木の生存コンセプト(DOYU IWATE 5月号)

木は地球上でもっと背が高く、もっとも長生きする生き物で、地球上の生物の総重量の84%を占めています。ここ10数年あまりの最新の生物学の研究では、木を始めとする植物が、人間や動物と同じようにコミュニケーションを取っている、学習能力があることが実証されています。

ギブ&テイク

木は根から栄養を吸収していますが、そのために欠かせないのは菌根菌です。この菌は木の根の先端部に棲みつき、木に対して、土壌中の栄養分を、木の根が吸収しやすい形にして「提供」し、その代償として、木が光合成で生成した糖分を「受取り」ます。またその時々の状況に応じて、菌根菌が与えるものの中身(レシピ)は変わります。例えば、木が木喰い虫に食べられ始めた際、防御物質である樹脂をたくさん生産しなければなりませんが、木は根を通して菌根菌にシグナルを送り、菌はすぐにそれに反応し、提供する栄養物の構成を変えます。

次世代への配慮

木が「子供への配慮」も行なっていることが、最近の研究で証明されています。まだ小さく弱く「自活」できない稚樹に対して、母樹は、自分たちだけでなく子供にも栄養を補給するように、菌根菌にシグナルを出します。

協働で対策

また木は、危機的な状況に対して仲間に知らせ、共同で対策を実践し、また将来に備え戦略の変更もします。木喰い虫に食われた木は、他の仲間の木に対して空気を通してフェロモンの信号を送り、仲間はそれに反応し、菌根菌の助けを借りて樹脂を樹皮部分に集め防御体制を整えます。夏の日照りで乾燥が続いたときは、「みんな」で一緒に光合成の生産量を減らし、水不足に対応します。またそのような問題が数年続いたときは、葉っぱを小さくする(遺伝子コードを変える)、という戦略の変更をして将来に備えます。

木の「生存コンセプト」は次の4つです。

①相互扶助と同じ目線のパートナーシップ、
②弱いものを助け育てる、
③いいことも悪いことも迅速に正直にコミュニケーションをし、協働で対策を講じる、
④蓄積した経験で、将来への備えをし、必要な場合は、成長戦略も変える

木は、ブレない目標をもっています。長く持続的に生きるということです。それは、「みんな」一緒に協働してこそ達成できる目標です。

 

岩手中小企業家同友会の会誌「DOYU IWATE」の連載コラムより

農のある暮らし(DOYU IWATE 2018年4月)

雪が降ったかと思うと次の週には雨が降り、その後比較的暖かい日が続き、もう冬は終わりかなと思った2月末に、マイナス10度を下回る寒波がやってきて、次の週にはまた春日和の天気になる、というふうに、今年のドイツは不安定な冬でしたが、3月も半ばに差し掛かったここ数日は、鳥のさえずりも聞こえはじめ、草木の芽ももうすぐ芽生え始めそうな雰囲気になってきました。春の息吹が聞こえてきます。

私の家族は昨年の3月に、10年前から住んでいるヴァルトキルヒ市内で、郊外の一軒家に引っ越し、敷地内の8畳ほどの小さな畑ですが菜園を始めました。昨年は、引っ越してすぐでいろいろ忙しく、家族のメンバーが、植えたいもの、食べたいものを、無計画に無作為にごちゃ混ぜに植えました。森林学で学んだ「多様性はリスクを分散させる」の原則に則って(あとで付けた理屈ですが)。多少は虫に食われましたが、思った以上に野菜やハーブは育ち、子供達と我が家の食卓を喜ばせてくれました。生態学的には、植物には相性があるようです。例えば、キャベツ類とトマトを一緒に植えると、キャベツに蝶の幼虫がつきにくくなり、トマトの葉っぱが菌類による病気になるのを抑えられます。逆に相性の悪い組み合わせもあります。お互いに悪い影響を与え合うものです。例えば、キュウリは、ジャガイモと相性が良くないようです。

今年は、本も揃えましたし、前もって勉強し、コンセプトを作って計画的に植えて育てようと思っています。立派な菜園を持つ経験豊かな隣のおじいさんが、数日前から畑仕事を始めました。私たちもそろそろ苗床の準備に取り掛からなければなりません。

