を進めていかなければならない。木食い虫は、人間にそれを促している、そのための手助けをしてくれている、とも言える。

EICエコナビ 連載コラム「ドイツ黒い森地方の地域創生と持続可能性」へ

耳をすまして

12月初め、日没後の暗く静かな森の中を、手作り提灯を手に持ち、幼稚園の子供と先生と親達が、ギターとフルートの伴奏に合わせクリスマスの童謡を歌いながら歩いて行く。たどり着いた小さな広場で、子供達が一人一人、モミの葉っぱで作った螺旋のサークルにロウソクを置いて行く。森の幼稚での季節の行事の中で、もっとも静かで幻想的なセレモニーです。3人の子供を通じて10年間お世話になったヴァルトキルヒの森の幼稚園。末っ子の娘は来年から小学校なので、今回が私たちにとっては最後。クリスマスシーズンの始まりにあるこの短いイベントは、師走の忙しい時期に、いつもほっと心を落ち着かせてくれました。森の静けさに、音楽に、自分の内面に、耳をすます貴重な時間でした。

日も短く、薄暗いどんよりした天気が続き、視覚による知覚が鈍くなるこの季節、人間は、より耳に頼ります。耳の感覚が鋭くなります。耳は、音を聞くだけでなく、バランス(平衡)感覚を司ります。足元が見えない暗い森の中を歩いて行くときは、内耳の三半規管が働きます。目は、外のものを「探索」する外向的な性格を持った感覚器ですが、耳は、外からの刺激を「聞き入れる」内向的な感覚器です。耳が鋭敏になる冬のクリスマスのシーズンは、人々は内向的に内省的になります。

現代人は、知覚情報の約8割を視覚から得ていると言われています。あらゆるものが、テレビやネットなどあらゆる媒介でビジュアル化され伝達されるなかで、ラジオ番組やステレオで聞く音楽、パワーポイントを使わない語りだけの講演など、聴覚だけで知覚するものが、新鮮で、落ち着きや安らぎ、深い感動を与えてくれることがあります。

耳は、人間の発育の過程でもっとも早く出来上がる感覚器です。胎児の耳の形成は、受精から数日後、胎児がわずか0.9mmの大きさのときに始まります。受精から4ヶ月半後には、音を聞き取る器官である内耳の蝸牛が大人の大きさに出来上がっています。耳は、生まれたばかりの赤ちゃんが生存する上で、もっとも重要な感覚器だからです。

視覚による知覚に偏重した現代人は、耳の大切さを忘れています。

ドイツの哲学者のハイデッカーは、耳を通して考えることの大切さを論じました。聴覚で知覚するほうが、思考のプロセスが、より分化され、より注意深く、より正確に、内向的に進行するということを。

岩手中小企業家同友会 会報「DOYU IWATE」2019年1月号より

WhyとHow

「ドイツではどうなのでしょうか」「ドイツではどうしていますか」日本の視察団からよく発せられる質問です。英語で言うと「How」です。経験的に物事を積み上げ、改善、改良し、その結果としていいモノをつくる、というプロセスが一般的な日本においては、「自然な」質問です。他の場所でどうなのか、どうやっているのかを知り、自分のプロセスの全体もしくは一部の改善のためのお手本にする、という手法です。特に明治以来、日本人はこのやり方を徹底し精錬し、世界をリードするモノを生産し、日本の経済を発展させてきました。

しかし、「How」だけでは見落としてしまうものがあります。それは、日本人が手本として手に取るモノが、どういう考え方、目標、枠組み条件の上にあるのか、という観点です。「なぜそうなのか」「なぜそうしているのか」という「Why」の質問で明らかになるものです。

持続的に成功しているもの、成熟し安定して機能しているものの背景には、古今東西を問わず、明確な哲学とコンセプトと合理性があります。それらの事例を学ぶのに、Howという質問だけでは、表面的で部分的な情報の入手だけに終わってしまう危険があります。Whyという問いかけで、根底にあるもの、背景にあるものを知って初めて有用な情報になります。

Howという質問だけで得た欧州の表面的で部分的な情報やノウハウやモノを、哲学やコンセプトや枠組み条件が異なる日本のプロセスのなかに組み入れ、目の前の問題の解決、改善を試みたが、上手く行かなかった、という事例は残念ながら数多くあります。

