日曜日の課題

「木の葉っぱが秋に赤や黄色になるのはなぜ? 今から2時間、ネットや本で調べて、発表しなさい! 一番良くできた子には、アイス屋さんでスパゲッティーアイスをご馳走する」と日曜日の朝食のときに、我が子3人に課題を出しました。

控えめだけど、質問に一番厳密に簡潔に9割方正しく答えたのは15歳の長女。学校でも良く手を上げて発表したがる13歳の次男は、色の変化だけでなく、葉っぱがなぜ落ちるかとか、光合成のことまで説明。7歳の末娘は「葉っぱは死ぬのが怖いから赤くなる」「いや違う、本当は虹が色をつけてくれるから」と哲学的で詩的な答えをくれました。

生物学的な答え:葉っぱの中には、黄色をもたらすカロチノイド、赤色をもたらすアントシアニン、そして緑色をもたらすクロロフィルという分子がある。光合成をするのはクロロフィルで、マグネシウムと窒素を中核とする有機物質からなりたっており、たくさん光合成をする春から初秋にかけて、通常このクロロフィルの割合が多く、黄色のカロチノイドと赤色のアントシアニンを覆ってしまうので、緑に見える。晩秋で寒くなり、土も凍りはじめ、光合成に必要な十分な量の水を土壌からの吸い上げるのが困難になり始めると、木は葉っぱを落とし、水不足の冬環境に適応するが、その前に葉っぱのクロロフィル分子を解体し、その主要物質であるマグネシウムと窒素を枝や幹や根に、次の春が来るまで貯蓄しておく。この落葉前の過程で葉っぱのクロロフィルが少なくなると、隠れていたカロチノイド(黄色)やアントシアニン(赤色)が表にでてきて、「紅葉」となる。

カロチノイドやアントシアニンには、綺麗な秋の紅葉を見せるだけでなく、紫外線からのダメージを防ぐという、木の葉っぱを守る大切な役割があります。また赤色の原因分子であるアントシアニンは、防虫防菌作用もあります。

子供達の発表のあと、「じゃあ、どこから赤や黄色や緑の色が出てくる」とさらなる質問しました。上の2人はすぐに「そういう色素を持った物質がそこにあるから」と回答。「ブー、外れ」。すると末っ子の娘は「色は空から降ってきている」と詩的かつ、核心に迫ることを言いました。

物理学的な答え:人間に見える色は、太陽光の可視光線と、それに対する物質の反応から生じる。緑の葉っぱは、主体のクロロフィルが、波長の短い青の可視光線と波長の長い赤や黄色の可視光線を吸収し、緑の部分だけ反射しているから。カロチノイドは、黄色の波長を反射し、他の色の波長を吸収、アントシアニンは、赤色の波長を反射し、他の色の波長を吸収。

この季節外れの質問をしようと今朝ふと思いついたのは、我が家の前庭に育つ樹齢50年の日本原産の「のむらもみじ」の赤紫の葉っぱが目に入ったから。おそらく江戸時代に天然のイロハモミジから品種改良されはじめ、公園や庭先に植えられているこの品種は、春先に赤紫色の葉っぱを広げ、夏に緑っぽくなり、秋に朱色の綺麗な紅葉をします。光合成をする期間に、緑じゃなく赤が優性なこのモミジには、綺麗な色を長い期間見たくて品種改良した人間の都合だけでなく、生物学的意味があるようです。天然のイロハモミジは、日陰の湿った場所に適応した樹種で、太陽光がたくさん当たる公園や庭では、紫外線が強すぎるため、自分をまもるため、赤色のアントシアニンをたくさん身につけたノムラモミジに変異し新しい環境に適応して行ったようです。

