健康な省エネ建築(4) 窓と太陽光

建物の窓の第一の機能は、室内に光(太陽光)を取り入れることです。

太陽光は、人間の健康にとって欠かせないもので、セロトニン(幸せホルモン)とメラトニン(睡眠ホルモン)の生成、分泌、調節作用に働きかけ、脳と体の覚醒、精神の安定に寄与します。

窓は、省エネの観点では、太陽の熱エネルギーを取り入れる機能もあります。窓から入る太陽放射によって、壁や建具が熱を帯び、それらが室内に熱を放射(輻射)します。冬場の自然の熱源で、これをうまく生かすことで暖房コストを抑えることができます。夏は、部屋を涼しく保つため、太陽放射を室内に入れないように、庇(ひさし)やブラインド、シャッター、カーテン等で、遮光を行わなければなりません。

ただし、断熱の観点では、窓は、壁材より断熱性能が低く、室内の熱が外に出て行きやすい弱点の箇所でもあります。だからこそ、ここ数十年、窓の断熱性能をより高くする商品開発とその普及が進みました。ダブルやトリプルガラスのユニットで、断熱性能強化のために、密閉構造の中間層(ガラスとガラスの間)にはアルゴンなどの希ガスが注入され、遮熱性能を高めるためにガラスには特殊な金属膜コーティングがされた、高断熱窓です。省エネ住宅のスタンダードになっています。

高断熱窓の普及はしかし、窓の第一の機能である、太陽光の取り入れを一部制限してしまっています。

太陽光は電磁波ですが、人間の目が知覚できる波長は、380 nm(ナノメーター)の紫外線の領域から、紫、緑、黄色、オレンジ、赤の領域と来て、780 nmまでです。

複層ガラスで、間に希ガスが注入され金属膜コーティングされている高断熱窓は、従来の1枚ガラスの窓に比べ、10%から20%くらい、光透過性能がそもそも落ちます。そのなかで、できるだけ「明るく」するために、人間の目の感度が一番高い、可視光線領域の真中である550 nm(黄緑の部分)の波長の光をもっとも取り入れるように製造開発されたガラスが、ほとんどの高断熱窓で使用されています。

太陽光は、人間の脳と体の覚醒と、精神の安定に大きな影響を与える、健康上大切な要素です。人間の目の感度が一番高い部分の波長の透過に照準をあてたガラスを使用することは、最適な解決方法のように思えます。しかし、最新の医学の研究から、可視光領域の低い波長の部分、波長460 nm(青色)領域の光が、セロトニン(幸せホルモン)とメラトニン(睡眠ホルモン)の生成、分泌、調節作用に大きな意味をもっていることが判っています。高断熱窓の多くは、紫外線から青色の波長の光の透過性能が低く、それが、特に日射量が少ない冬場、鬱症状や集中力不足など、健康障害の原因の一つになっていることが論じられています。また紫外線は浴びすぎると肌によくないですが、紫外線がバクテリアや菌を殺す殺菌作用があり、適度に室内に取り入れることの重要性も指摘されています。

また、高断熱窓が必要かどうかについて、物理の原則に基づく重要な指摘もあります。

普通のガラスマテリアルは、室内の壁や家具や人から放射(輻射)される熱(赤外線や遠赤外線)を透過させない性質を持っています。よって、対流式ではなく放射式の暖房システムの家であれば、高断熱窓は必ずしも必要ではありません。複層断熱窓が市場に出て来た80年代以前に中央ヨーロッパで普及していた、箱型二重窓や、ダブルフレーム複合窓(一枚ガラスのフレームが2つ組み合わされ一体になったもの)が、とりわけ古建築の修復や健康住宅で、見直されてきています。これら伝統的な窓は、現代の技術で断熱性能も高まり、静かなルネッサンスが起こっています。断熱性能や遮熱性能を上げるための希ガスも入っていない、金属膜のコーティングもしていないので、人間の心身のバランスにとって大切な紫から青い波長の光も十分に取り入れます。また、ガラスとガラスの隙間が大きい箱型二重窓やダブルフレーム複合窓は、多くの場合、遮音の観点で、高断熱窓より優れています。

 

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健康な省エネ建築(3) 放射熱

省エネ建築の中心的な課題は、「熱」をうまく効率的にマネージメントすることです。

では「熱」とは一体なんでしょうか?

