KANSOモデルハウス「美郷アトリエ」が初めての夏を迎える

自然のマテリアルの多面的な機能を最大限に活かす、その中で蓄熱(吸熱と放熱)と調湿を主軸に置いた、暖房も冷房も機械換気も必要のない建物が、秋田県仙北郡美郷町の「もるくす建築社」の新オフィス「美郷アトリエ」として、今年春に完成しました。

元祖KANSOの建物を2014年に伴侶と一緒にスイス中央アルプスの麓に建設し住んでいるサシャ・シェアと、それに感銘を受けた「もるくす建築社」の佐藤欣裕、そして森林木材コンサルタントの私・池田憲昭の3人の共同作業の結果です。

冬はスイスのアルプスでの経験もあるので自信がありますが、日本の蒸し暑い夏は初めての経験なので、今回、貴重な学びになります。

北国の秋田ですが、仙北郡は内陸の盆地にあり、夏の昼間は気温30度を超え、湿度も70%以上になることが頻繁にあります。

うまく機能しているかどうか、ちょっとドキドキしながら、佐藤氏に様子を聞いてみました。

夏場はまず、室内に太陽光の熱放射(電磁波)を入れないことが肝心。高い位置から射す夏の太陽の光は、伝統的な長い庇で完全にシャットアウト。窓の内側には全く太陽光が当たりません。だから外付けのブラインドもカーテンも入りません。これで、日中に室内空気の熱気を吸収すべき室内側マテリアルの吸熱容量が確保できます。

職員3-5名が働くオフィス。人間も放熱体です。日中外気温が30度を越える高温多湿でも、室内の空気の温度は最高29度くらい、湿度は60%前後で抑えられているようです。一応予備でつけている冷水を流す冷房設備は、これまで使う必要はなかったとのこと。暑がりの社員が時々団扇を使うくらいだそうです。新鮮な空気を入れ替えする必要があるので、時々社員が窓を開けて換気しています。「温度計を見ると、室内も結構な気温だけど、全く不快とは感じない」と佐藤さんは感想を言います。

質量の大きな木や土や石という蓄熱容量と調湿力の高いマテリアルが、夏の暑い中でも、どんどん「吸熱」し「吸湿」しているようです。マテリアルの吸湿で湿度が少し下がれば、体感温度も下がります。また、マテリアルの表面は室内空気より冷たいので、マテリアル付近の空気の温度は2〜4度低い値になっています。人間の体から出る熱放射(電磁波)が、冷たいマテリアルの方に移動し続けている状態でしょうか。室内の人間は日中、土や石や木に絶えず「熱を吸われている」状態なので、体感温度は、実際の温度より低く感じるのかもしれません。マテリアルは、その質量で、蓄熱容量を十分すぎるくらい保有しているので、日中に数回の外気の取り入れや、人間やオフィス機器の放熱があっても、吸熱し続けられます。マテリアルが熱で溢れてオーバーヒート(放熱)することはありません。

外気温が下がる夜間は、玄関室と屋根裏に組み込まれている夜間冷却用の窓を開けて、室内の温まった空気とマテリアルを冷やします。これによりマテリアルの吸熱容量が再び増加し、翌日の熱気に備えられます。ただし、夜間でも30度を越える熱帯夜が数日続くような場合は、時々、冷房装置をつける必要があるかもしれません。

www.kanso-bau.com

投稿者: Noriaki Ikeda

日独森林環境コンサルタント 南西ドイツを拠点に、地域創生に関わる様々なテーマで、日独の「架け橋」として仕事をしています。 ・ドイツ視察セミナー ・日独プロジェクトサポート ・日独異文化マネージメントトレーニング

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