田舎では土地がありますが、都市部で限られています。庭を持てない都市住民には、伝統的には、鉄道の空き地などで「市民農園」があります。希望する家族や個人に決まった区画が安い賃料で与えられています(人気があり数年の待ちがあります)。賃貸人にとっては、土と植物に触れ、リラックスできる重要な生活空間です。一方で、ここ10数年、総称で「アーバンガーデニング」と名づけられている新しいタイプの市民農園が増えています。区画分けをしないで、メンバー共同で一つの菜園を管理運営する、というものです。そこでは、人と人の「交流」がテーマです。定期的に小さな催し物やイベントも開催されています。移民が多い都市部では、異文化交流、異文化理解の場になっています。人口350万人のドイツの首都ベルリンには、30箇所以上のアーバンガーデニング農園があります。コンクリートと砂利の空き地の上に、移動可能な高床式の畑をつくり、屋外レストラン&カフェを運営している農園もあります。

岩手中小企業同友会 会報「DOUYU IWATE」2018年4月号より

視察セミナー「都市農業+食育」「グリーンインフラ」 の情報

廃屋に生命を! (EICエコナビ・コラム002)

環境首都で有名なドイツ南西部のフライブルク市近郊、シュヴァルツヴァルト(黒い森)の麓、氷河で削られてできたU字型の底広のドライザム谷に、人口約9700人のキルヒツァルテン(Kirchzarten)村がある。この村の商店街から300mほど離れた場所に、今年始め、新しい「村の中心」がオープンした。

文化財の廃屋をどうするか

新しい「村の中心」ができた場所には、18世紀後半から19世紀始めにかけて建設され、ここ40年あまり放置されていた2つの大きな納屋と水車小屋があった。隣にある小さなお城に付属する建物で、100年前まではここが村の中心部であった。村が所有する築200年以上の3つの古建築は、文化財に指定されていたが、最近は、ときどき野外イベントやお祭りで使用する程度で、廃屋になっていた。この建物を今後どうするか、村行政の大きな課題であった。
2014年、村議会は、3つの廃屋を改修(リフォーム)し、2つの納屋は、村役場の村民窓口、イベントホール、図書館と多目的な空間に、水車小屋は、村のエネルギー・水道会社の事務所にすることを決議した。

市民コミュニティセンターに生まれ変わった納屋
市民コミュニティセンターに生まれ変わった納屋

新しい村役場の村民窓口
新しい村役場の村民窓口

古い建物が壊されるのは自分の故郷が奪われる思い

改修事業の元請けになったのは、村に事務所を置くSutter3(スッター3)社。社長のヴィリー・スッター氏は約30年、シュヴァルツヴァルト地域で、100件以上の古建築の改修を手がけているこの分野のスペシャリストである。1980年代初頭に職業学校を出て工務店や住宅設備工事の会社で数年経験を積んだあと、独立して古建築の改修を開始した。
80年代当時、彼の生まれ故郷のシュヴァルツヴァルトのティティゼー・ノイシュタット市では、住宅ブームで、たくさんの古い建物が壊されて、新築の家が建てられていた。スッター氏にとっては、趣と雰囲気がある古い建物が解体されていくのは、自分が慣れ親しんだ故郷がどんどん奪われるような気持ちだった。少しでも歯止めをかけようと、農家の古い納屋や空き家になっている古建築を見つけては、所有者と交渉し、買取り、改修した。出来上がった建物は、転売するか、もしくは自社で所有して住宅やオフィスとして賃貸する事業を1980年代終わりころから開始した。誰も手をつけようとしない廃屋の建物や文化財に指定され改修の条件も厳しい物件を、丁寧にしかも経済的に改修し、新しく蘇らせていった。

古建築改修のプロフェッショナル ヴィリー・スッター氏
古建築改修のプロフェッショナル ヴィリー・スッター氏

1990年代の末に、ある社会福祉住宅の事業を請け負った際、長期失業者や前科がある人たちに出会った。彼らの人生や抱えている問題に心を打たれたスッター氏は、社会福祉の専門家と一緒に、彼らの社会復帰をサポートするための新たな会社を設立した。誰も好んで受け入れようとしない人たちを、建設業の労働者として雇い、教育・養成した。改修した建物のいくつかを会社で所有し、過去の履歴から住まいを見つけるのも困難な社員や似たような状況にある社会的弱者に安く賃貸している。

