解体後の廃材を積層パネルへアップサイクリング

2020年より、日本の佐藤欣裕と、スイスのサシャ・シェア、ドイツの池田憲昭のインターナショナルチームで、KANSOという名前のもと、自然と調和した「ローテク」の「シンプル」な建築のソリューションを提案、実践しています。

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現在、KANSOチームのモルクス建築社(秋田県仙北郡)の佐藤欣裕が、自社工房で、解体された建物の廃材(古材)を使って、積層木材パネルの製作実験をしています。

これまでは、地元の製材工場の端材(C/D材)を使ってパネルを製作してきました。接着剤は使わず、釘とビスだけで留める簡単なやり方で、普通の工務店の簡単な設備でできます。壁や床、天井に使用可能です。内部にたくさんスリットがあり、それが空気断熱層になって、非常に高い断熱性能も発揮します。秋田のスギ材で製作したパネルの断熱性能計測を研究機関に行ってもらったところ、熱伝導率は、0.05 W/mKと、セルロースファイバーや木質ボード断熱材とほぼ同等の数値が出ました。接着剤を使用し、空気層もないCLTパネルが通常0.12W/mK程度なので、その倍以上の断熱性能があることになります。CLTと同様に重量があり蓄熱性能に優れ、接着剤を使用していないので、調湿性能も十分に発揮されます。

ただこれまでは、コストの問題がありました。森林−地域製材工場−工務店というダイレクトな流通で端材をメインに使ってパネルを製作しても、パネルm3あたり10万円前後の価格になりますが、建築廃材を使用すれば、製作の手間は若干多くなりますが、材料費が浮く分、安くなり、6万円前後になると試算しています。建物解体を請け負う工務店がパネルを作るのであれば、解体作業の収入もあるので、その分をパネル製作費から差し引くと、さらに2〜3割安くできることにもなります。

日本では現在、築30年前後の建物が大量に解体されています。その理由は、耐震性能がない、腐りがあるなど、リフォームの価値がない、もしくはリフォームが割に合わない、または、持ち主が単に新しく建て替えたい、といったものです。その解体木材の7〜8割は焼却され(一部熱利用)、残りはチップになっています。防腐処理やペンキ塗装がされた木材は、積層パネルには使えないですが、無垢の柱や梁に使われていた木材は、十分な利用価値があります。それを選別して集め、アップサイクリングするのです。普通の工務店の簡単な設備でできることです。

古材パネルが、新材パネルに比べてどれくらいの断熱性能があるのかは、まだ試験していないのではっきりした数字は言えませんが、30年余り乾燥しているので、同じスギであれば、おそらく同レベルの性能があると推測しています。

「木材パネルは、蓄熱・調湿性能は高いけど、断熱材としては性能が劣る」という業界の懸念は、空気スリットを入れた接着剤を使わない積層製材パネルの実証実験で覆すことができました。

もう1つの懸念「でも積層木材パネルは高価」は、建築廃材(古材)を活用することで、大分抑えることができると見ています。しかもこの方が、資源節約と資源の有効利用になり、環境パフォーマンスは良くなります。

森で60年から100年かけて育った木材を、30年使って燃やすなんてもったいないし、木に対して失礼です。日本には築1000年以上の世界最古の木造建築物もあります。

KANSOモデルハウス「美郷アトリエ」が初めての夏を迎える

自然のマテリアルの多面的な機能を最大限に活かす、その中で蓄熱(吸熱と放熱)と調湿を主軸に置いた、暖房も冷房も機械換気も必要のない建物が、秋田県仙北郡美郷町の「もるくす建築社」の新オフィス「美郷アトリエ」として、今年春に完成しました。

元祖KANSOの建物を2014年に伴侶と一緒にスイス中央アルプスの麓に建設し住んでいるサシャ・シェアと、それに感銘を受けた「もるくす建築社」の佐藤欣裕、そして森林木材コンサルタントの私・池田憲昭の3人の共同作業の結果です。

