我買う、故に我あり

北イタリアのマジョーレ湖で家族で夏の休暇を過ごしています。日常の喧騒から離れて、疲れを癒したり、じっくり物事を考えたり、本を読んだりする時間でもあります。

昨日、浜辺で、読みかけだったドイツの有名なジャズ評論家ベーレント(故人)の本を手に取り、目に入ったタイトルの節を数ページ読みました。下記の引用は、その節の核心にあたる1文です。

あらゆる活動を経済的に貨幣に変換して価値づける私たちの傾向は、人間の尊厳を低下させ、ヒューマニティ(人間性)を低下させ、文化や文明を麻痺させ、「価値観」を「商品」に格下げし、「存在」を「我買う、故に我あり」に還元してしまっている

お金に(お金だけに)舵取りをされている傾向。日常生活、仕事、学校、コミュニティとあらゆるところで、言えることだと思います。

再生可能エネルギーの分野でも言えることです。

地域分散型の地域に価値を生み出す、地域の文化や生活や景観や自然と調和し統合した再エネ事業は、持続的に、人と地域を豊かに幸せにしていくでしょう。そうでない「経済」という狭い視点だけの事業は、持続可能ではありません。

ドイツ 経営者セミナー オープンマインド

将来を担う世代 

8月初めに、愛媛県の上浮穴高校の高校生10名と引率の先生3名が、シュヴァルツヴァルトに森林業と木材に関する研修に来てくれました。私にとっては、久しぶりの10代の若者たちのグループで、しかも私の専門分野がテーマだったので、モチベーションが湧き、若いエネルギーももらうことができた充実した6日間でした。

上浮穴高校は、愛媛県の松山市から南に40kmくらい、四国山脈の麓に位置する林業が盛んな久万高原町(くまこうげんちょう)にあり、希少な「林業科」をもつ高校です。卒業生は、地元で林業事業体に就職、もしくは大学や専門学校に進学しています。

自然が豊かな場所ですくすくと育った素直で陽気で、高い自己管理能力と社会性をもった生徒達でした。引率の先生方も、生徒たちを優しく見守る、背後からサポートする、というスタンスで、私としても気持ちよく視察プログラムを遂行することができました。

シュヴァルツヴァルトの持続可能な森林業の現場で、「林業」と「森林業」の違い、森林の「国土保全機能」や「レクリエーション機能」「木材生産機能」を、統合的に扱う森づくり、そのために必要な「質の高い路網」、単一樹林を混交の複層林に変えていくための「将来木施業」などを、森林の現場実習で、現地森林官がわかりやすく解説しました。危険な仕事である森林作業に必要な「心構え」や「防護装備」についても実際の作業や現物を見せて説明しました。生木を使った木工ワークショップも行いました。フライブルク市の環境共生の街づくりに関する研修も行いました。

内容的に大人向けの視察セミナーと同レベルのものでしたが、若く好奇心がありオープンマインドな愛媛の高校生達は、集中力を絶やすことなく、自発的に質問もし、有意義な研修だったと思います。

生徒達は、これから日本の将来を担う世代。わずか6日間でしたが、彼らがこれから自分のペースで成長し、有意義な人生を構築していくための、持続可能な社会を構築するための、いくつかのアイデアやヒント、勇気を与えることができた視察セミナーであったことを願っています。

幼樹や若木が成長するためには、樹種や個体特性に応じて「スペース(=光)」が必要です。しかし、気温の変化や極端な日射や雨風を緩和する「大人の木(母樹)による保護」も必要です。個体別の適度な成長スペース、適度な保護。人間も同じだと思います。

ドイツ視察 森林業 サステイナビリティの原点

ドイツ視察 農林業 BIO  再エネ 地域創生 (学生向け)

ドイツの演繹的モノづくり

明確な目標を定め、現在の立ち位置と与えられている枠組みを確認把握し、目標に効率的にたどり着くための道筋(プラン)を作成し、新しいモノをつくる。

これは、ドイツの伝統的なやり方で、強みであり、そこから数々の革新や発明品が生まれています。ドイツの高い技術と強い経済力を支えています。

日本では、細部に渡る知識と技術を習得し、経験を積み上げたうえで、その結果として一つのいいモノを作り上げる、という「経験的手法」の伝統がありますが、ドイツでは、基礎と原理原則の知識をベースに、経験のない分野で新しいモノをつくる「演繹的手法」の訓練を、小学校のころから受けます。