古建築リフォームで、適切な省エネ化

キルヒツァルテン村のプロジェクトは、プランニングから建設まで約3年かかった。文化財に指定されている建物の改修の際、もっとも手間がかかるのが、文化財保護局との綿密な打ち合わせと調整作業である。オリジナルのマテリアルをできる限り残すことが要求されるからだ。
スッター氏は、豊富な経験と設計施工上のアイデアで、石の壁や木の梁や柱、内壁板、天井板など、80%を維持することに成功した。基本的にどの古建築改修の事業でも、建物を利用する人たちの健康配慮とマテリアルの耐久性を向上させるために、湿った石の除湿作業、古い梁や柱、板の除虫作業(60℃の暖気で燻す)を施している。窓は、大部分を、最新の断熱性能をもった、古建築にもマッチする木製サッシを取り付けた。光をたくさん取り入れるために、天窓も取り付けている。屋根には、30cmのセルロース断熱材、床天井にも断熱材とコンクリートを入れて、省エネと、防音対策をした。一方、外枠の石壁には、断熱施工はしていない。文化財に指定されている建物は、外観を変えることが法律上制限されており、外断熱はできない。内断熱という方法があるが、結露の問題を起こしやすくなる。
「石壁の調湿呼吸性能を維持するためにも、ここに断熱はしない」とスッター氏。「石壁は分厚く、蓄熱効果がある。屋根と床天井にしっかり断熱し、性能のいいサッシをつければ十分」とスッター氏は言う。
暖房の熱源はペレットボイラーで、建物のエネルギー性能的には、新築の基準に近い、年間の一次エネルギー需要100kW/m2を達成している。機械換気はたくさんの人が出入りする屋根裏のホール以外取り付けていない。
「メンテナンスの手間とコスト、それを怠ることによるバクテリアやカビの発生などの問題があるので、私の事業では機械換気は極力入れない。呼吸する壁材であれば、換気口による自然換気と、窓の開閉による換気で十分」という。

古いものとモダンの心地いい融合

古いものとモダンが融合した心地よい図書館の空間
古いものとモダンが融合した心地よい図書館の空間

かつて納屋として使われていた2つの建物の中をスッター氏に案内してもらった。窓とガラスの仕切り壁で、光を取り入れた明るい空間。200年以上前の石壁とこげ茶色の木の梁や柱、天井や壁板のなかに、白を基調にしたモダンな建具と内装、スマートなデザインのLED照明が、石と木とモダンな建具に柔らかい光を照らす。古い梁や柱は、構造強度を高めるために、ところどころ目立たないように鉄骨で補強されている。古いものとモダンなものが、機能的に絶妙のバランスで組み合わされ、心地よく温かみがある空間を作っている。室内の空気もいい。

一つの納屋は村役場と屋根裏ホール、もう一つの納屋は市民図書館に生まれ変わった。2つの建物の2階部分がガラス張りの橋廊下で繋がれている。階段が設置される公共建築物には、火災保護法の規定により、階段室をコンクリートの内壁で囲って高価な防火扉を各階に取り付けることが義務化されているが、スッター氏は橋廊下を火事の際の避難経路にすることで、コンクリート内壁も防火扉も設置しないで済むようにし、大幅にコストを削減するとともに、区切りがない広くオープンな空間の創出を実現した。
古建築の改修、とくに文化財に指定されているものの改修は、新築以上にお金がかかることが稀ではないが、スッター氏は、長年の経験と奇抜なアイデアによって、ほとんどの事業で、新築より安く抑えている。3つの建物の建具と外の敷地の造成も含めた総工費は680万ユーロ(約9億円)。文化財であるので、村は州から20%の助成金をもらっている。建物の延べ床面積は合わせて約2350平米なので、平米あたりのコストは約2900ユーロ。一般公共建築物の新築のレベルと変わらない。
「これだけの機能と性能を新築で出す場合、平米あたり3200ユーロはするから、むしろ新築より安い」とスッター氏は補足説明する。

