日本の森林にはとりわけ女性的な感性が必要

5月半ばより、ドイツのホームオフィスから日本の方々に向けて、オンラインセミナーを開催しています。初めての試み。自分のMacBookから、カメラ撮影、パワポ、ビデオを、地球の裏側にいる数十人の方々に個別に同時に送り、ライブでディスカッションするなど、10年前は考えられなかったことです。

セミナーのメインテーマは私の専門の森林業。

やってみて1週間、一番の収穫は、女性の参加者が半数近くいらっしゃることです。これまでのドイツでの視察セミナーや日本での講演会やワークショップでは、男性が8割から9割でした。オンラインなので、端末とネット回線さえあればどこからでも受講できるので、仕事や育児や家事の合間に、たくさんの専門でない女性の方々に参加いただいていること、とても嬉しく思います。

森林は地球上で人間の2000倍も長く存続している複合的な生命共同体であり、人間に生活の糧や活力や感動、インスピレーションを与えてくれます。そんな偉大で多面的なものだから、それを扱う人間には、最大限の配慮と繊細な感覚、多方面への気配りが要求されます。これらは女性的な感性です。

森林大国日本の森林は、湿潤な気候と豊穣な土壌に恵まれた環境にあります。一方で、複雑で急峻な地形と地質、繊細な土壌は、日本を頻繁に襲う嵐や大雨や人間による謝った開発行為で崩れやすく、だからこそ、森林が何千万年に渡る進化の過程のなかで構築してきた「複合的な多様性」による「強さ」を維持、創出していくことが森林にたずさわる全ての人に求められます。日本がもつ森林という世界の人々が羨むかけがえのない資産、「豊穣」であると同時に「壊れやすい」宝物を、未来に引き継いでいくには、より女性的な感性が必要です。

音楽と森の世界をつなげた偉人

「ツアーで一緒のとき、チャックは絶えず樹木のことを話す。時々、いい加減にしてくれ、と言いたくなるくらい。でも彼が林業にすごい情熱を持っていることは確か。そして彼は、その情熱でもって、地球環境のためにいくつかの重要な貢献をした」
ミック・ジャガー(Rolling Stones)

一流のキーボーディストとして、ローリングストーンズやエリック・クラプトン、ジョージ・ハリソンなどと一緒に音楽活動をしてきたチャック・リーヴェルは、アメリカ・ジョージア州のファームで、奥さんと一緒に合自然的森林経営を営む有名な森林業家で自然保護家でもあります。ヨーロッパの森林関係者との深い交流もあり、彼の著書はドイツ語にも訳されています。

下記は、森の世界と音楽の世界を繋げた彼が、名著「FOREVER GREEN」の中で書いている一節です:

「私たちの森林。その維持のためには、繊細なハーモニーが必要だ。それは、すべての奏者が同じメロディーを奏でるなかで生まれる。わずかな人間だけでは、私たちの森を救い、維持し、保護することはできない。木の保全育成家、木こり、フォレスター、製材工場経営者、環境保護家、民間の土地所有者、ハンター、動物愛護家、教師、手工業家、関係する市民、森林生産物と林業に携わる企業、すべてのプレイヤーが一緒にならなければならない。この楽曲では、ソロはやってはいけない。それをやるには、森は傷つきやすく、リスクが大きすぎる。私たちみんなが、私たちの森について学び、高い責任感をもって木を利用するプログラムを支援する努力をしていかなければならない。そうすることによってはじめて、後続の世代に素晴らしい森を遺すことができる。個々の木々、個々の森林は、独自の歌曲をもっている。私たちは、それらのメロディにしっかり耳を傾けなければならない。それらに耳を傾けるなかで、様々な森の秘密と素性が開かれていくとき、私たちは、少しでも時間をとって、木の下に座り、上を眺め、感謝の気持ちを持つべきだ」

豊穣であると同時に繊細な日本の森林にはまさにチャック・リーヴェルの森の哲学とコンセプトが必要です。日本の森林は繊細で多彩で美しいメロディを奏でるポテンシャルをもっています。一緒に編曲したい方、協奏したい方、募ります。

