持続可能性 〜ノアの箱船とタイタニック

「持続可能性」という言葉は、今から約300年前、ドイツの林業の世界で生まれました。ドイツ語で「Nachhaltigkeit」。具体的には、ザクセン地方のカルロビッツという人物が「森林の持続可能な利用」を、1713年に書籍にまとめて発表したことがその起源です。

しかしそれ以前から、森林を絶やすことなく将来に渡って持続的に利用していく考え方、制度、実践は、世界各地にありました。農家林家や集落の共有地、木材を必要とする産業から生まれています。共通するのは、「将来への配慮」と「危機意識」です。「今の自分たちの世代のことだけを考えて、森を一気に切ってしまったら、将来の世代は生きていけない、村や地域や産業は、消滅してしまう。将来の世代もしっかり生活していけるような森林利用をしなければならない」という考えや思いです。

森林利用を題材に「持続可能性」という概念を、初めてしっかり文章にまとめ世に出したカルロビッツは、鉱山のマネージャーでした。鉱山は、坑道の補強や鉱物の溶鉱の燃料として大量の木材が必要です。鉱山の周りで伐採跡の禿山が拡大する状況がありました。鉱山が、30年後も50年後も、子供の代も孫の代も、しっかり存続していくためには、地域の限られた資源である森林を計画的に持続的に使っていかなければならない、という「将来への配慮」がカルロビッツの提案の根底にあります。

「持続可能性」という概念は、学者や官僚や政治家が考えたものではありません。家族や企業や地域の将来を真剣に「思いやる」現場の人たちから生まれた言葉です。

今日の人類は、気候変動、資源枯渇など、人類存続に関わる大きな問題、課題を抱えています。世界一丸となって具体的な行動をしていかないと、次世代の将来が危うい、という「配慮」の気持ちが高まっています。世界各地の環境団体や市民団体やイニシアチブが、過去数十年に渡って、エネルギー、食料、廃棄物、空気汚染、森林、農業など様々な分野で、粘り強く抗議、提言、行動し、市民の意識を、そして政治や世論を変えています。

「タイタニックは、プロがつくった。ノアの方舟は素人がつくった」(作者不明)

という言葉があります。2つの船の結末は、みなさんご存知の通りです。タイタニックは沈みました。ノアの方舟はみんなの命を救いました。

政治•経済•科学技術の分野のプロと言われる人たちがつくって運転している船は沈みかけています。生き残るためには、素人がつくったノアの方舟に乗り換えなければなりません。素人とは、現場に生きる、地に足の着いた、家族を、企業を、地域を、世代を超えて思いやり、行動する人たちです。

ドイツ視察 森林業 サステイナビリティの原点

ドイツ 経営者セミナー オープンマインド

ニーバーの言葉

ここ半年ほど、私の支えになっている偉人の言葉があります。

変えられないものを素直に受け入れる「平静さ」を私に与えてください。
変えることができるものを変えるための「勇気」を私に与えてください。
変えられないものと、変えることができるものとを識別する「賢明さ」を私に与えてください。

ラインホルド・ニーバー (1892〜1971) アメリカの神学者

社会的な思いを持って仕事をしていて、自分ではどうにもならない、変えられないものにぶつかることが時々あります。無理して頑固にナイーブにそれらに対峙してると、視野が狭くなり、ネガティブな感情に支配され、体調を崩すこともあります。一方で、視点を変え、心を開くと、今まで気づかなかった自分の可能性、やれること、物事を変える方法に気付くことがあります。自分一人ではできなくても、仲間と一緒であればできることにも気付くこともあります。

地域に根をおろし、地域で活動されている中小企業の皆さんは、国の制度や経済の枠組み、大きな世界的な潮流など、個々の企業、個々の努力ではどうにもならない、変えることができないものにぶつかり、憤慨され、悩まれることもあると思います。一方で、小さな企業だから、地域に根ざす企業だからできること、素早さ、フレキシブルさもあります。また都会にはない地方の豊かな自然環境、それに根ざした文化の中で生まれるアイデア、人の繋がり、コンセプトもあります。

変えることには「勇気」がいります。「覚悟」と「根気」も必要です。

「持続可能性」という言葉は、ドイツ林業に起源があります。地域に根ざした家族を大切にする人々の、将来への配慮、次世代への思いやりから生まれました。地域に根ざした企業活動をする人たちには、地域への思い、繋がり、家族愛があります。それらが、変革のために必要な「勇気」と「覚悟」と「根気」を与えてくれると思います。

岩手中小企業家同友会の会報「DOYU IWATE」に連載のコラムより

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