新しく生命を吹き込まれた古建築は、村民の心を捉えた

屋根裏の村民ホール
屋根裏の村民ホール

新しい村役場と村民ホール、図書館は、今年1月半ばにオープンしてから、「信じられない。あの廃屋がこんな素晴らしい建物に変わるなんて」と、多くの村民に好評である。
村長のアンドレアス・ハル氏は、「当初、多額の経費がかかるこのプロジェクトの意義に疑問をもっていた一部の村民も、出来上がったものを体感し感銘してくれている」と満足している。
村のお荷物だった廃屋の文化財に、スッター3社を中心とする地域の建設業者によって、新しい生命が吹き込まれ、心地よいコミュニティ空間になった。

現在スッター3社は、50km圏内を中心に、約20件の古建築物改修のプロジェクトを同時並行で行なっている。廃墟だった古建築が、レストランやカフェ、イベントホール、診療所やスーパーとして、次々に生まれ変わっている。

EICエコナビ 連載コラム「ドイツ黒い森地方の地域創生と持続可能性」へ

ドイツ視察セミナー「木の建築」「森林業」の情報

冬を買う −人口降雪機に未来はあるか? (EICエコナビ・コラム001)

ホワイトクリスマス

今年は数年ぶりにホワイトクリスマスになりそうだ。
私が住む南西ドイツ・シュヴァルツヴァルトは、標高1000m前後の山々が連なる地域。面積は長野県の3分の2くらいで、森林と牧草地がモザイク状に連なる牧歌的な風景が全体を覆う観光保養地である。年間宿泊数は延数で2000万泊、春から秋にかけてはハイキングやマウンテンバイク、冬はアルペンスキーやクロスカントリーが定番である。
ここ数年は、温暖化の影響で、スキー関連施設がたくさんの売り上げを期待できるクリスマスと年末年始に雪が降らなかった。昨シーズンは、標高1000mを超えるところでも、日中の気温が10度以上、平地のラインの平野で1月初めに桜が芽吹いた。

温暖化の影響で減ってきた降雪量

フェルドベルクスキー場
フェルドベルクスキー場

シュヴァルツヴァルトのスキー場は、そのほとんどがリフトが2つか3つくらいの小さなものであるが、標高1500m弱のシュヴァルツヴァルトで一番高い山フェルドベルクに14のリフトを操業する中規模スキー場がある。このフェルドベルクに隣接する自治体にとっては、スキー産業クラスターは重要な地域の経済基盤である。
ケルン大学スポーツ学研究所の試算によれば、フェルドベルク区域のウィンタースポーツ産業クラスターの年間の経済総生産は約8000万ユーロ(約105億円)で、この部門の自治体の税収は700万ユーロ(約9.3億円)もある。
フェルドベルクは、中級山岳地域のシュヴァルツヴァルトのなかにあって、アルプス地域と類似の気候で、寒く雪も多い場所であるが、温暖化の影響で、降雪量は過去数十年明らかに減っている。このスキー場が経済的にプラスでやっていくためには、年間100日以上リフトが稼働しなければならないが、12月半ばから4月半ばまでの期間、30cm以上の雪をなんとか維持するためには、人工降雪機を備えないとやっていけなくなっている。約30kmの滑走コースのうち10km(約20ヘクタール)で、約100台の人工降雪機を装備し、雪を補足している。それでもここ数年、100日のリフト稼働を維持するのが難しくなっている。

人工雪のつくり方

一般的な人工降雪機
一般的な人工降雪機

人工降雪機で雪をつくるのには、まず原料として大量の「水」が必要になる。ヨーロッパアルプス地域スキー場では、1haあたり1シーズンおよそ4000m3の水が必要になる。フェルトベルクでは1シーズンでおよそ80000m3の水を使用しているが、自然の雪水や雨水を人工の溜池に貯水して使っている。
「空からその場所に降ってきた自然の水で、それが人工雪となってその場所に撒かれる。原料は水だけで添加物もいれないので、自然環境への悪影響はほぼない」
スキー場運営事業体はそう主張するが、自然保護団体のNABUやBUNDは、
「自然の小川や周りの土地に分散される水が貯水池に集中するので、他の場所での水不足を招き、凍りやすくなり、生態系に悪影響を及ぼす」
と批判的な見解をもっている。