小さい頃から学校でも家庭でも社会でも、経験的手法の訓練を受けている日本人は、「お手本」となる事例やモノや人物を求めがちです。

私はドイツの森林の専門家らと10年来、日本でコンサルティング活動をしています。日本の森林と地域の持続的な発展を目標に、日本の森林の立地条件(地質、地形、土壌、気候、植生など)と地理社会条件を抑えた上で、ドイツでの経験と実績を基盤に、「論理的」に日本にマッチしたソリューションを提案してきました。しかし、提案を受けた日本側のレポートや報告では、「ドイツの森林官がそう言いました」「ドイツではこうやっています」といった言葉で説明されることが多く、日本の高山などで、その土地の状況に合わせた、そこで機能する事例ができても、「欧州式」とか表現され、「本質が理解されていない」と歯がゆさを感じてきました。

今年10月に開催された5回目の岩手中小企業家同友会の欧州視察では、「Why」の問いかけが、これまでよりも多くありました。一部の参加者の方からは、「自分の会社を、地域を変えなければならない」という強い思いと使命感、気迫を感じました。

岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」2018年12月号に掲載のコラムより

インクルージョン

先週、岩手中小企業家視察団の第5回目の欧州視察セミナーでした。エネルギーヴェンデをテーマに始まったセミナーでしたが、「持続可能性」を基軸に、農業や森林業、木材産業など、回を追うごとにテーマは広がり、今回は、要望に応え「インクルージョン」の視察も加えて実施しました。

ここ10年あまり、「インクルージョン(=包括、一体性)」という言葉が、ドイツの社会で定着してきました。異なる人々が同等の権利を持って社会活動に参加することです。知的レベルや身体能力、出身地や育った環境、性別などの違いを、みんなが当然のこととして認め、差別や線引きをせずに、協働し、共生することです。類似の言葉に「インテグレーション(= 統合)」があります。こちらは、違いがある人々を社会のなかに「取り込み」ますが、「異なる」人々は、「囲い」のなかに集められ、「普通」の人々と「並行」して共存します。障害者や移民・難民に、特別な施設や住居を提供する従来の福祉政策がそうです。一方で「インクルージョン」においては、「普通」の人々と「異なる」人々が、同等の権利をもって混ざり合い、「一緒」に生活、活動をします。

私の息子は、2013年、小学校入学に際し、インクルージョンクラスに入りました。クラス23人のうち「ハンディキャップ」を持った子供が5人、先生が2人という構成でした。ドイツの小学校は4年間ですが、息子は、多様性のあるクラスのなかで、社会的能力、自己管理能力、判断力、配慮の心などが、より身についたと実感しています。「普通」の子供である息子は、ハンディキャップのある子供を助ける、サポートする役目でしたが、「与える」ことで、多くのものを「受け取り」ました。

今回の同友会の視察でも、インクルージョン企業から、同じような見解や経験談を聞きました。「ハンディキャップのある従業員が入ったことで、会社の雰囲気が変わった。従業員同士のコミュニケーションがポジティブに、親密に変わった」「仕事を丁寧にゆっくりやるようになった」「普通の人と障害者、一緒に仕事をしていると、いったいどちらが障害者なのか、わからなくなるときがある。障害者からたくさん与えてもらった」など。

違いやハンディキャップを「個性」と認識し、それぞれの個性を生かして、仕事の構成と配分をする。仕事内容に人を適合させるのではなく、人の個性に合わせて仕事を再構築し、みんなで一緒に発展させていく。持続可能な企業のコンセプトを学びました。

岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」2018年11月号のコラムより

ヤギのルネッサンス

自給型の小さな農業が主流であった20世紀前半は、多くの南ドイツの農家はヤギを数頭飼って、そのミルクを自分で飲んでいた。しかし戦後、経済復興に伴い農業が合理化され、自給型から販売型へ転換すると、ヤギの頭数は激減した。農家は乳牛を増やし、ミルクを町の工房や工場に販売するようになった。
牛の乳量は当時、1日約20リットル、ヤギは4リットル程度。今日では、品種改良や餌の高栄養化により牛の乳量は1日50リットルを超える。生産効率も販売量も圧倒的に牛が有利である。「ヤギは、貧乏人の牛」と50年代当時言われるようになった。ヤギミルクは、街で牛乳を買えない貧乏人が自分で絞って飲んでいるもの、と。
しかしここ20年あまり、ヤギの乳製品が再び注目を浴び、生産量が増加している。ヤギミルクは、牛乳に比べ、ビタミンやミネラル分が多く、低カロリーで、消化がいい。またチーズは独特の香りがある。「健康」で「グルメ」な乳製品、と過去のイメージからガラリと変わった。価格も牛の乳製品より1.5倍から2倍高い。ヤギのルネッサンスが起こっている。

デザイナーがヤギチーズ農家として起業

手工業的チーズ工房
手工業的チーズ工房

シュヴァルツヴァルト南西部の麓のTenningen村の工業団地に、Monte Ziego(モンテ・ツィーゴ)という社名のチーズ工房がある。周辺10数件のエコ農家からヤギミルクを仕入れヤギチーズを手工業的に生産し、スーパーなどに販売している。オーナーのBuhl(ブール)氏は、元画家・デザイナー、ベルリンでディスコの内装デザインの仕事をしていた。2000年、シュヴァルツヴァルトのシュッタータール村に引っ越すと、そこで2匹のヤギを飼い、「Demeter」のエコ認証を取り、チーズ作りを始めた。大きな生活転換の理由は、単純にヤギ飼育とチーズ作りに以前から興味があったから。チーズ作りのノウハウは自学し、独自のレシピを開発し、生産、直売をした。彼のチーズは、ニッチ製品として通の間で評判を呼び、数年の間にヤギの数も2頭から40頭に増えた。
同時に「エコ」と「健康」に関する消費者の意識の高まりを受け、一般小売市場でのヤギの乳製品の需要も高まっていった。Buhl氏は、生産量に限りがある一農家のヤギチーズ生産・直売を脱皮し、契約農家からミルクを仕入れ、大きな工房でチーズを生産し、スーパーなどに販売する事業転換を決断。2010年に180万ユーロの投資で最新設備のチーズ工房を建設し、一般小売市場向けの生産を開始する。工房が大きくなってもBuhl氏は、品質を求め手工業的な生産にこだわった。大量生産の工場生産のチーズとは風味や食感が違う。エコ認証を受けたミルクによる手工業的生産であるため、量産品と比べ価格は2倍以上であるが、市場での人気は高く、生産量は、年々30%程度の急成長を遂げた。

高い乳価を設定し、酪農家の転換を促す

市場からの高い需要に応えて生産量を伸ばすためには、ヤギミルクを供給する契約農家を増やさなければならなかった。当初、数件の農家から始めたものが、現在12件の契約農家に増えた。一件あたり20匹から200匹のヤギを飼っている。全てDemeterのエコ認証を受けている。
社長のBuhl氏は、ヤギミルクの仕入れ単価を、当初から牛乳の2倍以上に設定し、周辺の乳牛酪農家に、牛からヤギへの転換を促して行った。乳牛酪農家は、ヨーロッパでの牛乳の過剰生産とそれに伴う乳価の低迷により、ここ10年以上、経営が困難な状況に陥っている。農家が牛乳工場に支払ってもらえる乳価は、ここ数年1リットルあたり20~30セント(26円から39円)で推移している。普通に経営していくためには40セントは必要だと言われている。酪農家は、EUの直接支払い補助金に頼ってなんとか経営を続けている状況である。過去数年で小さな乳牛酪農家の多くが、経営的に厳しくなり牛乳生産を辞めてしまった。
ミルクを高く買ってもらえるヤギ酪農に転換することは、牛乳価格の低迷で苦しむシュヴァルツヴァルトの小さな農家が経営を継続するための将来の展望でもある。現在、Monte Ziego社が農家に支払う単価は1リットル86セント。ドイツでもっとも高い買取価格である。「意図的に一番高い価格にして、それによって転換を促したい」と社長のBuhl氏は地方紙のインタビューで話している。ただしヤギは、1匹あたり1日4リットルと、牛1頭の10分の1の量しか生産しない。また冬場は乳量が少なくなる。よって農家の決断はそう簡単ではない。
観光保養地でもあるシュヴァルツヴァルトの美しい農村景観は、森林と牧草地と点在する農家の建物の3要素で成り立っている。酪農、林業、民宿業と複合的な経営を行っている家族経営の農家は、農村景観と観光業のために欠かせない。Monte Ziego社は、ヤギチーズを生産することによって、シュヴァルツヴァルトの農業と文化、景観を維持発展することに寄与することを企業目標の一つとしている。体の小さいヤギは、牛が立てない急斜面の牧草地の「景観管理(草刈り)」もしてくれる。