職人教育はその典型です。デュアル(2元)システムと呼ばれ、企業と学校が一緒に職人を養成します。職人の卵(見習い)は、まず自分がつきたい職業分野の親方(マイスター)と2年から3年の徒弟契約を結び、それをもって職業学校に入学を申し込みます。職場のマイスターのもとで実践的な教育を受け(6から7割の時間)、学校では、理論的、基礎的な授業を受けます。基礎や原理原則を実践的に学び、最後の卒業試験では、与えられた枠組み(材料、道具、予算、時間など)の中で、目標を定義(デザイン)し、自分で製作プランを作成し、一つのモノを卒業作品として作ります。例えば大工であれば、建物の躯体のミニチュアを、家具職人であれば、家具のミニチュアを製作します。

先日、BW州、シュツットガルト近郊のルードビックスブルク市にあるオルガン職人の職業学校を訪問しました。ドイツに一つしかない学校で、全国各地の工房でオルガン職人見習いをしている生徒が、年に12週間、2回に分けて集い、基礎と理論を学びに来ます。現在、1学年50名程度の見習生がいます。

オルガンは、その複合性、音色やデザインの多彩さから、「楽器の嬢王」と呼ばれています。教会パイプオルガンは、一つとして同じものがありません。個々の教会の広さ、室内環境、湿度、デザインや音色とその幅に関する依頼者の要望、予算など、与えられた枠組み条件に合わせ、1からデザイン設計し作ります。オルガン職人はオールラウンダーで、音響学、空圧理論、構造力学、デザイン、金属加工、木材加工、調律など、幅広い知識と技術を複合的に組み合わせて設計、製作します。演繹的なドイツのモノづくりの最高峰と言っていいでしょう。

「管楽器製作の技術やノウハウは、他の国が真似して習得することができるけど、パイプオルガン製作は、その複合性と個別設計のためか、なかなか他の国で真似できないみたいです。ドイツのオルガン職人が世界中から注文を受けて仕事をしています」と誇らしげに学校の副校長が話してくれました。

岩手中小企業家同友会 会報「DOYU IWATE」(2018年8月号)掲載

ドイツ視察 森林業 + 木材

ドイツ視察セミナー モノづくり 手工業 職人養成 地域創生 

森林浴 Waldbaden

ここ数年、ドイツで頻繁に見聞きする流行りの言葉がある。それは「Waldbaden(=森林浴)」。もともと、日本の林野庁により1982年に提唱された言葉がドイツ語に直訳され、新造語として使用されている。「森林の湯船に浸かる」という比喩的造語は、温泉とお風呂の文化がある日本ならではであるが、温泉スパの伝統があるドイツでも、すんなり馴染みやすい。

森林浴の医学的研究

森林にも温泉と同じような、癒しや健康増進効果があるから「森林浴」という言葉が生まれた。森林が人間の精神と健康に与えるポジティブな効果は、別に目新しいものではなく、様々な文化圏で、昔から経験的に知られていたことであるが、2000年代に入ってからから、日本やアメリカ、ヨーロッパなどで、森林浴効果のメカニズムを科学的に解明する研究が進んでいる。森の匂い、緑の波長、マイナスイオン、小鳥や小川やそよ風のゆらぎ音が、自律神経を安定させ、精神を落ち着かせ、免疫力を高め、様々な病気に対する抗体の生産を促すことが、医学的に証明されている。
日本では、医学的研究をベースに「森林セラピー」という言葉が、2004年に森林浴の発展形として生まれた。NPO法人森林セラピーソサイエティによって、これまで全国63箇所の森林エリアが「森林セラピー基地」として認定され、「健康のための森林浴」が推奨、実践されている。トレッキングや登山で入る他の日本の森林との大きな違いは、森林セラピー基地では、緩やかな勾配の幅広の歩きやすい遊歩道が整備されていることである。車椅子で入っていけるところもある。