熱とは、物理学的には、簡単に言うと、「分子の運動エネルギー(=分子の振動)」のことです。

熱は、物質間で伝達されます。基本的に温度が高い物質から低い物質へ伝達され、そのプロセスには、「伝導」「対流」「放射」の3種類があります。

熱伝導とは、

個体内部、もしくは接触している個体間、さらには個体と静止している流体(液体・気体)間で熱が伝わる現象です。

熱伝導とは、個体において、分子の位置自体は移動することなく(静止)、分子の振動(=熱エネルギー)だけが隣接する分子に伝搬されていくことです。

断熱材の性能の基準になっている熱伝導率(W/m・K)は、この現象における断熱材内の熱の伝わり度合いを示しています。

熱対流とは、

分子が自由に動くことができる水や空気のような流体(液体・気体)において、分子の移動によって熱が運搬される現象です。流体は熱を持つと膨張し軽くなり上昇し、熱を失うと収縮し重くなり下降します。この流体の温度差によって起こる対流を自然対流といいます。一方、外部からの動力(風など)によって起こる対流を強制対流といいます。

熱放射(輻射)とは、

熱エネルギーを持った物質が放つ電磁波のことです。電磁波とは、空間の電場と磁場によって形成される波(波動)で、代表的なものは光やX線、レーザー、テレビやラジオの電波などが挙げられますが、熱放射もこれと同類です。電磁波は、物質のない真空でも移動します。放射による熱伝達とは、電磁波が分子にあたり、分子に運動エネルギー(=熱)を与えることです。

放射の代表例は太陽光です。超高温の太陽は強力な電磁波を発していますが、それが真空の宇宙空間を通って地球に降り注ぎ、人間の体の細胞に吸収され、分子の運動が起こり、人間は熱を感じます。

熱エネルギーを持った全ての物質は放射熱(赤外線)を発します。人間の体も、壁も家具も。

伝導対流は、温度差媒介となる物質の接触と移動によって起こります。熱力学の理論です。

一方、放射は、温度差は必要とせず、放射するマテリアルの絶対温度(K)に由来し、媒介となる物質を必要としません。こちらは量子力学の理論です。

室内の熱のマネージメントの重要な部分を担う冷暖房機器。その多くは、対流放射の両方の原理を同時に活用していますが、どちらの比率が高いかによって、対流式放射式に分類されます。

対流式の代表例は、エアコンや放熱器(ラジエーター)です。エアコンは、外部動力(ファン)と温度差による自然対流を、放熱器は自然対流を利用しています。

放射式の暖房システムとしては、壁暖房、蓄熱ストーブ、赤外線ヒーター、床暖房などが挙げられます。ただし床暖房は、室内の上下で温度差を生じさせてしまうので、対流の割合も比較的多く(40%)、放射式のカテゴリーに含めない場合もあります。

人間の健康、快適さ、省エネの観点でこの2つを比べる、放射式が明らかに優っています。

空気という媒体を使って、温度差で熱を移動させる対流式においては、空気が動くので、室内の埃や有害物質が舞い立てられ、また室内の温度差が生じ、人間の健康に悪影響を与えます。

一方、電磁波(遠赤外線)で体の内部を温める放射式の場合は、熱の移動に空気という媒介を必要としないため、低い室内温度で高い体感温度をもたらし、壁暖房や蓄熱ペチカストーブなどのような横からの放射熱の場合は、空気はほとんど動かず静かで、室内の空気の温度差もほとんど生じません。

空気を温める必要がある対流式のラジエーターには60~70度の温水が必要ですが、その必要性がない放射式の壁暖房は25度前後の温水で足りるので、省エネの観点からも有利です。

放射熱は、暖房だけではありません。太陽の日射も放射熱です。これもうまく取り入れることができれば、さらに省エネにつながります。この太陽と暖房の放射熱をうまく効果的に活用するための前提は、躯体の外側にも内側にも蓄熱性能の高いマテリアルが使用されていることです。