手工業的なエコ製品と乳清のエネルギー利用

フレッシュチーズ
フレッシュチーズ

ハーブ入りフェタチーズ
ハーブ入りフェタチーズ

現在、12の契約ヤギ農家の合計約12,000匹のヤギから年間80万リットルのヤギミルクがチーズ工房に出荷されている。工房では、20種類以上のヤギチーズが生産され、約20人の従業員が2交代で働いている。オリーブやチリを入れたフレッシュチーズや、バーベキューで焼いて食べるフェタチーズなどが人気の商品である。工房の責任者でチーズマイスターのバルマイヤー氏に中を案内してもらった。最新設備であるが、型をひっくり返したり、チーズの上にハーブを撒いたりする作業など、きめ細かに、人の手によって行っている。「品質の高さと多品種は、手工業的な生産だからできる」と誇りをもってマイスターが話してくれた。製品は、過去数年で様々な賞を受けている。

乳清バイオガスタンク
乳清バイオガスタンク

エコ製品を製造しているこの工房であるが、製造に必要なエネルギーにおいても「エコ」を追求している。工房の屋根には最初からソーラーパネルを設置しエコ電力を生産、2014年には、製造の過程で生じる乳清(ホエー)を使ったバイオガスエネルギー装置を設置し、世界初のゼロエネルギーチーズ工房を達成した。乳清(ホエー)とは、チーズを作る際に、牛乳から乳脂肪やガゼインというチーズの原料が取り出されたあとの残りの水溶液である。多くのチーズ工房や工場では、これが廃棄物として処理されているが、高たんぱく質、低脂肪で、栄養価、エネルギー価は高く、食品、豚の餌、化粧品などとして利用されているケースもある。Monte Ziego社は、この副産物をエネルギーとして利用することに決めた。年間1,170m3のホエーから、4万8,000m3のバイオガスが生産され、それが電気出力18kW、熱出力36kWのタービンで燃やされ、工場での電気、熱源(冷蔵庫も)として使用されている。熱は自給できており、電気は足りない時間帯はエコ電力会社の電気を購入しているが、バイオガス装置が動いていて工房が生産していない夜間は余剰電力を売っているので、年間収支ではプラスになっており、だからゼロエネルギー工房である。

現在この工房は、隣の空き地に、粉ミルクを製造する工場を建設している。赤ちゃん用の健康なエコの粉ミルクとして販売される予定である。隣のスイスの販売業者からの需要に応えたものだ。現在の数倍の量のヤギミルクが必要になるが、それは、納入範囲を現在の50km圏内から300km圏内くらいに広げて対応する予定だそうだ。

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健康な省エネ建築(5) 調湿

建物内の湿気は、カビや躯体腐れを発生させる原因であり、しっかりとしたマネージメントができていないと、人間の健康被害や建物の損傷を生みます。

湿気は、空気中の水蒸気です。空気が含有することができる最大水蒸気量は、温度によって変わります。温度が高いほど、空気はより多くの水蒸気を含有することができます。例えば、気温が20度の時は、空気は1m3あたり、最大17.3gの水蒸気を含有できます。0度になると、それが4.8gになります。この最大値を飽和点といいます。この気温によって異なる飽和点を基準値にした湿度を「相対湿度」といいます。同じ水蒸気量でも、気温が低いほど相対湿度は高くなります。水蒸気の量が飽和点を越えると(相対湿度が100%を越えると)、余剰分が水滴になります。例えば冬場、建物内の暖かい空気が、外に移動する際に冷やされると、飽和点を超えた余剰水分が水滴になり、建築マテリアルに付着します。これが「結露」と呼ばれる現象です。