ドイツでは、人々が日常的に森林浴


ドイツの多面的な森林利用

では、森林浴(=Waldbad)という言葉が、ここ数年流行っているドイツではどうなのか。国土面積は日本とほぼ同じ、森林率は約30%で日本の半分以下、そこに約8300万人の人が住むドイツ(日本の7割弱)では、森林浴は、多くの国民にとって日常的な行為、生活の一部になっている。気軽に犬と散歩、ノルディックウォーキング、サイクリング、マウンテンバイキング、乗馬、森林ヨガ、雪山ウォーキングと、森林のリクリエーション利用は多面的だ。森の幼稚園や森林教育など教育的な利用も盛んである。
ではいったい、どれだけの人がどれくらいの頻度で森林保養をしているのか。私が住むドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州の森林行政が最近発表した統計によると、人口約1000万人、面積約36,000平方km(長野県の約2.5倍)、森林率40%のこの州で、1日平均約200万人の森林訪問者がある。年間を通した平均値であるので、春から秋にかけて、天気がいい日曜日などは、1日400万人以上の訪問者があることもある。人口の半分近くである。

林業のための質のいい道インフラが、快適で安全な保養空間を創出


持続可能な林業が森林保養の基盤

なぜにこれだけの人が森林に行っているのか。それは、ほぼ全ての森林に気軽にアクセスできる環境とインフラがあるからだ。サンダルでも、車椅子でも乳母車を押しても気軽に入って行ける、幅広で、勾配が緩やかな道が、平地の森にも、起伏がある急斜面の森にもある。この道のインフラは、戦後に、持続的な林業(木材利用)のために整備された。表面は砂利が填圧して敷き詰められたもので、木材を運ぶ大型トラックが走行できる規格で、この質の高い道が、老若男女、体が不自由な人まで、気軽で快適で安全な森林でのアクティビティを可能にしている。
森が支える森林木材産業クラスターは、ドイツでは自動車産業の2倍近くの就業人口(132万人、2005年統計)を抱え、ドイツの地域経済を支える重要な基盤になっている。そしてその森は同時に、人々の心と体の健康を促進する日常生活空間になっている。

道がないから、森は近くて遠い存在

日本は森林率68%の森林に恵まれた国であるが、森林セラピー基地のような快適に安全に歩ける道が整備されている場所は「特別な場所」であって、多くの国民にとっては、森は近くて遠い存在にある。ドイツでは、「特別な場所」がいたるところに、日常的に利用可能なところに面的にある。私は、20年以上ドイツに住んでいるが、このいい森林インフラの恩恵をたくさん受けたし、今でも森林は、私にとって、心を休める、考えを整理する、スポーツをする、山菜やキノコを取る、日常生活の大切な場所である。
私は、森林やエネルギー関係で、時々来日して仕事をしているが、ドイツやスイスからの観光客にホテルなどで出会って会話することがある。日本の文化や伝統建築や食事に感銘し感動している人たちがよく言う「苦情」がある。それは、「森を歩きたい、森でサイクリングしたいけど、道がないから入っていけない」というものだ。せっかく豊富にある観光資源が開かれていない、アクセスできるインフラがない。

地域木材産業、住民の健康と幸せ、観光資源

牧歌的な保養地シュヴァルツヴァルトの風景

私が住むシュヴァルツヴァルト地域は、バーデン・ヴュルテンベルク州の西部にあり、南北に約170km、東西に50~70kmくらいの山岳農村地帯であるが、全体が観光保養地で、気軽に歩ける、スポーツができる森林は重要な観光資源となっている。シュヴァルツヴァルト観光協会が発表している2016年の統計によると、ベット数は16万、宿泊客数は年間800万人、宿泊数は年間延2100万泊もある。観光業は農村地域の重要な副収入源であり、観光業によって質の高い地域の生活インフラが維持されている。森林は、住民だけでなく、観光客にとっても重要なレジャー空間である。

ドイツの2倍以上の森林を所有し、人口も多い日本では、ドイツよりはるかに大きな多面的な森林利用のポテンシャルがある。しかし現在、木材利用にしても、レクリエーション利用にしても、僅かしか使われていない。この豊かな資源を、将来のために持続的に使えるように整備していくことは、地域経済にとって、国民の健康と幸せにとって、大きな意味があることだと思う。


ドイツに倣った高山市の質の高い森林基幹道(© M.Nagase)

岐阜県高山市では、ドイツに倣った持続可能で多面的な森林利用のためのインフラの整備、質の高い森林基幹道の整備が、2011年より進んでいる。その事業のリーダー格である高山林業建設業協同組合の長瀬氏から、2年前、嬉しい写真を見せてもらった。新しく作られた快適な森林基幹道に、犬を連れて散歩している近所の女性が写っていた。その女性は、出来上がった道の確認をしている長瀬氏に遭遇し、「きれいないい道ができていたので、ついつい犬と散歩したくなって入って来ました。いいですか」と尋ねた。長瀬氏は「もちろんいいですよ」と答え、早速道の効果が現れたと嬉しくなり、「写真を撮らせていただいてもいいですか」と断って手持ちのカメラのシャッターを押したそうだ。