温暖化によって減った降雪の問題を解決するために大量にエネルギーを消費し、それがさらに温暖化を進めることになる

人工降雪機を稼働させるためのエネルギー使用量も問題視されている。フェルドベルクは約10km、約20ヘクタールの滑走コースに雪を補足するのに、年間約25万キロワット時のエネルギーを消費している。これは、約62世帯分のエネルギー消費量に相当する。
フェルドベルクだけみると、それほど大きな消費量ではないが、その他多くのスキー場で稼働する人工降雪機のエネルギー消費量を合わせると、かなりの量になる。
自然保護団体BUNDのレポートによれば、アルプス地域(オーストリア、スロベニア、イタリア、ドイツ、スイス、フランス)のスキー場の滑走コース約10万ヘクタールのうち、7万ヘクタールが人工降雪機を備えている(2014年の調査)。年間の予想エネルギー消費量は2100GWhにもなり、約50万世帯分に相当する。
温暖化で雪が少ないという問題を解決するために、大量のエネルギーを消費し、温暖化をさらに助長している、という悪循環の構図がある。
ドイツスキー連盟によると、人工降雪設備(貯水池、変圧機、降雪マシン、送水ポンプとパイプなど必要な設備すべて)の設置には、コース1kmあたり65万ユーロ(約8600万円)の初期投資費用がかかる。スイスでは、平均100万スイスフラン(約1億2700万円)である。さらに年間の経費は、ドイツで1kmあたり約35,000ユーロかかっている。

中規模以上のスキー場がある地域では、スキーは地域経済の需要な柱であり、多くの人の生活が支えられている。シュヴァルツヴァルトのフェルトベルクのような小さなスキーリゾート地でも、約2000人が本業や副業に従事している。シュヴァルツヴァルト地域は、ハイキングやマウンテンバイクなど夏の観光も盛んで、その中にあるフェルトベルク区域も宿泊数では夏が多いが、宿泊客が1日に落としていくお金は、スキーがある冬のほうが数倍多い。だからスキー場の運営主体であるフェルドベルク村も、スキーリフトの稼働日数を維持するために、高価で水とエネルギーをたくさん必要とする人工降雪設備に、過去10数年、多大な投資をしてきた。

技術的な措置で「冬を追加購入する」という解決手段は、限界に近付いている

しかし、温暖化は進む一方。雪が少なくなるほど年間経費は高くなり、人工降雪機へのさらなる投資の需要も増してくる。現在使用されている人工降雪機は、夜間気温がマイナス4度以下になってはじめて機能する。また貯水槽のなかに前もって十分な水がたまるくらい雨や雪が降っていなければならない。それらの前提条件が整わない日も増えている。昨年のクリスマスは、暖かすぎて、人工降雪機が稼働できず、スキー場のリフトは動かなかった。
温暖化が進み、降雪量が少なくなることは、専門的研究機関のシミュレーションでも明らかになっている。お金とエネルギーと水を使い、技術的な措置で「冬を追加購入する」という解決手段は、ヨーロッパでは、環境負荷の面でも、経済的な面でも限界に近づいている。すでに限界を超えて大きな問題になっている事例もある。

冬の観光はスキーだけではない。冬山散策や博物館、スパなど、観光やレジャーの多様性は増してきている。自然保護団体などを中心に、スキーだけに拘ること、それだけに多額で不確実な投資をし、しかも環境に負荷を与えることを批判する声が高まっている。
「現在のようにスキーができなくなる近い将来のことを考えて、オルタナティブな観光、レジャーに多面的な投資をしていくべきだ」と。

EICエコナビ 連載コラム「ドイツ黒い森地域の地域創生と持続可能性」

視察セミナー 「屋根+木」展 黒い森

2018年2月末に、「屋根+木展 & 黒い森」というタイトルで視察セミナーを開催しました。2年に一度の木造建築分野の一大イベント「屋根+木展」訪問と、黒い森地域での、木造建築ならびに森林視察という内容でした。

木造建築においては、今回、私が思い入れのある古建築の修復事例も見学しました。廃屋が、心地よく魅力的な村のコミュニティセンターに改修された事業や、大きな納屋が、レストランとホテルに生まれ変わった事例です。歴史や文化詰まった古いものには、ノスタルジーがあります。また、機能性や経済性が強く求められている現代建築にはないデザインと空間があります。