 

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健康な省エネ建築(2) 蓄熱性能

ここ数十年、省エネ建築においては、「断熱性能」を中心的な指標として、技術開発と設計、建築が行われてきました。

断熱性能を表す指標はU値(熱貫流率)

単位は、U値=W/m2・K

定義は「室内外で1度の温度差があるときに、対象になる躯体(壁や窓や屋根)1平米あたり1時間に通過する熱量」です。

U値は、躯体システムを対象にしたものですが、躯体システムの構成要素になっている個々のマテリアルの断熱性能は、λ値(熱伝導率)= W/m・K で表されます。

U値やλ値が低いほど、その躯体システムやマテリアルが「熱を伝えにくい(=断熱性能が高い)」ということが言えます。例えばパッシブハウス認定を受けるためには、壁のU値が0.15 W/m2・K 以下、窓は0.8 W/m2・K 以下でなければいけません。

U値が低い(=断熱性能が良い)建物は、冬場、中で暖まった空気が外に逃げにくく、夏場、外の熱気が中に侵入しにくいので、冷暖房の需要を抑えることができます。

しかし、U値(断熱性能)以外に冷暖房の需要に大きな意味があるものがあります。

それは「蓄熱性能」です。これには「容積比熱」という専門用語が用いられますが、

単位は、容積比熱=kJ/m3・K

定義は、「1m3の物質の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量」です。

容積比熱が高いほど、蓄熱性能が高いと言えます。

蓄熱性能が高い建材が使われている建物は、「冷えにくく、暖まりにくい」と言えます。冬場は、日射や暖房で一度暖まった蓄熱建材が、暖房を切ったあとでも室内にゆっくりと熱を放射し、冷えるのを抑え、夏は、蓄熱建材が、暖かい室内の熱を吸収し、室内の温度上昇を抑え涼しく保ちます。蓄熱建材は、温度の上下変化を緩やかでゆっくりにし、冷暖房の需要を抑え、省エネに繋がります。

建材のなかには、

①断熱性能が高いが、蓄熱性能が低いものがあります。グラスウールやロックウール、EPSなど、軽量の断熱材です。

②逆に、断熱性能は低いが、高い蓄熱性能があるものがあります。代表的なものはコンクリートやレンガ、粘土など、重量のあるものです。

③断熱性能が高く、ある程度の蓄熱性能も持ち合わせているものがあります。セルロースファイバーやウッドファイバー、麻断熱材です。

④比較的高い断熱性能を持ち、尚且つ蓄熱性能が高いものがあります。それは木材です。

省エネ建築の熱のマネージメントにおいては、断熱、蓄熱をどのようなバランスで組み合わせるかがポイントです。

例えば、軽量の断熱材を使った躯体と、重量の蓄熱断熱材を使った躯体で、U値が同じであっても、蓄熱性能が高い後者が「冷えにくく、暖まりにくい」ので、実際の熱需要は低くなります。

ここ数十年、省エネ建築の世界では、断熱性能(U値)を中心的な指標とし、それに重きを置いた建築が推進されてきました。

省エネ建築推進の代表格であるドイツパッシブハウス研究所のウェブサイトでは、パッシブハウスの5大原則として、①躯体の断熱 ②断熱窓 ③熱交換式の機械換気 ④気密 ⑤ヒートブリッチがないこと、が謳われています。

「蓄熱性能」は挙げられていません。

一方、伝統建築物の多くは、蓄熱性能が高い部材で躯体が作られています。

断熱性能(U値)に偏重した省エネ建築が普及するなかで、忘れられていた伝統建築物の良さを、エネルギーだけでなく、総合的な観点で見直し取り入れる動きも増えています。

住宅建設においては、本来、エネルギーを節約することが第一の目的ではありません。

住宅は人間の生活空間。住む人の健康と快適性が優先されるべきです。その上での省エネです。

よって、エネルギー性能だけでなく、無害なマテリアル、人間の体に優しい放射(輻射)熱、調湿性能、遮音性能、消臭性能、殺菌作用、有害電磁波防護作用、可視光の取り入れなど、総合的に考慮して建材を選び組み合わせることが大切です。そのヒントの多くは、蓄熱性能の高い自然のマテリアルを適材適所に使用している伝統建築の中にあります。

