ワイン畑 -草との付き合い いろいろ

先日、バーデンワインの産地の一つカイザーシュトゥール地域の段々畑のワイン畑を家族で散歩しました。

春先から初夏にかけては植物の成長期で、草は、ブドウの木と競合関係にあります。土壌中の限られた水分と栄養分を求めた競争です。ただし草は、マメ科など根粒菌の働きで空気中の窒素を土壌でアンモニア態に変換固定する「緑肥」としての役割や、草の根が土壌の構造と生物多様性を豊かにし、土壌を「活性化」させ、「虫や菌の害を抑制」し、土壌の「保水能力」を高める機能もあり、大切なパートナーでもあります。

草との付き合い方、草の扱い方で、ワイン農家の哲学やコンセプトや慣習が見て取れます。ちょっと歩いただけで、多種多様なやり方に出会い、たくさんカメラに収めました。

除草剤を使って全てもしくはぶどうの木の根元の部分だけ草を枯らしている畑(以前は一般的だったやり方)。耕して雑草を根こそぎ除去を全面もしくは木の根元だけやっている畑。一列置きに草を残している畑。草もマメ科や麦科を人工的に生やしている畑、もしくは自然の草をそのまま生やしている畑。

エコの考えをもった、もしくは認証を取っている農家は、除草剤は使わず、耕して根っこごと除去することもあまりせず、草の役割と機能を活かした形で、草との競合関係を、ブドウに有利なように地表面の部分的な草刈りをメインに「調整」しています。

ここ数年、農家は、春先から夏にかけて、雨が少なく水不足に悩んでいますが、草と「共に」土壌をしっかり作っているエコワイン農家で、水不足の被害が少なく、他の畑よりブドウが元気であることが観察されています

木々の「言葉」が人間を癒す

森の樹木たちは、揮発性オイルというフェロモンを使って、自分の仲間の樹木や他の植物、昆虫などと密な交信をしています。このフェロモンの信号は樹木の「言葉」。木はメッセージに合わせて様々なフェロモン単語(=炭素化合物のバリエーション)を持っています。一つの森で200単語くらい、世界中の森林合わせると2000単語くらいあります。人や地域によって多様な方言や言語がある人間世界と同じ様に。

そして、その木々が話す多様な言葉(=多様な揮発性オイル)が、人間の心身の健康に優れた効用があることが、ここ30年あまりの、日本をはじめとした「森林浴」の医学的研究によって解明されてきています。木々が発する言葉やメロディが人間を癒す。まるでおとぎ話の世界のようですが、科学的な事実になりつつあります。

ドイツで最も美しいハイキングルート

私の住む南西ドイツ黒い森の「Zweitälerland(2つの谷の国)」地域が、2019年の「最も美しいドイツのハイキング道」コンテストで、ルート部門1位を取りました。イメージビデオをリンクします。
人間が自然と「共に」の営みの中で造成してきた牧草地と森林と伝統建築が織りなす美しい景観と自然へのアクセスの良さは、地域の自然や文化や地場産業と融合する「ソフトな観光」の大切な資産。
ドイツでは、フルタイム勤務者に年間26-30日の有給休暇(祝祭日は別)が「義務付け」られています。15%くらいの人は、3週間以上まとめて休暇を取っています。
今年は、コロナの影響で、これからドイツ国内での休暇が増えそうです。観光が解禁されて1週間、ドイツの人たちが、国内での休暇の予約を盛んにしているようです。我が家も小さな民泊アパートメントをやっているのですが、ここ1週間で立て続けにドイツ国内からの予約が入り、外国観光客のコロナキャンセルでぽっかり空いていたカレンダーが9月末までもうすぐ埋まりそうな勢いです。昨年「最も美しいハイキング道」の賞を取ったことも影響しているのでしょう。観光業は、我が家も含めて、地域で複合的に多面的に生計を立てている人たちにとって大切な生活基盤です。地域の手工業も観光業と密接な関係があります。

昔の建物は過剰設計?

今でも残っている築数百年の昔の建物は、分厚い壁、太い柱や梁など、マテリアルがふんだんに使われています。厳密な構造計算がなかった時代なので「これくらい使えばまず大丈夫だろう」という感覚や、建て主の見栄や権力誇示の目的で、そのようなマテリアルを「贅沢」に使用した建物が建てられています。日本でも寺院や大きな蔵、お城、明治のころの赤レンガの建物などはそうです。
現代の構造設計の基準からすると、確かにマテリアルの「無駄遣い」で「過剰設計」です。しかし、木や土や石がもつ高い「蓄熱(=調熱)」の性能の観点からは、大きな意味があります。省エネに繋がります。また自然のマテリアルが持つ湿度のバランスを取る「調湿」の性能も、建物の耐久性や人間にとっての快適さや健康に大きく寄与します。
断熱偏重で、軽量、できるだけ低コスト、機械設備に頼って室内環境を整える、という現代建築のメインストリームがあるなかで、それらに疑問をもったり、過去の失敗を反省する建築業者が現れています。昔の建築の良さ、自然のマテリアルの優れた性能を再発見し、健康で省エネの建物を作る事例も少しづつ増えています。
マテリアルは「過剰?」に使い、そこでお金がかかります。しかし、それによって、暖房や冷房設備も機械換気も必要なく、断熱材もわずかで済み、その部分で建設コストの節約ができ、さらにランニングコストが大幅に安くなります。全体のバランスを見ることが大切です。

建築:自然素材が持っている包容力と問題解決能力

省エネの建築というと、「断熱」と「気密」が合言葉になっています。しかし一方で、古代から使われてきた自然素材の優れた性質があります。それは「蓄熱(調熱)」「調湿」です。自然の素材である「木」や「土」が持っている熱と湿度のバランスを取る機能、調整する機能は、人間よりもはるかに長く存続している自然のもっている「包容力」であり「問題解決能力」です。

現代人は、問題があるとテクノロジーに頼りがちです。テクノロジーが何でも解決するという迷信や傲慢さが、さらなる問題を生み出しているケースも多々あります。

自然を活かした、自然と共にの哲学による、シンプルで賢い、テクノロジーを使わないで済むソリューションが、建築の分野にもあります。
調熱と調湿を備えた断熱と気密が、持続可能な省エネで健康な建築のソリューションになります。