湿気(水蒸気)は熱と同様に移動します。移動の原則は、下記の3つがあります。

1)拡散

水蒸気は、外部からの力が働かなくとも、水蒸気圧(相対湿度)が高いところから低いところに移動し、平衡状態に近づいていきます。この現象を拡散といいます。これは気体と個体間でも起こります。

ただし個体には、水蒸気を透しやすいものと透しにくいものがあります。この性質は、

水蒸気拡散抵抗係数μ=空気の透湿率(kg/msPa)/個体の透湿率(kg/msPa)

で表されます。μ値が低いほと、その個体(建材)は水蒸気を透しやすいと言えます。例えば、麻や綿や羊毛のμ値は1-5 、木質繊維材や石膏ボードも5-10と低く、これらは水蒸気を透しやすい建材です。無垢の木材はμ値=40と空気の40倍の水蒸気拡散抵抗値あります。レンガは50-100、コンクリートは70-150あります。

湿った建材が、空気の流れがなくとも、時間が経つと乾いていく現象は、この拡散の法則に基づいています。

2)対流

空気は温度差によって流れが発生しますが、この空気の流れによって湿気は移動します。

代表的な例が、「隙間風」です。建物の気密性が低い箇所で起こります。隙間風(対流)は、拡散より遥かにたくさんの湿気を移動させます。例えば、暖かい室内の空気が、建物の隙間箇所での対流で外部に移動する際、建材の温度が低いと、相対湿度が高くなり、飽和点に達すると水滴となり、内部の建材を湿らせ、腐れ損傷の原因になります。また、寒い地域では、湿った内部建材が、冬場凍結することもあり、そうなるとひび割れが起こったり、氷によって湿気の拡散が遮断されてさらに水分が溜まり、さらなる損傷をもたらすこともあります。

3)毛管現象

水は、狭い隙間や細い管に、重力に逆らって引きつけられる(吸着し吸収される)性質を持っています。

多くの建材には微細な孔があり、建材の表面にある孔は外気に向けて開かれています。孔の直径が0.1mmより小さく、それらが管路で繋がっているものを「毛管」と呼び、毛管が豊富な多孔性のマテリアルほど、水分を吸着させ吸収する力が高くなります。毛管による湿気の移動は、基本的に拡散のそれより遥かに大きいです。

吸湿と放湿による調湿

室内の建材は、室内の相対湿度が高いときに、拡散と毛管現象に基づいて、室内空気から水蒸気を吸収し(=吸湿)、室内の相対湿度が低くなると、室内に向けて水蒸気を放出(=放湿)し、室内の湿度を調整(=調湿)する機能をもっています。基本的に、拡散抵抗係数が低く、毛管現象が起こりやすい多孔なマテリアルほど、その調湿機能は高くなります。下記は、フラウンホーファーIRB出版(2012年)の書物のなかの各マテリアルの吸湿性能です。室温21度の状態で、相対湿度を50%から80%に上げた際の、24時間後の吸湿度を示しています。伝統的なマテリアルである土や木が高い調湿機能を持っていることがわかります。

土(粘土質):         210 g/m2

トウヒ材(表面かんな仕上げ): 70 g/m2

土塗り壁(Illit-Semektit):    65g/m

気泡コンクリート :                   55g/m2

石灰-セメント塗り壁:                    45g/m2

石膏塗り壁:                                 35g/m2

コンクリート B25、レンガ:        25g/m2

湿気による建材のカビや腐れの問題は、断熱と気密に偏重した省エネ住宅や省エネリフォームの普及の発展段階で助長されてきました。

蓄熱性の低い断熱材の利用、透湿、調湿性能の異なるマテリアルの組み合わせ、気密、防湿シートやテープの使用、ヒートブリッチを起こす設計ミスや施工ミスから来ているものです。問題を解決するために、機械換気(強制換気)が導入されましたが、その使用がさらなる健康上のリスクも生み出しています。

解決策のヒントは、数百年、もしくは数千年実証されている伝統建築の中にあります。蓄熱と調湿に重きをおいたマテリアルの組み合わせです。気密テープもシートも使用することなく、機械換気も使用することなく、蓄熱と調湿性能の高いマテリアルの組み合わせで、現代に求められる断熱と気密性能、空気交換機能を達成している事例があります。