 

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我買う、故に我あり

北イタリアのマジョーレ湖で家族で夏の休暇を過ごしています。日常の喧騒から離れて、疲れを癒したり、じっくり物事を考えたり、本を読んだりする時間でもあります。

昨日、浜辺で、読みかけだったドイツの有名なジャズ評論家ベーレント(故人)の本を手に取り、目に入ったタイトルの節を数ページ読みました。下記の引用は、その節の核心にあたる1文です。

あらゆる活動を経済的に貨幣に変換して価値づける私たちの傾向は、人間の尊厳を低下させ、ヒューマニティ(人間性)を低下させ、文化や文明を麻痺させ、「価値観」を「商品」に格下げし、「存在」を「我買う、故に我あり」に還元してしまっている

お金に(お金だけに)舵取りをされている傾向。日常生活、仕事、学校、コミュニティとあらゆるところで、言えることだと思います。

再生可能エネルギーの分野でも言えることです。

地域分散型の地域に価値を生み出す、地域の文化や生活や景観や自然と調和し統合した再エネ事業は、持続的に、人と地域を豊かに幸せにしていくでしょう。そうでない「経済」という狭い視点だけの事業は、持続可能ではありません。

 

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冬を買う −人口降雪機に未来はあるか? (EICエコナビ・コラム001)

ホワイトクリスマス

今年は数年ぶりにホワイトクリスマスになりそうだ。
私が住む南西ドイツ・シュヴァルツヴァルトは、標高1000m前後の山々が連なる地域。面積は長野県の3分の2くらいで、森林と牧草地がモザイク状に連なる牧歌的な風景が全体を覆う観光保養地である。年間宿泊数は延数で2000万泊、春から秋にかけてはハイキングやマウンテンバイク、冬はアルペンスキーやクロスカントリーが定番である。
ここ数年は、温暖化の影響で、スキー関連施設がたくさんの売り上げを期待できるクリスマスと年末年始に雪が降らなかった。昨シーズンは、標高1000mを超えるところでも、日中の気温が10度以上、平地のラインの平野で1月初めに桜が芽吹いた。

温暖化の影響で減ってきた降雪量

フェルドベルクスキー場
フェルドベルクスキー場

シュヴァルツヴァルトのスキー場は、そのほとんどがリフトが2つか3つくらいの小さなものであるが、標高1500m弱のシュヴァルツヴァルトで一番高い山フェルドベルクに14のリフトを操業する中規模スキー場がある。このフェルドベルクに隣接する自治体にとっては、スキー産業クラスターは重要な地域の経済基盤である。
ケルン大学スポーツ学研究所の試算によれば、フェルドベルク区域のウィンタースポーツ産業クラスターの年間の経済総生産は約8000万ユーロ(約105億円)で、この部門の自治体の税収は700万ユーロ(約9.3億円)もある。
フェルドベルクは、中級山岳地域のシュヴァルツヴァルトのなかにあって、アルプス地域と類似の気候で、寒く雪も多い場所であるが、温暖化の影響で、降雪量は過去数十年明らかに減っている。このスキー場が経済的にプラスでやっていくためには、年間100日以上リフトが稼働しなければならないが、12月半ばから4月半ばまでの期間、30cm以上の雪をなんとか維持するためには、人工降雪機を備えないとやっていけなくなっている。約30kmの滑走コースのうち10km(約20ヘクタール)で、約100台の人工降雪機を装備し、雪を補足している。それでもここ数年、100日のリフト稼働を維持するのが難しくなっている。

