心が動いた

「私とカール・マルクスの違い… マルクスは、人類を変えたい。私は、個々の人間を変えたい」 ヘルマン・ヘッセ

ヘッセは、「愛」や「静寂」をテーマに、人間の内面を描く作品を書きました。理性や客観性が重視される社会風潮の中で、感情や主観の重要性をアピールしました。2つの大戦の時代に生き、移住先のスイスやイタリアから明確な反戦の意思も表明しています。1946年にノーベル文学賞を受けました。

人間は、理性と感情の生き物。西欧においては、資本主義と近代科学が始まって以来、感情や主観を排除して、合理的に客観的に考え、物事を進めることが重視されてきました。しかし、近年の脳医学の研究では、人が「良い」決断する際に、感情や直感が重要であることが分かっています。

ヘッセの作品は、戦後、知性や理性を重んじるドイツ国内の文学評論家やインテリ階級からは、「知的レベルが低い」「庶民的」などと批判、倦厭されましたが、世界中の多くの若者や庶民に読まれ、今でも読み続けられています。60年代後半にアメリカ西海岸で始まった「Love & Peace 」運動は、ヘッセに大きな影響を受けています。多くのジャズ音楽家、ヨガやホリスティック医療なども。一人一人の内面から、人間社会に変化が起こりました。

ドイツの近年の再エネの躍進の原動力となったのも、当初「環境気違い」と嘲笑されたドイツの環境パイオニア達の情熱と将来への思いやりと実践です。彼らが人々の心を動かし、政治を社会を変えていきました。

気候変動の危機を肌身で感じる今日、“Friday for future“ という子供達のデモ活動が、理屈や客観的データだけでは動かなかった大人たちの心を動かし、政治と社会を変えようとしています。スウェーデンの14歳の1人の少女が始めた運動は、僅か半年の間に、世界中に広がりを見せています。「子供達が学校を休んでデモをやらなければならない状況を作っている自分たち(大人)は何をやっているんだ。このままじゃいけない、変わらないと」という雰囲気が社会の隅々に広がっています。それは、私の仕事でも日常生活でも肌身で感じられることです。

5月末にあった欧州議会の選挙で、ドイツでは、緑の党が得票率20%(前回から10%アップ)と大躍進をし、第二党になりました。連立政権のCDU(キリスト教民主同盟)とSPD(社会民主党)は、前回から−7%(CDU)、−11%(SPD)と大きく票を失いました。投票率は60%と、前回の42%を大きく上回り、国民の関心の高さが示されました。ベルリン、ミュンヘン、フランクフルト、シュトゥットガルト、ケルン、ボン、デュッセルドルフなどの主要都市においては、緑の党は、30%前後でトップの得票率を得ています。

欧州議会選挙の2週間後の6月6日、ドイツ国営放送ARDが行なったアンケート調査によると、緑の党の支持率は26%と、2位のCDU (25%)を僅差で抜いて、トップに躍り出ました。

岩手中小企業同友会 会報「DOYU IWATE」2019年7月号に掲載

投稿者: Noriaki Ikeda

日独森林環境コンサルタント 南西ドイツを拠点に、地域創生に関わる様々なテーマで、日独の「架け橋」として仕事をしています。 ・ドイツ視察セミナー ・日独プロジェクトサポート ・日独異文化マネージメントトレーニング

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