「きれいな道だから犬と散歩に来ました」(© M.Nagase)

高山市は、ヨーロッパからの観光客が増えている。彼らが、高山の街中だけでなく、近くの森を気軽に歩き、サイクリングできる環境が整う日もそう遠くない。そういう人たちは滞在型なので、新たな宿泊のインフラや観光コンセプトも必要になってくる。

EIC エコナビの連載コラム3 2018年6月 より

ドイツ視察 森林業 サステイナビリティの原点

ドイツ視察 グリーンインフラストラクチャー

ドイツ視察 自然の力 癒し 学び

ドイツ視察 SLOW+

1日200万人の森林訪問者!

産業革命により都市化が進み、都市の住環境が荒廃していた18 世紀末から19世紀のヨーロッパでは、その反動として、ロマン主義、自然回帰の運動が起こりました。高度情報化社会で、バーチャル化が進む今日においても、人と人との生の交流、自然体験、心の静寂を求める動きが盛んになってきています。

ドイツでは、自然の中でのヴァンデルング(ハイキング)は国民的スポーツであり、森林がその主要な場所です。今日においては、マウンテンバイクやジョギング、乗馬、ノルディックウォーキング、雪山ウォーク、森林ヨガ、森林教育、森の幼稚園など、森林の社会的利用の多様化が進んでいます。

私が住むドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州の森林行政が最近発表した統計によると、人口約1000万、面積約36,000平方km(長野県の約2.5倍)、森林率40%の地域で、1日平均約200万人の森林利用者がいます。森林は、多くの人々にとって、大切な日常生活空間になっています。

「森林浴」という言葉があります。日本で1980年代始めに生まれた言葉です。それ以来、日本を始めアメリカや欧州で、森林が人間の健康にもたらす様々なポジティブな効果を証明する医学的な研究が発表されています。森の匂い、緑の波長、マイナスイオン、小鳥や小川やそよ風のゆらぎ音は、自律神経を安定させ、精神を沈め、免疫力を高め、様々な病気に対する抗体の生産を促します。

「森林浴」は、「Waldbad」とドイツ語にそのまま直訳され、ここ数年、流行語になっています。そしてその言葉を、発祥国よりもはるかにたくさん、面的な広がりをもって包括的に実践しているのは、森林率が日本の半分のドイツです。森林浴は、ドイツでは、特別に時間をとって特別な場所に車や電車で行って実践するものでなく、普段の生活のなかで、早朝や夕方、近くの「普通の森」で普通に行うものです。それは、その「普通の森」で、持続的な木材生産のために質の高い森林道が面的に整備され、環境に配慮された「統合的」な森林管理が行われ、すべての森が市民に開かれ、美しく安全な森林に人が気軽に簡単に森にアクセスできる環境とインフラがあるからです。

森が支える森林木材産業クラスターは、ドイツでは自動車産業の2倍近くの就業人口を抱え、ドイツの地域経済を支える重要な基盤になっています。そしてその森は同時に、人々の心と体の健康を促進し、重要な観光資源にもなっています。

ドイツの2倍以上の森林を所有し、人口も多い日本では、ドイツよりはるかに大きなポテンシャルがあります。現在有効に使われていないこの豊かな資源を、将来のために持続的に使えるように整備していくことは、やりがいのあることだと思います。

岩手中小企業家同友会 会報 「DOUYU IWATE」6月号に掲載

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木の生存コンセプト

木は地球上でもっと背が高く、もっとも長生きする生き物で、地球上の生物の総重量の84%を占めています。ここ10数年あまりの最新の生物学の研究では、木を始めとする植物が、人間や動物と同じようにコミュニケーションを取っている、学習能力があることが実証されています。

ギブ&テイク

木は根から栄養を吸収していますが、そのために欠かせないのは菌根菌です。この菌は木の根の先端部に棲みつき、木に対して、土壌中の栄養分を、木の根が吸収しやすい形にして「提供」し、その代償として、木が光合成で生成した糖分を「受取り」ます。またその時々の状況に応じて、菌根菌が与えるものの中身(レシピ)は変わります。例えば、木が木喰い虫に食べられ始めた際、防御物質である樹脂をたくさん生産しなければなりませんが、木は根を通して菌根菌にシグナルを送り、菌はすぐにそれに反応し、提供する栄養物の構成を変えます。