人工雪のつくり方

一般的な人工降雪機
一般的な人工降雪機

人工降雪機で雪をつくるのには、まず原料として大量の「水」が必要になる。ヨーロッパアルプス地域スキー場では、1haあたり1シーズンおよそ4000m3の水が必要になる。フェルトベルクでは1シーズンでおよそ80000m3の水を使用しているが、自然の雪水や雨水を人工の溜池に貯水して使っている。
「空からその場所に降ってきた自然の水で、それが人工雪となってその場所に撒かれる。原料は水だけで添加物もいれないので、自然環境への悪影響はほぼない」
スキー場運営事業体はそう主張するが、自然保護団体のNABUやBUNDは、
「自然の小川や周りの土地に分散される水が貯水池に集中するので、他の場所での水不足を招き、凍りやすくなり、生態系に悪影響を及ぼす」
と批判的な見解をもっている。

温暖化によって減った降雪の問題を解決するために大量にエネルギーを消費し、それがさらに温暖化を進めることになる

人工降雪機を稼働させるためのエネルギー使用量も問題視されている。フェルドベルクは約10km、約20ヘクタールの滑走コースに雪を補足するのに、年間約25万キロワット時のエネルギーを消費している。これは、約62世帯分のエネルギー消費量に相当する。
フェルドベルクだけみると、それほど大きな消費量ではないが、その他多くのスキー場で稼働する人工降雪機のエネルギー消費量を合わせると、かなりの量になる。
自然保護団体BUNDのレポートによれば、アルプス地域(オーストリア、スロベニア、イタリア、ドイツ、スイス、フランス)のスキー場の滑走コース約10万ヘクタールのうち、7万ヘクタールが人工降雪機を備えている(2014年の調査)。年間の予想エネルギー消費量は2100GWhにもなり、約50万世帯分に相当する。
温暖化で雪が少ないという問題を解決するために、大量のエネルギーを消費し、温暖化をさらに助長している、という悪循環の構図がある。
ドイツスキー連盟によると、人工降雪設備(貯水池、変圧機、降雪マシン、送水ポンプとパイプなど必要な設備すべて)の設置には、コース1kmあたり65万ユーロ(約8600万円)の初期投資費用がかかる。スイスでは、平均100万スイスフラン(約1億2700万円)である。さらに年間の経費は、ドイツで1kmあたり約35,000ユーロかかっている。

中規模以上のスキー場がある地域では、スキーは地域経済の需要な柱であり、多くの人の生活が支えられている。シュヴァルツヴァルトのフェルトベルクのような小さなスキーリゾート地でも、約2000人が本業や副業に従事している。シュヴァルツヴァルト地域は、ハイキングやマウンテンバイクなど夏の観光も盛んで、その中にあるフェルトベルク区域も宿泊数では夏が多いが、宿泊客が1日に落としていくお金は、スキーがある冬のほうが数倍多い。だからスキー場の運営主体であるフェルドベルク村も、スキーリフトの稼働日数を維持するために、高価で水とエネルギーをたくさん必要とする人工降雪設備に、過去10数年、多大な投資をしてきた。

技術的な措置で「冬を追加購入する」という解決手段は、限界に近付いている

しかし、温暖化は進む一方。雪が少なくなるほど年間経費は高くなり、人工降雪機へのさらなる投資の需要も増してくる。現在使用されている人工降雪機は、夜間気温がマイナス4度以下になってはじめて機能する。また貯水槽のなかに前もって十分な水がたまるくらい雨や雪が降っていなければならない。それらの前提条件が整わない日も増えている。昨年のクリスマスは、暖かすぎて、人工降雪機が稼働できず、スキー場のリフトは動かなかった。
温暖化が進み、降雪量が少なくなることは、専門的研究機関のシミュレーションでも明らかになっている。お金とエネルギーと水を使い、技術的な措置で「冬を追加購入する」という解決手段は、ヨーロッパでは、環境負荷の面でも、経済的な面でも限界に近づいている。すでに限界を超えて大きな問題になっている事例もある。

冬の観光はスキーだけではない。冬山散策や博物館、スパなど、観光やレジャーの多様性は増してきている。自然保護団体などを中心に、スキーだけに拘ること、それだけに多額で不確実な投資をし、しかも環境に負荷を与えることを批判する声が高まっている。
「現在のようにスキーができなくなる近い将来のことを考えて、オルタナティブな観光、レジャーに多面的な投資をしていくべきだ」と。

EICエコナビ 連載コラム「ドイツ黒い森地域の地域創生と持続可能性」

 

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