冬はスイスのアルプスでの経験もあるので自信がありますが、日本の蒸し暑い夏は初めての経験なので、今回、貴重な学びになります。

北国の秋田ですが、仙北郡は内陸の盆地にあり、夏の昼間は気温30度を超え、湿度も70%以上になることが頻繁にあります。

うまく機能しているかどうか、ちょっとドキドキしながら、佐藤氏に様子を聞いてみました。

夏場はまず、室内に太陽光の熱放射(電磁波)を入れないことが肝心。高い位置から射す夏の太陽の光は、伝統的な長い庇で完全にシャットアウト。窓の内側には全く太陽光が当たりません。だから外付けのブラインドもカーテンも入りません。これで、日中に室内空気の熱気を吸収すべき室内側マテリアルの吸熱容量が確保できます。

職員3-5名が働くオフィス。人間も放熱体です。日中外気温が30度を越える高温多湿でも、室内の空気の温度は最高29度くらい、湿度は60%前後で抑えられているようです。一応予備でつけている冷水を流す冷房設備は、これまで使う必要はなかったとのこと。暑がりの社員が時々団扇を使うくらいだそうです。新鮮な空気を入れ替えする必要があるので、時々社員が窓を開けて換気しています。「温度計を見ると、室内も結構な気温だけど、全く不快とは感じない」と佐藤さんは感想を言います。

質量の大きな木や土や石という蓄熱容量と調湿力の高いマテリアルが、夏の暑い中でも、どんどん「吸熱」し「吸湿」しているようです。マテリアルの吸湿で湿度が少し下がれば、体感温度も下がります。また、マテリアルの表面は室内空気より冷たいので、マテリアル付近の空気の温度は2〜4度低い値になっています。人間の体から出る熱放射(電磁波)が、冷たいマテリアルの方に移動し続けている状態でしょうか。室内の人間は日中、土や石や木に絶えず「熱を吸われている」状態なので、体感温度は、実際の温度より低く感じるのかもしれません。マテリアルは、その質量で、蓄熱容量を十分すぎるくらい保有しているので、日中に数回の外気の取り入れや、人間やオフィス機器の放熱があっても、吸熱し続けられます。マテリアルが熱で溢れてオーバーヒート(放熱)することはありません。

外気温が下がる夜間は、玄関室と屋根裏に組み込まれている夜間冷却用の窓を開けて、室内の温まった空気とマテリアルを冷やします。これによりマテリアルの吸熱容量が再び増加し、翌日の熱気に備えられます。ただし、夜間でも30度を越える熱帯夜が数日続くような場合は、時々、冷房装置をつける必要があるかもしれません。

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第6感で感じる快適さ

KANSOモデル棟第1号を新オフィスとして使い始めて3週間が経つ、もるくす建築社の佐藤欣裕氏に、実感を聞いてみました。「室温はすごく安定している。自分が住んでいる省エネ建築の自宅と比べて、マテリアルの質感が圧倒的で、何か、第6感で感じる心地よさがある」という回答をもらいました。現代の省エネ建築の合言葉は「断熱」ですが、KANSOでは、「蓄熱」と「調湿」を主軸にしています。「断熱性能」は、空気の温度差があるところでの、マテリアルの熱伝導率に基づいて導き出されます。空気の温度を基準にしたとき、その空気に挟まれたマテリアルが、どれだけ熱を逃しにくいか、ということを表現しています。一方で、「蓄熱」は、マテリアルが熱を「吸熱」したり、「放熱」したりするマテリアル自体の性能です。空気の温度は基準ではないし、直接的には関係ありません。また、断熱は、熱の「伝導」と「対流」をベースにしたマクロ物理学の理論で明確に説明できることですが、「蓄熱」では、熱を持った物体から出る「電磁波」の放射と吸収という、ミクロの量子力学の世界の事象が中心になります。マテリアルの放熱や吸熱の量やスピードや深さは、マテリアル自体の絶対温度や分子や細胞の構造によって変わってきます。様々なパラメーターがあり、流動的であり、簡単に数字で説明することが難しい事象です。現代の建物のエネルギー性能は、マクロの事象を扱う熱力学の「断熱」を中心的な指標にして計算されています。「蓄熱」も、建物エネルギー証書の数字の算出の際、一応考慮されてはいますが、大雑把な概算式であって、蓄熱のマクロの世界の「母音」はある程度表現できていても、ミクロの世界の「子音」は含まれていません。証書のエネルギー性能は同じ値の建物であっても、蓄熱や調湿性能が高い建物の方が、実際のエネルギー消費が低い、という「不思議」な事例は沢山ありますし、または室温が18℃であっても、マテリアルの電磁波による熱放射作用によって、体感温度は22℃くらいに「快適」に感じることは、住んでいる人が経験しています。「佐藤さんが言う第6感というのは、ミクロの量子の世界のことかもしれないね」と私は返しました。ミクロの量子論の世界は、マクロの世界(人間の一般常識や感覚)とは全く異なる現象と原理があります。私はそれに魅了されている1人ですが、理屈で理解しづらい不思議で神秘的な世界です。物理の世界では、マクロとミクロの世界の大きな隔離を埋めるための研究が進んでいます。最近、ネットで見つけたのですが、2017年に、東京大学の研究チームが、マクロの世界の熱力学第2法則を、ミクロの世界の量子力学から導出することに成功したようです。これは画期的なことです。https://www.t.u-tokyo.ac.jp/…/setnws…