ドイツ/オーストリア視察セミナー 「木と土と藁の建築」

健康な省エネ建築(4) 窓と太陽光

建物の窓の第一の機能は、室内に光(太陽光)を取り入れることです。

太陽光は、人間の健康にとって欠かせないもので、セロトニン(幸せホルモン)とメラトニン(睡眠ホルモン)の生成、分泌、調節作用に働きかけ、脳と体の覚醒、精神の安定に寄与します。

窓は、省エネの観点では、太陽の熱エネルギーを取り入れる機能もあります。窓から入る太陽放射によって、壁や建具が熱を帯び、それらが室内に熱を放射(輻射)します。冬場の自然の熱源で、これをうまく生かすことで暖房コストを抑えることができます。夏は、部屋を涼しく保つため、太陽放射を室内に入れないように、庇(ひさし)やブラインド、シャッター、カーテン等で、遮光を行わなければなりません。

ただし、断熱の観点では、窓は、壁材より断熱性能が低く、室内の熱が外に出て行きやすい弱点の箇所でもあります。だからこそ、ここ数十年、窓の断熱性能をより高くする商品開発とその普及が進みました。ダブルやトリプルガラスのユニットで、断熱性能強化のために、密閉構造の中間層(ガラスとガラスの間)にはアルゴンなどの希ガスが注入され、遮熱性能を高めるためにガラスには特殊な金属膜コーティングがされた、高断熱窓です。省エネ住宅のスタンダードになっています。

高断熱窓の普及はしかし、窓の第一の機能である、太陽光の取り入れを一部制限してしまっています。

太陽光は電磁波ですが、人間の目が知覚できる波長は、380 nm(ナノメーター)の紫外線の領域から、紫、緑、黄色、オレンジ、赤の領域と来て、780 nmまでです。

複層ガラスで、間に希ガスが注入され金属膜コーティングされている高断熱窓は、従来の1枚ガラスの窓に比べ、10%から20%くらい、光透過性能がそもそも落ちます。そのなかで、できるだけ「明るく」するために、人間の目の感度が一番高い、可視光線領域の真中である550 nm(黄緑の部分)の波長の光をもっとも取り入れるように製造開発されたガラスが、ほとんどの高断熱窓で使用されています。

太陽光は、人間の脳と体の覚醒と、精神の安定に大きな影響を与える、健康上大切な要素です。人間の目の感度が一番高い部分の波長の透過に照準をあてたガラスを使用することは、最適な解決方法のように思えます。しかし、最新の医学の研究から、可視光領域の低い波長の部分、波長460 nm(青色)領域の光が、セロトニン(幸せホルモン)とメラトニン(睡眠ホルモン)の生成、分泌、調節作用に大きな意味をもっていることが判っています。高断熱窓の多くは、紫外線から青色の波長の光の透過性能が低く、それが、特に日射量が少ない冬場、鬱症状や集中力不足など、健康障害の原因の一つになっていることが論じられています。また紫外線は浴びすぎると肌によくないですが、紫外線がバクテリアや菌を殺す殺菌作用があり、適度に室内に取り入れることの重要性も指摘されています。

また、高断熱窓が必要かどうかについて、物理の原則に基づく重要な指摘もあります。

普通のガラスマテリアルは、室内の壁や家具や人から放射(輻射)される熱(赤外線や遠赤外線)を透過させない性質を持っています。よって、対流式ではなく放射式の暖房システムの家であれば、高断熱窓は必ずしも必要ではありません。複層断熱窓が市場に出て来た80年代以前に中央ヨーロッパで普及していた、箱型二重窓や、ダブルフレーム複合窓(一枚ガラスのフレームが2つ組み合わされ一体になったもの)が、とりわけ古建築の修復や健康住宅で、見直されてきています。これら伝統的な窓は、現代の技術で断熱性能も高まり、静かなルネッサンスが起こっています。断熱性能や遮熱性能を上げるための希ガスも入っていない、金属膜のコーティングもしていないので、人間の心身のバランスにとって大切な紫から青い波長の光も十分に取り入れます。また、ガラスとガラスの隙間が大きい箱型二重窓やダブルフレーム複合窓は、多くの場合、遮音の観点で、高断熱窓より優れています。

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健康な省エネ建築(3) 放射熱

省エネ建築の中心的な課題は、「熱」をうまく効率的にマネージメントすることです。

では「熱」とは一体なんでしょうか?

