WhyとHow

「ドイツではどうなのでしょうか」「ドイツではどうしていますか」日本の視察団からよく発せられる質問です。英語で言うと「How」です。経験的に物事を積み上げ、改善、改良し、その結果としていいモノをつくる、というプロセスが一般的な日本においては、「自然な」質問です。他の場所でどうなのか、どうやっているのかを知り、自分のプロセスの全体もしくは一部の改善のためのお手本にする、という手法です。特に明治以来、日本人はこのやり方を徹底し精錬し、世界をリードするモノを生産し、日本の経済を発展させてきました。

しかし、「How」だけでは見落としてしまうものがあります。それは、日本人が手本として手に取るモノが、どういう考え方、目標、枠組み条件の上にあるのか、という観点です。「なぜそうなのか」「なぜそうしているのか」という「Why」の質問で明らかになるものです。

持続的に成功しているもの、成熟し安定して機能しているものの背景には、古今東西を問わず、明確な哲学とコンセプトと合理性があります。それらの事例を学ぶのに、Howという質問だけでは、表面的で部分的な情報の入手だけに終わってしまう危険があります。Whyという問いかけで、根底にあるもの、背景にあるものを知って初めて有用な情報になります。

Howという質問だけで得た欧州の表面的で部分的な情報やノウハウやモノを、哲学やコンセプトや枠組み条件が異なる日本のプロセスのなかに組み入れ、目の前の問題の解決、改善を試みたが、上手く行かなかった、という事例は残念ながら数多くあります。

小さい頃から学校でも家庭でも社会でも、経験的手法の訓練を受けている日本人は、「お手本」となる事例やモノや人物を求めがちです。

私はドイツの森林の専門家らと10年来、日本でコンサルティング活動をしています。日本の森林と地域の持続的な発展を目標に、日本の森林の立地条件(地質、地形、土壌、気候、植生など)と地理社会条件を抑えた上で、ドイツでの経験と実績を基盤に、「論理的」に日本にマッチしたソリューションを提案してきました。しかし、提案を受けた日本側のレポートや報告では、「ドイツの森林官がそう言いました」「ドイツではこうやっています」といった言葉で説明されることが多く、日本の高山などで、その土地の状況に合わせた、そこで機能する事例ができても、「欧州式」とか表現され、「本質が理解されていない」と歯がゆさを感じてきました。

今年10月に開催された5回目の岩手中小企業家同友会の欧州視察では、「Why」の問いかけが、これまでよりも多くありました。一部の参加者の方からは、「自分の会社を、地域を変えなければならない」という強い思いと使命感、気迫を感じました。

岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」2018年12月号に掲載のコラムより

投稿者: Noriaki Ikeda

日独森林環境コンサルタント 南西ドイツを拠点に、地域創生に関わる様々なテーマで、日独の「架け橋」として仕事をしています。 ・ドイツ視察セミナー ・日独プロジェクトサポート ・日独異文化マネージメントトレーニング

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