美しさの背景にあるもの

中央ヨーロッパの田舎の美しい景観。住んで25年、見慣れている景色ですが、いつ見ても新鮮で、ため息混じりに見とれてしまいます。特に花と新緑、生命の躍動が感じられる今の時期は。
この景色は、文化景観(カルチャーランドスケープ)と呼ばれ、人々の自然への働きかけ、営みがあってはじめて維持されます。副業や趣味が主体の農業や森林業、この景観を一つの資本とする観光業、個性豊かで質が高い家族経営の商店、地域の生活の需要と品質を支えるレベルの高い様々な手工業、グローバルに活躍しつつも地域の雇用と人材育成を大切にする中小企業、各種芸術家、行政、教育関係者、地域の各種NPO団体、そして人々の健康を支える医療。これら多様なプレイヤーが有機的に密接に繋がり補完し合うことで、地域が、この美しい景色が維持されています。
今回のコロナ危機は、この一見のどかで平和に見えるこの地域にも、大きなダメージを与えるでしょう。しかし、リーマンショックやその他の過去の危機を克服してきたように、「複合的な多様性」という危機への強さをもって、地域で助け合い、粘り強く、クリエイティブに乗り越え発展して行くでしょう。
ロックダウンから1ヶ月、軒先や散歩の途中やスーパーでの買い物のときに出会う近所の人や知人、友人、経営者、職人、会社員などと、2m以上の感染防止距離を置いて立ち話。話題の中心は自ずとコロナ。「今大変だけど、みんなで耐えて乗り切ろう」「新しい商売の方法を考えなきゃ」「健康が一番、気をつけて」と励まし、刺激しあっています。
私も、少なくともこれから数ヶ月は、この地域の美しい景色や持続可能なコンセプトや事例など、直接日本のお客さんに生で見せて体験してもらう視察セミナーはできませんが、インターネットの助けを借りてオンラインでのレクチャーやセミナーを提供し、あとはこの機会に執筆や、次の展開のための充電と構想の時間に当てたいと思っています。

Taifun-Tofu -ドイツ豆腐パイオニア

南西ドイツ、シュヴァルツヴァルトの西の麓に位置する環境首都フライブルク市。その隣村ホッホドルフに、有名な豆腐工場がある。名前は、タイフーン豆腐有限会社(Taifun-Tofu GmbH)。国際用語にもなっている「台風」にちなんだ名前だ。従業員は現在約270人、年間売上げは、2019年で3800万ユーロ(約46億円)、1週間に約100トン、約50万個の豆腐商品を生産し、ドイツを中心に欧州15カ国に販売している。ドイツでは市場シェアNo.1の豆腐メーカーである。そして商品は100% Bioビオ(有機認証食品)。欧州の約1万軒の自然食品の専門店、その他大手スーパーや小売店数十社の店舗に並んでいる。

従業員270人の中堅企業に成長
従業員270人の中堅企業に成長

小さなそよ風が大旋風に

 名前のとおり、欧州の食品業界に豆腐の「大旋風」を巻き起こしているタイフーン社であるが、始まりは、フライブルク市旧市街にある小さな建物の地下室から起こった小さな「そよ風」だった。
 1985年、環境と食に関心があり、社会を変えたいという思いを持った数名の若者たちが、アメリカ旅行で知った豆腐という栄養価の高いベジタブルフードと、それを使った様々な料理の可能性に魅了され、いろいろ実験を試みた。その中心メンバーがタイフーン社の設立者でオーナーのヴォルフガング・ヘック氏だった。
 翌年の1986年には、週に4kgの有機豆腐を製造し、朝市の屋台で販売を開始した。最初からビオであった。当時、ヨーロッパでは目新しかったこの食品は、フライブルクですぐに人気が出て、1987年にはタイフーン社を設立、新規に広い工房を借りて、製造量を週800kgに増やし、売り場もフライブルクで新しくオープンしたマーケットホールの一角に移した。この新しい手作り食品の地域での知名度は益々増して、フライブルク市内と周辺地域の数軒のビオの小売店から販売したいという問い合わせが来るようになり、卸売も始めた。販売量が増えると、地域のビオ卸売会社に小売店への販売を委ねるようになった。

タイフーン豆腐有限会社の設立者ヴォルフガング・ヘック氏、フライブルクのマーケットホールにて
タイフーン豆腐有限会社の設立者ヴォルフガング・ヘック氏、フライブルクのマーケットホールにて