森づくりは道づくり

森林業にとってももっとも重要な資本は「土」です。ですがもう一つ重要な資本があります。それは性能のいい「道」のインフラです。

「土」も「道」も目立たない存在です。多くの人は、目に映りやすい「樹木」の大きさや、元気さ、種類に注目しがちです。ですが木が育つための欠かせない土台は「土」、森を合自然的に経済的に手入れ間伐するために欠かせない前提はいい「道」です。

土を守り育てるコンセプトや行為、いい「道」をつくるコンセプトや行為は、目立ちませんし、多くの人が知りません。日本が世界に誇る「新幹線」と同じです。新幹線の列車のデザインと性能には大きな注目が行きますが、その性能を最大限発揮でき、過密で精密な運行スケジュールを可能にする「線路インフラ」と「ロジスティック」のコンセプトとその品質は、ほとんど注目されていません。「新幹線」、と列車ではなく「線路インフラ」のネーミングがされているにも関わらず!

新幹線車両並みのスピードと快適さを提供できる列車は他の国にもあります。そのなかで日本の新幹線が世界から高い評価を受けているのは、ネーミングの通り、素晴らしいインフラがあるからです。

10年前から、日独合同で、いくつかの場所で、日本の豪雨にも問題なく耐えられる道が作られています。主流の林業政策とは異なり、日本の森林の道の規格からも外れる「新森道」を、計画作設することを支援していただいた、いまでも支援していただいている方々にこの場を借りて深くお礼を申し上げます。とりわけ初期の段階で「急峻で雨が多い日本では無理」「こういう広い道を作ったら森が壊れる」など、有識者や業界から多数の懸念や非難があるなか、「あなたたちの提案していることは多分正しいと思うから、信じてやってみますよ」と合理的理解と信念と勤勉さをもって鶴居村森林組合と一緒に実行された北海道庁の小笠原さん、それから岐阜県高山で、同様に信念と自然への理解と愛情をベースに、現在まで継続して「新森道」の推進をされている長瀬土建の長瀬さんに、特別な敬意を表します。

北海道鶴居村で2010年にできた日本最初の新森道
岐阜県高山で2012年にできた新森道

協生農法と恒続森施業

最近、ソニーCSLの船橋雅俊氏が研究実践する「協生農法」のことを知りました。従来の単一栽培による大地の砂漠化と飢餓の問題があるアフリカ数カ所で大きな成果をあげ、世界的に注文されている農法です。私も、ネットで公開されている「協生農法実践マニュアル」をダウンロードし、早速自宅の菜園で実験を始めています(近所のドイツ人のおばさんにまた「あなたのところの庭は熱帯雨林のジャングルみたいね」と皮肉られそうですが)。基本的な考え方と手法は、私が携わる森林業の「恒続森施業」とほぼ同じだったので、すぐに親近感が湧きましたし、理にかなっていること、成功することを、ほぼ確信しています。基本は、自然の複合性を包括的に理解し、自然と「共に」生産活動することです。

1)協生農法では、土を大切にし、絶えず土の上に植生がある状態にします。恒続森でも同様に、絶えず木がある状態で森を維持し、生産基盤である土を守り育てていきます。

2)協生農法では、多種多様な野菜や植物を混生させ生物多様性を創出させ、生態的な安定性を生み出します。恒続森においても、多様な樹種、多様な樹齢、多様な大きさの木々が混生した形を造り維持していきます。

3)混生させることによって、協生農法では、収穫期間を長く引き伸ばすことができて、絶えず何か収穫できるような状況が生まれます。また地下と地上の空間を多様な植生で立体的に埋めて効果的に活用できるので、面積あたりの生産性は、収益/維持コスト比で、伊勢の協生農園のデータで、従来の慣行農法の5倍という数字がでています(ただし著者に確認したところ、人件費はコストに含めていないということなので、科学的に誠実な比較ではありません)。恒続森も同様に、絶えず、どの世代も、大きな木を収穫できる状況にしておきます。また、様々な形状の樹種、大きさの違う樹種が混生し、立体的に地下と地上の空間を効率的に活用できるので、単一樹林よりも平均蓄積(ストック)を上げることができて、コストに対する収益比率も高くなります。

4)両方の手法とも、自然に敬意を払って(人間の科学的な理解がまだ隅々まで及んでいないミクロとマクロレベルの生態系の複合的な繋がりとネットワークにも)、絶えずしっかり観察し、人間は、自然が示す方向を受け入れ、自然に逆らわずに、必要に応じて「ソフトな方向付け」をしていきます。

