建築用の製材品は、輸入もあるが輸出もあり、原料の森林原木も製品も実質100%自給できているドイツでも、ウッドショックが起こっている。住宅産業を支える地域の工務店は、コロナの最中も安定して受注があり、今でもたくさん仕事を抱えているのに、以前は注文から1週間で手に入っていたスタンダードな集成構造材やOSBボードが8週間待ち、価格も以前立方350ユーロだったものが650ユーロなど、大変な事態になっている。
約70%の木材需要を輸入材に頼っている日本と違い、実質100%自給できているドイツで、なぜウッドショックが起こっているのか?
理由は、ドイツの製材品供給量で半分以上を占める大型製材工場数社を中心とした大手の製材品が、2月くらいから、大量にアメリカや中国へ、仲買会社を通して流れているからだ。アメリカの大きな木材供給元であったカナダで旱魃による大きなキクイムシ森林被害があり、さらにカナダの製材工場がしばらくの間、コロナでロックダウンしていたことで、国の助成政策によりリフォームや新築ブームが起こっているアメリカが一時的な木材不足になり、今年に入ってから高値でヨーロッパの木材を大量に買っているのだ。
長年、安定してジャストインタイムで国産材の製品を入手できていたドイツの建築業界が、急に、木材が入手できない、という緊急事態になっている。現在、木造建築業界と大手製材工場が、政治家も一緒に、国レベル、地域レベルで一つのテーブルについて、国内供給確保のための緊急の話し合いを行なっている。
一方で、それほどウッドショックの影響を受けていない工務店もある。大手からスタンダードな集成構造材などをちょっと安く買って「合理化」を追求するのでなく、地域の小さな製材工場との「信頼」をベースにした繋がりで、地域の無垢材を自分の工房で手工業的に加工したりして建物を作っている会社、森から製材工場、建設まで一貫したシステムでやっている会社などである。地域の小中の製材工場は、市場に若干合わせて製品の値上げも少ししているが、原木を供給する森林所有者に20%くらい高く支払い、製材品の価格は30%くらいの値上げで抑える、という風に控えめである。地域の「仲間」である顧客との「信頼」がベースにあるので、自分も世界市場に便乗して100%値上げしよう、などということはできないし、やらない。
「自由」な市場経済と一般に言われるが、実際には、市場参加者がみんな自由で平等にプレイすることは、現在の資本主義経済では不可能だ。価格や商品の入手は、力関係が決める。資本力があり、市場シェアが大きいプレイヤーに、より大きな決定権がある不自由で不平等な市場だ。
でも、小さなプレイヤーが、小さなプレイヤーだからこそできることがある。カフェやスーパー、地域のお祭りやスポーツイベントなどで立ち話ができるコミュニケーション条件下で、お互いが「利益」を最大化することをでなく、「信頼」を最大化することで協力的にビジネスをする。そういう地域の連携ビジネス構造は、大きなプレイヤーの冷酷さや気まぐれの影響も受けにくい。そもそも「利益」の最大化を第一目標にして活動する大きなプレイヤーには、小さなプレイヤーなど、全く眼中にない。
信頼をベースにつくられた地域の連携ビジネス構造は、資本主義経済のシステム病理であるバブル崩壊や金融危機にも比較的強い。リーマンショックでも強固さとフレキシブルさを証明したし、ウッドショックも上手く乗り切るだろう。今回のウッドショックで、日本でもドイツでも、木材の地域流通構造に関心が集まっている。今日思いついて明日に構築できるものではないが、将来のために、豊かで安心して住める地域にしていくために、個々のプレイヤーが地域ぐるみで努力する価値があることだと思う。
信頼は喋るだけでは構築できない。行動が必要。新刊「多様性〜人と森のサスティナブルな関係」の第3章も参照にしてもらいたい。
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2021年6月16日 18:30より、このテーマでオンラインセミナーを開催します。
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