木工職人が通う職業学校も訪問しました。ドイツでは、デュアルシステムという伝統的な職人教育の仕組みがあり、職人の見習生は、地元の企業の親方(マイスター)と学校の先生の両方から、実践から理論まで、包括的な教育を受けます。

森林視察では、フライブルク市有林を散策しました。人口密度が高く、森の国土保全機能と保養機能が重要なドイツや日本のような国において奨められる「統合的な森林マネージメント」「多機能森林業」を体感してもらいました。

下記は、1人の参加者からのメーッセージです。

「今回は自分の視野を広げたいと思い参加させていただきましたが、高い満足度で目的を達成することができました。見学の中で個人的に最も興味深かったのは職業学校と理想的な森林の様子の2つです。今後の目標として、研鑽を積み多角的に思考できるようになるために、ツールとして技術を磨いていきたいと改めて思いました」

 

2018年夏にも、木と建築をテーマにした類似の視察セミナーを開催する予定です。

ドイツ視察セミナー 森 建築 楽器 木材展  2018 6. 20 – 24

ドイツ視察 都市の緑 水源林 木造建築 +  Interforst 2018 7. 18 -22

その他ドイツ視察セミナーの情報

木造建築に追い風

ドイツの建築は、18世紀くらいから、石レンガ(近年はコンクリート)がメインですが、ここ20年ほど、木造建築の割合が増えています。現在、新築建築物の20%程度が木造建築です。しかし石レンガやコンクリートの建築においても、屋根や天井の梁は木が使われることが多く、建築における木材需要は高い水準が保たれています。

ここ数年、移民による人口の増加と経済の好調により、新築の戸数(世帯数)も増えています。リーマンショック時は、20万戸を下回っていましたが、ここ数年40万戸に迫る勢いで伸びています。その中で、木造建築は高い伸び率を示しています。それは、様々な技術革新で木造建築の可能性が広がったこと、工期が早いという利点、デザインのフレキシブルさ、持続的に供給できる資源であるということ、健康のイメージなど、様々な木のメリットが背景にあります。

最近は、木とコンクリートのハイブリットによる木造高層ビルも建てられています。南西ドイツのハイルブロン市には、10階建34mの木造高層マンションの建築が開始されています。また、2021年には、ハンブルク市で、それを上回る高層ビルが木造で建設される予定です。オーストリアの首都ウイーンでは、24階建、84mという世界最高の木造高層ビルが現在建設されています。

2月末に、ケルンの「屋根+木」展という、木造建築の分野での最大の国際見本市に、視察セミナーのプログラムの一環として行ってきました。4日間で、訪問客数4万5000人、業界関係者の交流の場、プレゼンテーションの場で、ものすごい賑わいでした。木造建築の追い風ムードが実感できる展示会でした。伝統的な大工の作業着を来た職人さんの姿もたくさんみられました。今回の主要テーマは、作業安全装備、設計のデジタル化(ドローンの活用など)、新しい屋根のマテリアルでした。木工大工の世界コンテストに出場するドイツナショナルチームの公開トレーニングもありました。

ドイツ視察セミナー「木の建築」の情報

森の道

私が留学生として最初にドイツにやってきた20年以上前、自然が人に近い、特に森が近いと感じました。統計的には、ドイツは国土の3割が森林、日本は7割で、日本の方が遥かに多いですが、ドイツでは、人が「気軽」に「安心」して入って行けて、「快適」に「安全」に歩いたり、ジョギングしたり、サイクリングしたりできる森の道が整備されていることが、そういう気持ちを抱かせたのだと思います。貧乏な学生でしたので、移動は徒歩か自転車、よく近くの森を歩いたりサイクリングしたりしました。また、木陰や林縁の日向に座って本を読んだり、宿題をやったりしました。今でも、森は私の日常です。

木材を積んだ大型トラックが走れる砂利敷きの森林基幹道が、ほぼ全ての森林で、等高線に沿ってシステマティックに面的にあります。過去60年の間で整備されたものです。屋根型の路面、深い側溝と暗渠など、水のマネージメントもしっかりしてあり、雨が降ったあとでも、ぬかるまない、轍も水たまりのほとんどない道です。効率的な森林作業と木材運搬を主目的に作られた道ですが、市民や観光客とって快適な保養空間になっています。シュヴァルツヴァルトは年間宿泊数延400万泊の有名な観光保養地ですが、森林は欠かせない観光資源で、その基盤は、快適な森林保養を可能にする森林基幹道です。

