オーストリアのリンツ近郊のハンガー製材工場を先月仕事で訪問しました、アルプス山脈の手前の緩やかな小高い丘陵地帯、牧草地と混交森がモザイク状に連なる美しい牧歌的な景観のなかに佇むサンクト・ウルリッヒという小さな村の中にあります。敷地には、直径1m前後の大きな広葉樹の丸太が積み上げられ、屋根付き倉庫群には、製材された板や角材が高く積み上げられています。
ハンガー社は、中央ヨーロッパにたくさんある典型的な家族経営の製材工場。現社長は5 代目。良質の広葉樹に特化した工場で、従業員は20名。社長婦人が経理と事務担当、70代の前社長も仕事を手伝っています。家族の強い絆と田舎の純朴な働きものの従業員によって運営されています。
年間約1万立米必要な原木は、秋から冬の期間、目利きのできる社長と現役を引退したお父さんの2人が、周辺地域だけでなく、ドイツ、フランス、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロベニア、クロアチアなどに車ででかけて、現地で直接買い付けし、トラックを手配して工場に運びます。オークやトネリコ、くるみや桜、ブナなど約10樹種の原木丸太を、一本一本製材担当者が見定めて、約40種類の製品に切り取っていきます。それを、品質を重視して、1から3年天然乾燥し、最後の仕上げに人口乾燥機にかけて相対湿度8%くらいにし販売します。なので、板や角材の在庫が2万立米ほどあります。
「森で200年、300年と長い時間をかけて成長した大きな樹木に敬意を払って、我々は、その価値を最大限いかす製品を、ゆっくり丁寧に時間をかけて作っている」
と社長は話してくれました。
製造販売する商品はほとんどが、家具や建具、フローリング、窓枠などに使用される高級材で、お客さんは、ヨーロッパを中心に20数カ国、大きな工場から小さな工房、輸出商社と様々で、小さな家具工房のオーナーが、直接やってきて、積まれた板を見て、「このブロックが欲しい」と言って買っていくこともあります。私が訪問したときも、そのようなお客さんが訪問してきていて、奥さんが対応していました。
社長は「ビジネス関係の構築も、木と同じように、ゆっくりと時間をかけてやっている」と話してくれました。ハンガー社は、原木の仕入れ先(森林所有者や事業体)とも、販売先のたくさんの業者とも、信頼関係をベースにした長期的な付き合いを心がけています。
自然にも人にも敬意を払い、価値の高いものを、丁寧に、多品目生産するこのような家族経営の工場の存在が、数世代に渡って、生態的にも豊かな立派な森をつくり維持発展させている森林経営を、何世代も使われる質の高い家具や建具の生産を支えています。
岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」2019年12月号に掲載