【KANSO建築 構造見学会】

 参加費無料11月21日(土)午後、秋田県仙北郡にて「KANSO」建築の見学会を開催します。「KANSO」は、スイスの建築家 サシャ・シェアと、日本の建築家 佐藤欣裕(もるくす建築社)と ドイツ在住の池田憲昭(私)がチームを組んで昨年から準備してきたものです。

日本でのKANSO実験棟が現在、もるくす建築社の新オフィス「美郷アトリエ」として建設されています。21日は、立ち上げが終了し、断熱施工中の予定です。

KANSOは、名前のとおり、自然素材を使い、シンプルな構造、機械設備をできるだけ使わなくて済むシンプルなソリューションです。暖房も冷房も機械換気も、おそらくレンジフードも使う必要がない、年中快適な室内環境を保てる建物を設計、建設しています。その秘訣は、質量のある自然素材の躯体をベースに、蓄熱(調熱)、調湿、消臭、除菌、という自然素材が持つ多面的な機能を効果的に活用することです。

案内はこちら
https://www.kanso-bau.com/fileadmin/Medien/Download/20201121_KANSO_Event.pdf

スイスの建築家のシェアとドイツの池田は、当日ZOOMにて現場と繋がります。

昔の建物は過剰設計?

今でも残っている築数百年の昔の建物は、分厚い壁、太い柱や梁など、マテリアルがふんだんに使われています。厳密な構造計算がなかった時代なので「これくらい使えばまず大丈夫だろう」という感覚や、建て主の見栄や権力誇示の目的で、そのようなマテリアルを「贅沢」に使用した建物が建てられています。日本でも寺院や大きな蔵、お城、明治のころの赤レンガの建物などはそうです。
現代の構造設計の基準からすると、確かにマテリアルの「無駄遣い」で「過剰設計」です。しかし、木や土や石がもつ高い「蓄熱(=調熱)」の性能の観点からは、大きな意味があります。省エネに繋がります。また自然のマテリアルが持つ湿度のバランスを取る「調湿」の性能も、建物の耐久性や人間にとっての快適さや健康に大きく寄与します。
断熱偏重で、軽量、できるだけ低コスト、機械設備に頼って室内環境を整える、という現代建築のメインストリームがあるなかで、それらに疑問をもったり、過去の失敗を反省する建築業者が現れています。昔の建築の良さ、自然のマテリアルの優れた性能を再発見し、健康で省エネの建物を作る事例も少しづつ増えています。
マテリアルは「過剰?」に使い、そこでお金がかかります。しかし、それによって、暖房や冷房設備も機械換気も必要なく、断熱材もわずかで済み、その部分で建設コストの節約ができ、さらにランニングコストが大幅に安くなります。全体のバランスを見ることが大切です。