タイフーン社躍進の大きな転機は、1990年1月のベルリンでの食品見本市であった。ベルリンの壁が開けられて2ヶ月後、彼らが見本市会場の片隅の小さな屋台でフライパンを使って焼いた試食の豆腐は、多くの東ベルリン市民の好奇心をそそり、焼いた側からすぐになくなる状況だった。そこに広くドイツ各地で自然食品の卸売を行う会社が訪れ、「うちの会社の商品リストに入れたい」と申し出た。そこからタイフーン豆腐の全国販売が始まった。
 1994年にも大きな変革があった。従業員が20人にまで成長していたタイフーン社は、現在の所在地であるホーホドルフの工業団地に新しい工場をつくり、これまでの手工業的な生産から、工業的生産へ大きくシフトした。それから今日まで約25年、このビオの豆腐製造会社は、人々の健康志向や環境意識の高まりも受けて年々市場を拡大し、それに合わせて生産工場も増築拡張し、従業員も増やしていった。

初期の小さな豆腐工房での製造風景
初期の小さな豆腐工房での製造風景
現在の豆腐工場での製造風景 -豆腐ソーセージ
現在の豆腐工場での製造風景 -豆腐ソーセージ

ヨーロッパ人の味覚に合わせた多様な豆腐商品

 豆腐のパイオニア企業タイフーン社の成功の理由の一つは、その商品の多様さとヨーロッパ人への馴染みやすさである。「ヨーロッパ人の味覚に合わせて、アジアにはない新しい商品を開発した」と1994年から会社で働く経営マネージャーのアルフォン・グラフ(Alfon Graf)氏は言う。木綿豆腐や絹ごし豆腐、揚げ出し豆腐など日本でも馴染みのものもあるが、人気があるのは独自に開発した燻製豆腐である。
 「ヨーロッパには昔から燻製の文化があるからね。それを豆腐に応用したんだ」とグラフ氏。
 また、ウインナーソーセージやスライスソーセージ状の燻製豆腐もある。味のバリエーションも多彩で、例えば木綿豆腐には、バジル味、オリーブ味、マンゴーカレー味があるし、揚げ出し豆腐には、ピザ味、イラクサ味などがある。

ヨーロピアナイズされた多彩な豆腐商品
ヨーロピアナイズされた多彩な豆腐商品

ベジタリアンと豆腐

 タイフーン社は、料理のレシピの開発も行っており、会社のホームページには、サラダやサンドイッチ、スープ、グリル/オーブン料理、スパゲッティやピザ、ケーキやアイスなど、オードブルからデザートまで、アジア風からヨーロッパ風まで、ヨーロッパ人の趣向に合わせた多彩な料理が紹介されている。豆腐の発祥地であるアジアにもいろいろな豆腐料理があるが、大きな違いは、タイフーン社のレシピには肉や魚が一切使われていないことである。ドイツで豆腐を食する人たちの多くはベジタリアンで、たんぱく質の多い豆腐を、肉や魚の代価として食している。ベジタリアンは現在世界中で増加しているが、ドイツでは全人口の約10%がベジタリアンとの調査結果もある。そのうち10%(すなわち全人口の1%)は、ビーガン(動物性のものを一切食べない完全な菜食主義者)である。ベジタリアンやビーガンの人にとっては、豆腐は欠かせない食品になっている。最近各地で急速に増加しているベジタリアン、もしくはビーガンレストランでも、豆腐は必ずと言っていいほどある。
 最近20年あまりのこのような菜食文化の普及も、タイフーン社が小さな風から大きな旋風に成長した理由の一つである。ベジタリアンは、環境保護や動物保護、健康志向などの動機がベースとなっているが、タイフーン社の設立当初のメンバーたちも、同様の問題意識をもって事業をはじめ、現在でもそれが継続されている。

多様な豆腐のレシピ。
多様な豆腐のレシピ

 さて、豆腐の製造には大豆が必要であるが、次回のレポートでは、タイフーン社がコーディネートする欧州でのその大豆の栽培と品種改良の取り組み、会社の理念である「福祉エコノミー」について紹介する。

タイフーン豆腐有限会社のサイト