次世代への配慮

木が「子供への配慮」も行なっていることが、最近の研究で証明されています。まだ小さく弱く「自活」できない稚樹に対して、母樹は、自分たちだけでなく子供にも栄養を補給するように、菌根菌にシグナルを出します。

協働で対策

また木は、危機的な状況に対して仲間に知らせ、共同で対策を実践し、また将来に備え戦略の変更もします。木喰い虫に食われた木は、他の仲間の木に対して空気を通してフェロモンの信号を送り、仲間はそれに反応し、菌根菌の助けを借りて樹脂を樹皮部分に集め防御体制を整えます。夏の日照りで乾燥が続いたときは、「みんな」で一緒に光合成の生産量を減らし、水不足に対応します。またそのような問題が数年続いたときは、葉っぱを小さくする(遺伝子コードを変える)、という戦略の変更をして将来に備えます。

木の「生存コンセプト」は次の4つです。

①相互扶助と同じ目線のパートナーシップ、
②弱いものを助け育てる、
③いいことも悪いことも迅速に正直にコミュニケーションをし、協働で対策を講じる、
④蓄積した経験で、将来への備えをし、必要な場合は、成長戦略も変える

木は、ブレない目標をもっています。長く持続的に生きるということです。それは、「みんな」一緒に協働してこそ達成できる目標です。

岩手中小企業家同友会の会誌「DOYU IWATE」の連載コラムより

ドイツ 経営者セミナー オープンマインド

ドイツ視察 森林業 サステイナビリティの原点

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農のある暮らし

雪が降ったかと思うと次の週には雨が降り、その後比較的暖かい日が続き、もう冬は終わりかなと思った2月末に、マイナス10度を下回る寒波がやってきて、次の週にはまた春日和の天気になる、というふうに、今年のドイツは不安定な冬でしたが、3月も半ばに差し掛かったここ数日は、鳥のさえずりも聞こえはじめ、草木の芽ももうすぐ芽生え始めそうな雰囲気になってきました。春の息吹が聞こえてきます。

私の家族は昨年の3月に、10年前から住んでいるヴァルトキルヒ市内で、郊外の一軒家に引っ越し、敷地内の8畳ほどの小さな畑ですが菜園を始めました。昨年は、引っ越してすぐでいろいろ忙しく、家族のメンバーが、植えたいもの、食べたいものを、無計画に無作為にごちゃ混ぜに植えました。森林学で学んだ「多様性はリスクを分散させる」の原則に則って(あとで付けた理屈ですが)。多少は虫に食われましたが、思った以上に野菜やハーブは育ち、子供達と我が家の食卓を喜ばせてくれました。生態学的には、植物には相性があるようです。例えば、キャベツ類とトマトを一緒に植えると、キャベツに蝶の幼虫がつきにくくなり、トマトの葉っぱが菌類による病気になるのを抑えられます。逆に相性の悪い組み合わせもあります。お互いに悪い影響を与え合うものです。例えば、キュウリは、ジャガイモと相性が良くないようです。

今年は、本も揃えましたし、前もって勉強し、コンセプトを作って計画的に植えて育てようと思っています。立派な菜園を持つ経験豊かな隣のおじいさんが、数日前から畑仕事を始めました。私たちもそろそろ苗床の準備に取り掛からなければなりません。

田舎では土地がありますが、都市部で限られています。庭を持てない都市住民には、伝統的には、鉄道の空き地などで「市民農園」があります。希望する家族や個人に決まった区画が安い賃料で与えられています(人気があり数年の待ちがあります)。賃貸人にとっては、土と植物に触れ、リラックスできる重要な生活空間です。一方で、ここ10数年、総称で「アーバンガーデニング」と名づけられている新しいタイプの市民農園が増えています。区画分けをしないで、メンバー共同で一つの菜園を管理運営する、というものです。そこでは、人と人の「交流」がテーマです。定期的に小さな催し物やイベントも開催されています。移民が多い都市部では、異文化交流、異文化理解の場になっています。人口350万人のドイツの首都ベルリンには、30箇所以上のアーバンガーデニング農園があります。コンクリートと砂利の空き地の上に、移動可能な高床式の畑をつくり、屋外レストラン&カフェを運営している農園もあります。

岩手中小企業同友会 会報「DOUYU IWATE」2018年4月号より

ドイツ・ベルリン視察 都市農業+食育

ドイツ視察 農林業 BIO  再エネ 地域創生 (学生向け)

廃屋に生命を!