シュヴァルツヴァルトの麓に佇む人口21万の環境首都フライブクルク市は、約5500ヘクタールの森林を市が所有していますが、年間の森林訪問者数は、延数で400万を超えます。森は市民の生活に欠かせない生活空間です。

雨量が多く、急傾斜が多く、地質も繊細で崩れやすい日本の森林でも、2010年以来、岐阜の高山市や北海道の鶴居村で、ドイツの森林基幹道をモデルに、質の高い水をしっかりマネージメントする道ができています。それは、森林作業と木材運搬の効率化だけでなく、一般の人々を森に誘い込むことにも寄与しています。道ができた森は間伐が進み、林内に光が差し明るくなり植生も豊かになります。快適に安全に歩ける道ができて、森も明るく多様性を増します。女性でも気軽に安心して犬と散歩できる場所、ホテルのオーナーが、お客さんを連れて自然観察会や写真撮影会を催せる場所です。

ドイツ視察セミナーの情報

静寂のなかに(「DOYU IWATE」2018年3月号)

喧騒、溢れかえる情報、絶え間ない変化の中で現代の私たちは生きています。自分だけの静かな時間をもつことが難しくなっています。

20世紀の現代音楽に多大な影響を与えた作曲家ジョン・ケージ(アメリカ人)は、自分の音楽活動を次のように表現しています。

「沈黙・静寂は、ざわめきが無い状態じゃなく、私の神経系と血液循環が無故意に機能していることだということが、私に聞こえた。私は、静寂が聴覚的なものじゃないことを発見した。静寂は、意識の変化、転換だ。私は、その静寂に自分の音楽を捧げた。私の音楽は、無故意なものを探求することだった」

様々な作品のなかで「静寂」をテーマにしているドイツの作家ヘルマン・ヘッセは次の名言を残しています。

「あなたの中に静寂があります。それは、あなたがいつでも引きこもることができて、自分自身であることができる神聖な場所です」

人間は社会的な生き物です。家族や友人、学校や職場の仲間、コミュニティなどの繋がりのなかで、様々な義務や課題を与えられ、苦しみや喜びを分かち合い、迷い、考え、決断…、と多くの人が「忙しく」生きています。

私も、南西ドイツの小都市で、育ち盛りの活発な子供が3人と日本人の妻の5人家族で、仕事では日本とドイツの繋ぎ役として、異なる2つの文化の間を行き来しながら(精神的にも地理的にも)、「忙しく」暮らしていますが、時々森や草原を散歩したり、プールや湖で泳いだり、夏の夜にベランダで夜景を眺めながら涼んだりしているときなどに、自分のなかにある「静寂」に引きこもれることがあります。

「静寂」のなかで、疲れが癒され力が蓄えられます。新しい発想が生まれたり、物事が整理され、迷いが断ち切れ、解決策が見えることもあります。生命の神秘、人生の意義について考えを巡らすこともできます。貴重な時間です。

岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」に連載のコラムより

持続可能性 〜ノアの箱船とタイタニック

「持続可能性」という言葉は、今から約300年前、ドイツの林業の世界で生まれました。ドイツ語で「Nachhaltigkeit」。具体的には、ザクセン地方のカルロビッツという人物が「森林の持続可能な利用」を、1713年に書籍にまとめて発表したことがその起源です。

しかしそれ以前から、森林を絶やすことなく将来に渡って持続的に利用していく考え方、制度、実践は、世界各地にありました。農家林家や集落の共有地、木材を必要とする産業から生まれています。共通するのは、「将来への配慮」と「危機意識」です。「今の自分たちの世代のことだけを考えて、森を一気に切ってしまったら、将来の世代は生きていけない、村や地域や産業は、消滅してしまう。将来の世代もしっかり生活していけるような森林利用をしなければならない」という考えや思いです。