「協生農法実践マニュアル」より

オンラインセミナーを開始します

これまで、現地の視察セミナーや講演会、ワークショップにて「直接対面」にて限られた方々に提供していたものを、ウェビナーにより「デジタル対面」にて、より多くの方々に安価に提供します。

通信環境の良い場所で、パソコンやタブレット、スマホで、気軽に会社や自宅や外出先からアクセスください。

ZOOMのウェビナーのシステムを使います。基本的に、視聴参加者のお名前は、他の視聴参加者の画面には表示されません

参加のお申込み&お支払いのマネージメントにはPeatixを使用します。お申し込み後に、Zoomの参加者事前登録URLを送ります。登録が終了すると、オンラインセミナーへの参加リンクが記載されたメッセージが自動送信されます。各セミナーは開始20分前に開場します。

別の参加&申し込み方法をご希望の方は、事前に個別にお問い合わせください。メールはこちらへ

下記は、公募型オープンセミナーの案内です。

テーマに関心をお持ちの方でしたら、一般の方からプロまで、どなたでもお気軽にご参加ください。動画写真ホワイトボードも効果的に使い、素人の方でも容易に理解・イメージできるように話します。レクチャーの後には、口頭による質疑応答の時間を設けます。聴講参加者のみなさまには、セミナー終了後にスライドのハンドアウトを配布します。ご質問、ご不明な点がございましたら、遠慮なくご連絡ください。メールはこちらへ

団体、企業などでご要望がありましたら、オーダーメイドにて、クローズなセミナーの開催にも応じます。ご希望内容、期日など、お気軽にお問い合わせください。メールはこちらへ

サステイナブルは気配り ー 森から建物まで  1)〜7)

 

1)持続可能な多様性! ー 多方面へ「気配り」する森林業

レクチャー 50分  質疑応答 30-40分  参加費:1000円/人

  • 「持続可能性」という概念は、ドイツの森林業の世界で約300年前に生まれた
  • 次世代への配慮と思いやりの心が、多方面への「気配り」のある森づくりを生む
  • 森林業とは? ー 「自然と共に」「循環の思想」「多機能性」
  • 土壌を守り育てる! ー 森林業のもっとも重要な資産
  • 欧州のフォーレスターが羨む森林大国日本の大きなポテンシャル
  • 「ソロ」ではなく「協奏」! ー ドイツやスイス、日本の実証事例とパイオニア

お申込みは、日時をご確認の上、下記のリンクをクリックください。Peatixの画面に移動します。

2020年 5月14日(木) 17:00-18:30   
2020年 5月16日(土)  16:00-17:30
2020年 5月26日(火) 20:00-21:30 

2) 森づくりは道づくり ー 持続可能で多機能な森林業を可能にする道インフラ

レクチャー 50分  質疑応答 30-40分  参加費:1000円/人

  • 自然に「気配り」した質の高い道のインフラが、生産性の高い持続可能な森林業を支える
  • いい道のインフラは、森林作業の安全性を向上させ、人の命を救う!
  • 多雨、急傾斜、複雑な地形、崩れやすい土質の日本の森林でも可能!
  • 「水」とどう付き合うか ー 集めない、加速させない、停滞させない、という3原則
  • グリーンインフラになる道づくりのディテール
  • 美しい森林道は、観光業と市民のレジャー・健康を支える!

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2020年 5月19日(火) 17:00-18:30 
2020年 5月23日(土)  16:00-17:30
2020年 5月28日(木) 20:00-21:30 

3)人も森も守る! ー 森林作業の安全と土壌を保護する作業

レクチャー 50分  質疑応答 30-40分  参加費:1000円/人

  • 危険な仕事「森林作業」に必要な心構え ー 「敬意」「気配り」「謙遜」
  • マイスター(先生)が現場で徒弟(生徒)に教えることの大切さ
  • 防護装備 ー 鎧とスポーツウェアーのバランス
  • 人命救助が出来る道を起点に作業を考える
  • 土壌を保護する森づくりと作業システム

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2020年 5月20日(水) 19:00-20:30 
2020年 5月24日(日)   15:00-16:30

