フライブルクに革新的な木造高層住宅が!

地域FSC材、木造パネル構法、8階建。1階を除いて、エレベーターシャフトも階段室も、コンクリートを使わない、オール木構造。

1階にはスーパーと幼稚園が入り、2階以上は30世帯分の賃貸住宅。建主は、私もよく知っている、これまで数々の朽ちかけた古建築を経済的に社会福祉住宅や文化施設へアップビルディングしてきたW.スッター氏の不動産運営会社。施工は、シュヴァルツヴァルトの工務店Bruno Kaiser社。

図面や写真が紹介されているWeissenrieder設計事務所のウェブサイトをリンクします。

https://www.architekt-weissenrieder.de/projekte/wohn-und-geschaftshaus-bugginger-strasse-freiburg/

避難空間もオール木というのは前例がないので、消防関係など許可申請で調整に時間がかかったようですが、現場立ち上げは1週間。入居は、今年夏頃になるそうです。
建設場所は、1960〜70年代にできた社会福祉住宅の地区ワインガルテンの真ん中。ここにコンクリート建築とさほど変わらない値段で経済的な木造高層建築ができたこと、社会的な賃貸住宅として運営されていくことは、大きな意味があると思います。これから視察に来られる方々を案内したい物件です。

「となりのパラダイス」は、サバンナと密林だった!

今、ドイツの著名な哲学・神学者でベストセラー作家ヨハネス・ハルトルの新刊『エデン・カルチャー』を読み始めました。「人間らしさ」に希望を託した未来のビジョンが書かれた本です。SDGsでは主に、人間が地球に与えるインパクト「人間のエコロジー」がテーマになっていますが、ハルトルは、人間のエコロジーを超える「心のエコロジー」を提唱しています。心のエコロジーは機械にはない「人間らしさ」で、1)結びつき、2)意義 3)美意識から成り、それは、彼によれば、身近にもある「楽園(エデン)」に存在するものです。

序章で、「エデン(=パラダイス)」の記述があります。現代人の大半が頭に描くパラダイズは、草原に樹木がまばらに立っていて、川や湖がある風景だそうです。田園風景もこれに近いものです。人間のこの「好み」は、人類ホモ・サピエンスが誕生し、長い間、生活していたアフリカのサバンナの風景から来ている、という説が紹介されています。

夕方、その箇所を読んだ後、マウンテンバイクで外へ出かけました。私が「身近なパラダイス」と呼んでいる、すぐ「となり」にある牧歌的な風景の中へ。住民だけでなく、たくさんの来訪者の心を和ませるシュヴァルツヴァルトの里山景観です。拙著『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』の4章に記述しています。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B091F75KD3

開けた谷間の坂道を登りながら、ここにサバンナの要素があることに、はじめて気付きました。緑の牧草地とそこにまばらに点在する果樹です。牧草地の上に被さるようにして森もあります。人類の遠い祖先は、サバンナに出てくる前は、密林の樹上で長い間、生活していました。だから、森林の中の風景も、おそらく、人間の遠い記憶の中に刻まれている楽園であって、いくつかの書籍では、それが森林浴の精神医学的効果の一つの要因として挙げられています。

街の郊外の住宅地に住む私たち家族が、徒歩5分、自転車だと1分でたどり着ける「となりのパラダイス」は、人類の遠い記憶に刻まれている「サバンナ」と「密林」という2つのタイプの楽園が並存している、とても贅沢なところなんだと、認識を改めました。

田んぼと畑と草地と森からなる日本の田舎の里山景観も、人間の生活文化が造った、類似の贅沢なパラダイスですよね。人々の、自然と調和した生活があって初めて維持される文化景観であることも、同じです。

ベーシックが大切

フォレストジャーナルに頼まれて、ドイツの森林業で、川上と川下を繋ぐキーマンであるフォレスターの記事を書きました。
https://forest-journal.jp/market/31805/

1)質の高い森林調査と整理されたデータ、
2)持続的な素材生産計画、そして、
3)現場や所有者の状況を隅々まで把握する異動が基本ないフォレスターの「頭脳コンピューター」の大切さを、
とりわけ強調しました。
日本では、四半世紀前から「高性能林業機械」、ここ数年は「スマート林業」「異業種参入」などアピールされていますが、それらの魅力的に聞こえる「ツール」も、上記の3つのベースに加え、4)質の高い道のインフラと、5)人を育てる教育システム、という基盤があって初めて、その性能が発揮されます。
私は、何事もベーシックが大切だと思います。ベーシックは目立たないし、見新しくないし、単年度という組織の都合や、政策決定者の短い任期内では、目に見える成果は上げられないことが大半なので、抜本的な議論や長期的なビジョンの構築と実践は、やりにくい構造ですが、やるべきことだと思います。
それから、記事の最後に書いていますが、その職業を学ぶ人間、それに従事する人間にモチベーション与える「ロマン」も大切だと。

https://forest-journal.jp/market/31805/