環境首都で有名なドイツ南西部のフライブルク市近郊、シュヴァルツヴァルト(黒い森)の麓、氷河で削られてできたU字型の底広のドライザム谷に、人口約9700人のキルヒツァルテン(Kirchzarten)村がある。この村の商店街から300mほど離れた場所に、今年始め、新しい「村の中心」がオープンした。

文化財の廃屋をどうするか

新しい「村の中心」ができた場所には、18世紀後半から19世紀始めにかけて建設され、ここ40年あまり放置されていた2つの大きな納屋と水車小屋があった。隣にある小さなお城に付属する建物で、100年前まではここが村の中心部であった。村が所有する築200年以上の3つの古建築は、文化財に指定されていたが、最近は、ときどき野外イベントやお祭りで使用する程度で、廃屋になっていた。この建物を今後どうするか、村行政の大きな課題であった。
2014年、村議会は、3つの廃屋を改修(リフォーム)し、2つの納屋は、村役場の村民窓口、イベントホール、図書館と多目的な空間に、水車小屋は、村のエネルギー・水道会社の事務所にすることを決議した。

市民コミュニティセンターに生まれ変わった納屋
市民コミュニティセンターに生まれ変わった納屋

新しい村役場の村民窓口
新しい村役場の村民窓口

古い建物が壊されるのは自分の故郷が奪われる思い

改修事業の元請けになったのは、村に事務所を置くSutter3(スッター3)社。社長のヴィリー・スッター氏は約30年、シュヴァルツヴァルト地域で、100件以上の古建築の改修を手がけているこの分野のスペシャリストである。1980年代初頭に職業学校を出て工務店や住宅設備工事の会社で数年経験を積んだあと、独立して古建築の改修を開始した。
80年代当時、彼の生まれ故郷のシュヴァルツヴァルトのティティゼー・ノイシュタット市では、住宅ブームで、たくさんの古い建物が壊されて、新築の家が建てられていた。スッター氏にとっては、趣と雰囲気がある古い建物が解体されていくのは、自分が慣れ親しんだ故郷がどんどん奪われるような気持ちだった。少しでも歯止めをかけようと、農家の古い納屋や空き家になっている古建築を見つけては、所有者と交渉し、買取り、改修した。出来上がった建物は、転売するか、もしくは自社で所有して住宅やオフィスとして賃貸する事業を1980年代終わりころから開始した。誰も手をつけようとしない廃屋の建物や文化財に指定され改修の条件も厳しい物件を、丁寧にしかも経済的に改修し、新しく蘇らせていった。

古建築改修のプロフェッショナル ヴィリー・スッター氏
古建築改修のプロフェッショナル ヴィリー・スッター氏

1990年代の末に、ある社会福祉住宅の事業を請け負った際、長期失業者や前科がある人たちに出会った。彼らの人生や抱えている問題に心を打たれたスッター氏は、社会福祉の専門家と一緒に、彼らの社会復帰をサポートするための新たな会社を設立した。誰も好んで受け入れようとしない人たちを、建設業の労働者として雇い、教育・養成した。改修した建物のいくつかを会社で所有し、過去の履歴から住まいを見つけるのも困難な社員や似たような状況にある社会的弱者に安く賃貸している。