4)木材の多様な地産地消 ー 多様性のある地域木材産業が地域を国を豊かにする

レクチャー 50分  質疑応答 30-40分  参加費:1000円/人

  • 木は「多様」、だから多方面への「気配り」がある多様な木材産業が必要!
  • 森林・木材クラスターは、地域経済を支える大きな柱!
  • 製材工場 ー 「気配り」力が問われる森と木材産業のつなぎ役!
  • 地域を国を豊かにする理想的な木材のロジスティック
  • 家づくり ー地域の零細企業が支える品質とイノベーション
  • 手工業のルネッサンス ー 家具、建具、木工細工
  • 木質バイオマスエネルギーはソリューションになるか?

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2020年 5月27日(水) 17:00-18:30 
2020年 5月30日(土)   16:00-17:30 

5) サステイナブルな家づくり ー 自然素材を活かしたシンプルな健康省エネ建築

レクチャー 50分  質疑応答 30-40分  参加費:1000円/人

  • 木や土や石といった伝統的な自然素材の優れた性能
  • 「調熱」: 熱エネルギーを吸収し放出する自然素材
  • 「調湿」: 湿気を吸収し放出する自然素材
  • 自然素材と衛生 ー 防菌効果
  • 古建築を、安価に、エコに、アップビルディング!
  • シンプル イズ ベスト! ー 自然素材で、暖房も機械換気もいらない年中快適な家

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2020年 6月2日(火) 17:00-18:30
2020年 6月4日(木) 20:00-21:30 
2020年 6月6日(土) 16:00-17:30 

6)森林浴 Waldbaden

レクチャー 50分  質疑応答 30-40分  参加費:1000円/人

  • 「森林浴」:日本生まれの言葉がドイツでトレンド
  • 森林業をするための美しく安全な道があるから、市民が気軽に日常的な森林浴
  • 気軽にアクセス可能な「気配り」の森林が、地域の大きな観光資源! ー 「黒い森」の事例
  • 世界からみた日本の森林の大きなポテンシャル
  • ハイブリット自転車で高齢者が森林で快適サイクリング
  • 森林で乗馬、ヨガ、狩猟
  • 「森の幼稚園」 ー 森林は絶好の学びの場

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2020年 6月9日(火) 17:00-18:30 
2020年 6月11日(木) 20:00-21:30
2020年 6月13日(土) 16:00-17:30 

7)人間が森から学ぶべき共生の原則

レクチャー 50分  質疑応答 30-40分  参加費:1000円/人

  • 人間の2000倍長く存続し、人間の7000倍の質量を有する木の賢い生存コンセプト
  • Wood Wide Web
  • 木と他の生物による同じ目線のパートナーシップ
  • 植物が実践する迅速で誠実でオープンなコミュニケーション
  • 木は、次世代や弱者の仲間への配慮をしている
  • 環境に変化に対応し、みんなで一緒に行動する

お申込みは、日時をご確認の上、下記のリンクをクリックください。Peatixの画面に移動します。

2020年 5月22日(金) 19:00-20:30 
2020年 6月10日(水) 17:00-18:30
2020年 6月14日(日) 16:00-17:30

FOREVER GREEN


下記は、ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンなど有名な音楽家と一緒に仕事をしてきたキーボーディストのチャック・リーヴェルが、彼が情熱を傾けるもう一つ職業分野である森林について、名著「FOREVER GREEN」で書いている一節です。【森林業】にとって大切なことを音楽家の感性で簡潔に表現しています。

「私たちの森林。その維持のためには、繊細なハーモニーが必要だ。それは、すべての奏者が同じメロディーを奏でるなかで生まれる。わずかな人間だけでは、私たちの森を救い、維持し、保護することはできない。木の保全育成家、木こり、フォレスター、製材工場経営者、環境保護家、民間の土地所有者、ハンター、動物愛護家、教師、手工業家、関係する市民、森林生産物と林業に携わる企業、すべてのプレイヤーが一緒にならなければならない。この楽曲では、ソロはやってはいけない。それをやるには、森は傷つきやすく、リスクが大きすぎる。私たちみんなが、私たちの森について学び、高い責任感をもって木を利用するプログラムを支援する努力をしていかなければならない。そうすることによってはじめて、後続の世代に素晴らしい森を遺すことができる。個々の木々、個々の森林は、独自の歌曲をもっている。私たちは、それらのメロディにしっかり耳を傾けなければならない。それらに耳を傾けるなかで、様々な森の秘密と素性が開かれていくとき、私たちは、少しでも時間をとって、木の下に座り、上を眺め、感謝の気持ちを持つべきだ」