森林利用を題材に「持続可能性」という概念を、初めてしっかり文章にまとめ世に出したカルロビッツは、鉱山のマネージャーでした。鉱山は、坑道の補強や鉱物の溶鉱の燃料として大量の木材が必要です。鉱山の周りで伐採跡の禿山が拡大する状況がありました。鉱山が、30年後も50年後も、子供の代も孫の代も、しっかり存続していくためには、地域の限られた資源である森林を計画的に持続的に使っていかなければならない、という「将来への配慮」がカルロビッツの提案の根底にあります。

「持続可能性」という概念は、学者や官僚や政治家が考えたものではありません。家族や企業や地域の将来を真剣に「思いやる」現場の人たちから生まれた言葉です。

今日の人類は、気候変動、資源枯渇など、人類存続に関わる大きな問題、課題を抱えています。世界一丸となって具体的な行動をしていかないと、次世代の将来が危うい、という「配慮」の気持ちが高まっています。世界各地の環境団体や市民団体やイニシアチブが、過去数十年に渡って、エネルギー、食料、廃棄物、空気汚染、森林、農業など様々な分野で、粘り強く抗議、提言、行動し、市民の意識を、そして政治や世論を変えています。

「タイタニックは、プロがつくった。ノアの方舟は素人がつくった」(作者不明)

という言葉があります。2つの船の結末は、みなさんご存知の通りです。タイタニックは沈みました。ノアの方舟はみんなの命を救いました。

政治•経済•科学技術の分野のプロと言われる人たちがつくって運転している船は沈みかけています。生き残るためには、素人がつくったノアの方舟に乗り換えなければなりません。素人とは、現場に生きる、地に足の着いた、家族を、企業を、地域を、世代を超えて思いやり、行動する人たちです。

ドイツ視察セミナー「森林業 サステイナビリティの原点」「経営者オープンマインド」の情報

ドイツのオルガン製作がユネスコ無形文化遺産に!(「DOYU IWATE」2018年2月号)

ドイツには、古くからオルガン製作の伝統があります。現在でも、約400社のオルガン工房が存在し、約2800人が働いています。製作されているのは、肩に下げて持ち運びできる数十万円のものから、数億円する大きな教会のパイプオルガンまで様々です。既存のオルガン台数は約5万台。世界でもっともオルガン密度が高い国です。

私が住む人口2万人のヴァルトキルヒ市は、オルガンの町で、全盛期の20世紀初頭は、25 の工房がありました。現在でも6件の工房があり、約30人あまりがオルガン製作に従事しています。10数名が働くヴァルトキルヒの一番大きな工房イェーガー&ブロンマー社には、岩手中小企業同友会の視察団の方々も2度訪問されています。そこの共同経営者の一人ブロンマーさんから、昨年12月始めに 「ドイツのオルガン製作とオルガン音楽が、無形文化財として、ユネスコ世界遺産に選ばれた!」嬉しいメニュースレターが届きました。

オルガンは、設置する場所の空間、音響、室内の湿度や依頼者の予算に合わせて、個別にデザイン設計し、製作されます。 メインの材料は「木」で、木材のなかでも高品質な部分、肉で言えば、極上ヒレや極上ロースの部分が使用されます。オルガン職人の精巧な木材加工技術と音に関する繊細な感覚で製作されます。ドイツは職人の国でもありますが、オルガン製作は、そのなかでも最高峰の技術と技能が求められるもので、ユネスコ世界遺産に選ばれるだけの品格をもった手工業職です。

手に職を持つ、ということは、社会から認められることであり、活動の可能性を広げ、喜びや自信、生き甲斐をもたらすものです。

ドイツのオルガン製作者は、その製品を世界に輸出しています。ヴァルトキルヒのブロンマー氏の会社も、盛んにアジア方面へ輸出しており、日本へも、過去10年間で6台のパイプオルガンを輸出。現在も、東京市ヶ谷の番町教会から依頼されたパイプオルガンを製作しています。製作は約1年がかり。工房で組み立てたものを、一旦解体し、コンテナに積んで船で日本へ輸送。その後、現地の教会での組み立て調律作業に4週間。今年末までに現地引き渡し完了の予定です。ブロンマー氏は「日本は食べ物が美味しい。言葉が不自由でも、音楽が人を結んでくれる」と再来日するのを楽しみにしています。伝統的な職能が、人と国を繋ぎます。

岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」に連載のコラムより

 

ドイツ視察セミナー 森 建築 楽器 木材展  2018 6. 20 – 24

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