古建築リフォームで、適切な省エネ化

キルヒツァルテン村のプロジェクトは、プランニングから建設まで約3年かかった。文化財に指定されている建物の改修の際、もっとも手間がかかるのが、文化財保護局との綿密な打ち合わせと調整作業である。オリジナルのマテリアルをできる限り残すことが要求されるからだ。
スッター氏は、豊富な経験と設計施工上のアイデアで、石の壁や木の梁や柱、内壁板、天井板など、80%を維持することに成功した。基本的にどの古建築改修の事業でも、建物を利用する人たちの健康配慮とマテリアルの耐久性を向上させるために、湿った石の除湿作業、古い梁や柱、板の除虫作業(60℃の暖気で燻す)を施している。窓は、大部分を、最新の断熱性能をもった、古建築にもマッチする木製サッシを取り付けた。光をたくさん取り入れるために、天窓も取り付けている。屋根には、30cmのセルロース断熱材、床天井にも断熱材とコンクリートを入れて、省エネと、防音対策をした。一方、外枠の石壁には、断熱施工はしていない。文化財に指定されている建物は、外観を変えることが法律上制限されており、外断熱はできない。内断熱という方法があるが、結露の問題を起こしやすくなる。
「石壁の調湿呼吸性能を維持するためにも、ここに断熱はしない」とスッター氏。「石壁は分厚く、蓄熱効果がある。屋根と床天井にしっかり断熱し、性能のいいサッシをつければ十分」とスッター氏は言う。
暖房の熱源はペレットボイラーで、建物のエネルギー性能的には、新築の基準に近い、年間の一次エネルギー需要100kW/m2を達成している。機械換気はたくさんの人が出入りする屋根裏のホール以外取り付けていない。
「メンテナンスの手間とコスト、それを怠ることによるバクテリアやカビの発生などの問題があるので、私の事業では機械換気は極力入れない。呼吸する壁材であれば、換気口による自然換気と、窓の開閉による換気で十分」という。

古いものとモダンの心地いい融合

古いものとモダンが融合した心地よい図書館の空間
古いものとモダンが融合した心地よい図書館の空間

かつて納屋として使われていた2つの建物の中をスッター氏に案内してもらった。窓とガラスの仕切り壁で、光を取り入れた明るい空間。200年以上前の石壁とこげ茶色の木の梁や柱、天井や壁板のなかに、白を基調にしたモダンな建具と内装、スマートなデザインのLED照明が、石と木とモダンな建具に柔らかい光を照らす。古い梁や柱は、構造強度を高めるために、ところどころ目立たないように鉄骨で補強されている。古いものとモダンなものが、機能的に絶妙のバランスで組み合わされ、心地よく温かみがある空間を作っている。室内の空気もいい。

一つの納屋は村役場と屋根裏ホール、もう一つの納屋は市民図書館に生まれ変わった。2つの建物の2階部分がガラス張りの橋廊下で繋がれている。階段が設置される公共建築物には、火災保護法の規定により、階段室をコンクリートの内壁で囲って高価な防火扉を各階に取り付けることが義務化されているが、スッター氏は橋廊下を火事の際の避難経路にすることで、コンクリート内壁も防火扉も設置しないで済むようにし、大幅にコストを削減するとともに、区切りがない広くオープンな空間の創出を実現した。
古建築の改修、とくに文化財に指定されているものの改修は、新築以上にお金がかかることが稀ではないが、スッター氏は、長年の経験と奇抜なアイデアによって、ほとんどの事業で、新築より安く抑えている。3つの建物の建具と外の敷地の造成も含めた総工費は680万ユーロ(約9億円)。文化財であるので、村は州から20%の助成金をもらっている。建物の延べ床面積は合わせて約2350平米なので、平米あたりのコストは約2900ユーロ。一般公共建築物の新築のレベルと変わらない。
「これだけの機能と性能を新築で出す場合、平米あたり3200ユーロはするから、むしろ新築より安い」とスッター氏は補足説明する。

新しく生命を吹き込まれた古建築は、村民の心を捉えた

屋根裏の村民ホール
屋根裏の村民ホール

新しい村役場と村民ホール、図書館は、今年1月半ばにオープンしてから、「信じられない。あの廃屋がこんな素晴らしい建物に変わるなんて」と、多くの村民に好評である。
村長のアンドレアス・ハル氏は、「当初、多額の経費がかかるこのプロジェクトの意義に疑問をもっていた一部の村民も、出来上がったものを体感し感銘してくれている」と満足している。
村のお荷物だった廃屋の文化財に、スッター3社を中心とする地域の建設業者によって、新しい生命が吹き込まれ、心地よいコミュニティ空間になった。

現在スッター3社は、50km圏内を中心に、約20件の古建築物改修のプロジェクトを同時並行で行なっている。廃墟だった古建築が、レストランやカフェ、イベントホール、診療所やスーパーとして、次々に生まれ変わっている。