熱とは、物理学的には、簡単に言うと、「分子の運動エネルギー(=分子の振動)」のことです。

熱は、物質間で伝達されます。そのプロセスには、「伝導」「対流」「放射」の3種類があります。

「熱伝導」とは、

個体内部、もしくは接触している個体間、さらには個体と静止している流体(液体・気体)間で熱が伝わる現象です。

熱伝導とは、個体において、分子の位置自体は移動することなく(静止)、分子の振動(=熱エネルギー)だけが隣接する分子に伝搬されていくことです。

断熱材の性能の基準になっている熱伝導率(W/m・K)は、この現象における断熱材内の熱の伝わり度合いを示しています。

「熱対流」とは、

分子が自由に動くことができる水や空気のような流体(液体・気体)において、分子の移動によって熱が運搬される現象です。流体は熱を持つと膨張し軽くなり上昇し、熱を失うと収縮し重くなり下降します。この流体の温度差によって起こる対流を自然対流といいます。一方、外部からの動力(風など)によって起こる対流を強制対流といいます。

「熱放射(輻射)」とは、上の2つは全く違う次元と性質のものです。

それは、熱エネルギーを持った物質が放つ電磁波のことです。電磁波とは、空間の電場と磁場によって形成される波(波動)で、代表的なものは光やX線、レーザー、テレビやラジオの電波などが挙げられますが、熱放射もこれと同類です。電磁波は、物質のない真空でも移動します。放射による熱伝達とは、電磁波が分子にあたり、分子に運動エネルギー(=熱)を与えることです。

放射の代表例は太陽光です。超高温の太陽は強力な電磁波を発していますが、それが真空の宇宙空間を通って地球に降り注ぎ、人間の体の細胞に吸収され、分子の運動が起こり、人間は熱を感じます。

熱エネルギーを持った全ての物質は放射熱(赤外線)を発します。人間の体も、壁も家具も。

伝導対流は、温度差媒介となる物質の接触と移動によって起こります。熱力学の理論です。

一方、放射は、温度差は必要とせず、放射するマテリアルの絶対温度(K)に由来し、媒介となる物質を必要としません。こちらは量子力学の理論です。

室内の熱のマネージメントの重要な部分を担う冷暖房機器。その多くは、対流放射の両方の原理を同時に活用していますが、どちらの比率が高いかによって、対流式放射式に分類されます。

対流式の代表例は、エアコンや放熱器(ラジエーター)です。エアコンは、外部動力(ファン)と温度差による自然対流を、放熱器は自然対流を利用しています。

放射式の暖房システムとしては、壁暖房、蓄熱ストーブ、赤外線ヒーター、床暖房などが挙げられます。ただし床暖房は、室内の上下で温度差を生じさせてしまうので、対流の割合も比較的多く(40%)、放射式のカテゴリーに含めない場合もあります。

人間の健康、快適さ、省エネの観点でこの2つを比べる、放射式が明らかに優っています。

空気という媒体を使って、温度差で熱を移動させる対流式においては、空気が動くので、室内の埃や有害物質が舞い立てられ、また室内の温度差が生じ、人間の健康に悪影響を与えます。

一方、電磁波(遠赤外線)で体の内部を温める放射式の場合は、熱の移動に空気という媒介を必要としないため、低い室内温度で高い体感温度をもたらし、壁暖房や蓄熱ペチカストーブなどのような横からの放射熱の場合は、空気はほとんど動かず静かで、室内の空気の温度差もほとんど生じません。

空気を温める必要がある対流式のラジエーターには60~70度の温水が必要ですが、その必要性がない放射式の壁暖房は25度前後の温水で足りるので、省エネの観点からも有利です。

放射熱は、暖房だけではありません。太陽の日射も放射熱です。これもうまく取り入れることができれば、さらに省エネにつながります。この太陽と暖房の放射熱をうまく効果的に活用するための前提は、躯体の外側にも内側にも蓄熱性能の高いマテリアルが使用されていることです。