「公共善エコノミー」 〜 中欧でロングセラー、世界的な社会運動にも広がっている本を、日本語に翻訳しました。クラウドファンディングで支援者を募っています。

これまで学術論文や資料などの翻訳は頼まれて時々やっていましたが、本屋に並べられる一般書の翻訳は、初めてです。翻訳したい、翻訳する意義がある、たぶんうまく翻訳できる、と強く思ったので、2年前に著者に連絡をとり、岩手と宮崎の中小企業家同友会を通じて、意義を理解する出版社を仲介いただき、今年2022年末に日本で出版される、というところまで辿り着きました。
この本に出会ったきっかけは、毎年のように来欧し、中欧の環境・社会の先進事例を視察されている岩手中小企業家同友会と一緒に2019年に視察したフライブルクの豆腐工場「Taifun」でした。下記は、私が書いた記事です。

https://econavi.eic.or.jp/ecorepo/learn/575
https://econavi.eic.or.jp/ecorepo/learn/585
https://econavi.eic.or.jp/ecorepo/learn/596

このTaifun社が「公共善エコノミー」の運動に参加し、実践していました。そこで私は興味が湧き、その元になっている本『公共善エコノミー(Gemeinwohlökonomie)』を買って読みました。非常に明瞭で、リズミカルに書かれている専門書でした。

私は大変感銘・共感し、2021年春に出版した拙著『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』でも、随所に「公共善エコノミー」の記述を引用しました。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B091F75KD3

『公共善エコノミー(Gemeinwohlökonomie)』は、学者、作家、政治活動家、ダンサーという多面的な顔を持つオーストリア・ウィーン在住のクリスティアン・フェルバー(Christian Felber)が、同名の本によって2010年に提唱した、公共の幸福に寄与する「倫理的な市場経済のコンセプト」です。著書は2018年には改訂版の文庫本も出版されるロングセラーになり、12か国語に翻訳されています。今年、それにフランス語と日本語の翻訳が加わります。

現在の資本主義による市場経済システムは、人間が生物学的に不得意な「競争」を原動力にして「利潤」を獲得することを目指すものです。それによって深刻な環境問題や社会問題が引き起こされています。「尊厳」と「信頼」という人間社会の根源的な価値をベースにしたフェルバーの公共善エコノミーは、人間の得意な「協力」を原動力として、万人が幸福な持続可能な社会の構築を目指す、オルタナティな市場経済のコンセプトです。資本主導の市場経済からヒューマニティ主導の市場経済への具体的な転換方法と事例が描かれています。ドイツの著名な環境ジャーナリストのフランツ・アルトは、公共善エコノミーのことを「社会主義と資本主義の間に位置する実用的な第3の道」と評しています。

公共善エコノミーは、単なる提言や問題提起ではなく、「公共善決算」という企業や団体の経営評価システムを備えた具体的で実用的なものです。ヨーロッパを中心に世界中で、その実践が広がっています。現在、2000以上の企業・団体が「公共善エコノミー」のコンセプトに賛同していて、約500企業・団体が「公共善決算」を採用しています。自治体レベルでの参加と実践も増えていて、市民を巻き込む包括的な直接デモクラシーの運動として展開しています。また、2014年に設立された公共善協同組合は、既存の銀行に呼びかけ、公共善バンキングの導入を推進していて、現在、700以上の公共善口座(預金総額は約22億円)が複数の銀行で開設・運営されています。

2022年夏現在、一通りの翻訳を終えて、著者との細部の詰め、宮崎の出版社「鉱脈社」と校正作業を行なっています。出版は2022年12月になる予定です。このプロジェクトを最初から強力に支援いただいている岩手中小企業家同友会の事務局長である菊田哲さんが、クラウドファンディングを立ち上げてくれました。8月8日にスタートし9月18日で終了します。支援を募っています。支援していただいた方へのリターンは、翻訳本、著者と翻訳者によるオンライントークイベント参加などです。

https://camp-fire.jp/projects/view/605926

一地球市民として、豊かな社会へのシフトへ、一石を投じられればと思っています。