EICエコナビ 連載コラム「ドイツ黒い森地方の地域創生と持続可能性」へ

ドイツ/オーストリア 建築セミナー 「木」と「土」と「藁」の建築

ドイツ視察セミナー モノづくり 手工業 職人養成 地域創生 

ドイツ 経営者セミナー オープンマインド

ドイツ視察 森林業 + 木材

木造建築に追い風

ドイツの建築は、18世紀くらいから、石レンガ(近年はコンクリート)がメインですが、ここ20年ほど、木造建築の割合が増えています。現在、新築建築物の20%程度が木造建築です。しかし石レンガやコンクリートの建築においても、屋根や天井の梁は木が使われることが多く、建築における木材需要は高い水準が保たれています。

ここ数年、移民による人口の増加と経済の好調により、新築の戸数(世帯数)も増えています。リーマンショック時は、20万戸を下回っていましたが、ここ数年40万戸に迫る勢いで伸びています。その中で、木造建築は高い伸び率を示しています。それは、様々な技術革新で木造建築の可能性が広がったこと、工期が早いという利点、デザインのフレキシブルさ、持続的に供給できる資源であるということ、健康のイメージなど、様々な木のメリットが背景にあります。

最近は、木とコンクリートのハイブリットによる木造高層ビルも建てられています。南西ドイツのハイルブロン市には、10階建34mの木造高層マンションの建築が開始されています。また、2021年には、ハンブルク市で、それを上回る高層ビルが木造で建設される予定です。オーストリアの首都ウイーンでは、24階建、84mという世界最高の木造高層ビルが現在建設されています。

2月末に、ケルンの「屋根+木」展という、木造建築の分野での最大の国際見本市に、視察セミナーのプログラムの一環として行ってきました。4日間で、訪問客数4万5000人、業界関係者の交流の場、プレゼンテーションの場で、ものすごい賑わいでした。木造建築の追い風ムードが実感できる展示会でした。伝統的な大工の作業着を来た職人さんの姿もたくさんみられました。今回の主要テーマは、作業安全装備、設計のデジタル化(ドローンの活用など)、新しい屋根のマテリアルでした。木工大工の世界コンテストに出場するドイツナショナルチームの公開トレーニングもありました。

ドイツ/オーストリア 建築セミナー 「木」と「土」と「藁」の建築

ドイツ視察セミナー モノづくり 手工業 職人養成 地域創生 

森の道

私が留学生として最初にドイツにやってきた20年以上前、自然が人に近い、特に森が近いと感じました。統計的には、ドイツは国土の3割が森林、日本は7割で、日本の方が遥かに多いですが、ドイツでは、人が「気軽」に「安心」して入って行けて、「快適」に「安全」に歩いたり、ジョギングしたり、サイクリングしたりできる森の道が整備されていることが、そういう気持ちを抱かせたのだと思います。貧乏な学生でしたので、移動は徒歩か自転車、よく近くの森を歩いたりサイクリングしたりしました。また、木陰や林縁の日向に座って本を読んだり、宿題をやったりしました。今でも、森は私の日常です。

木材を積んだ大型トラックが走れる砂利敷きの森林基幹道が、ほぼ全ての森林で、等高線に沿ってシステマティックに面的にあります。過去60年の間で整備されたものです。屋根型の路面、深い側溝と暗渠など、水のマネージメントもしっかりしてあり、雨が降ったあとでも、ぬかるまない、轍も水たまりのほとんどない道です。効率的な森林作業と木材運搬を主目的に作られた道ですが、市民や観光客とって快適な保養空間になっています。シュヴァルツヴァルトは年間宿泊数延400万泊の有名な観光保養地ですが、森林は欠かせない観光資源で、その基盤は、快適な森林保養を可能にする森林基幹道です。

シュヴァルツヴァルトの麓に佇む人口21万の環境首都フライブクルク市は、約5500ヘクタールの森林を市が所有していますが、年間の森林訪問者数は、延数で400万を超えます。森は市民の生活に欠かせない生活空間です。

雨量が多く、急傾斜が多く、地質も繊細で崩れやすい日本の森林でも、2010年以来、岐阜の高山市や北海道の鶴居村で、ドイツの森林基幹道をモデルに、質の高い水をしっかりマネージメントする道ができています。それは、森林作業と木材運搬の効率化だけでなく、一般の人々を森に誘い込むことにも寄与しています。道ができた森は間伐が進み、林内に光が差し明るくなり植生も豊かになります。快適に安全に歩ける道ができて、森も明るく多様性を増します。女性でも気軽に安心して犬と散歩できる場所、ホテルのオーナーが、お客さんを連れて自然観察会や写真撮影会を催せる場所です。

ドイツ視察セミナー 森林業 サステイナビリティの原点