世界各国で、意地や誇りや欲やエゴ、偏見や狭い視野がベースになった「ソロ」演奏がされています。一方で、森に、地球に耳を傾け、多様な人たちと一つのメロディーを「共奏」することを呼びかけ、実践を試みる人たちもいます。私は後者であり続けたい、欧州の人たちが羨む日本の豊穣な森を後世の人たちに遺すことに貢献したい、と思っています。

その場所の適樹が「将来の木」に!

3年前から今の場所に住んでいますが、裏山の森林の散歩コースに、「早く間伐して手入れした方がいいのに」と気になっていた区画がありました。そこに数日前に将来木のマーキングがされていました😊。自分の森ではありませんが、持ち主が誰かわかりませんが、嬉しくなりました。
しかも立地条件を配慮した選木がされていました。おそらく40年くらい前にトウヒとモミを植林してできた林です。でも選択されている将来木(写真中に+でマーキング)は、モミとトウヒの間から天然で生えてきて育ったと思われるサクラとミズナラ。南斜面で土は乾燥していて日射も風当たりも強いので、根が浅いトウヒには全く向かない場所(風害にあったり、水不足で弱ってキクイムシに食べられる)、モミの木にとっても表土が少なく、標高的に気温も若干高めであまり向かない。一方自然に生えてきたサクラやミズナラは、まさにこの場所の適樹。
自然はあるべき方向性を示してくれます。人間は、自然をしっかり観察して、「自然と共に」ちょっとした手助け、方向づけをすればいいのです。選ばれたサクラやミズナラの樹冠スペースを直接邪魔しているトウヒやモミの木が切り出されます。

日曜日の課題

「木の葉っぱが秋に赤や黄色になるのはなぜ? 今から2時間、ネットや本で調べて、発表しなさい! 一番良くできた子には、アイス屋さんでスパゲッティーアイスをご馳走する」と日曜日の朝食のときに、我が子3人に課題を出しました。

控えめだけど、質問に一番厳密に簡潔に9割方正しく答えたのは15歳の長女。学校でも良く手を上げて発表したがる13歳の次男は、色の変化だけでなく、葉っぱがなぜ落ちるかとか、光合成のことまで説明。7歳の末娘は「葉っぱは死ぬのが怖いから赤くなる」「いや違う、本当は虹が色をつけてくれるから」と哲学的で詩的な答えをくれました。

生物学的な答え:葉っぱの中には、黄色をもたらすカロチノイド、赤色をもたらすアントシアニン、そして緑色をもたらすクロロフィルという分子がある。光合成をするのはクロロフィルで、マグネシウムと窒素を中核とする有機物質からなりたっており、たくさん光合成をする春から初秋にかけて、通常このクロロフィルの割合が多く、黄色のカロチノイドと赤色のアントシアニンを覆ってしまうので、緑に見える。晩秋で寒くなり、土も凍りはじめ、光合成に必要な十分な量の水を土壌からの吸い上げるのが困難になり始めると、木は葉っぱを落とし、水不足の冬環境に適応するが、その前に葉っぱのクロロフィル分子を解体し、その主要物質であるマグネシウムと窒素を枝や幹や根に、次の春が来るまで貯蓄しておく。この落葉前の過程で葉っぱのクロロフィルが少なくなると、隠れていたカロチノイド(黄色)やアントシアニン(赤色)が表にでてきて、「紅葉」となる。

カロチノイドやアントシアニンには、綺麗な秋の紅葉を見せるだけでなく、紫外線からのダメージを防ぐという、木の葉っぱを守る大切な役割があります。また赤色の原因分子であるアントシアニンは、防虫防菌作用もあります。

子供達の発表のあと、「じゃあ、どこから赤や黄色や緑の色が出てくる」とさらなる質問しました。上の2人はすぐに「そういう色素を持った物質がそこにあるから」と回答。「ブー、外れ」。すると末っ子の娘は「色は空から降ってきている」と詩的かつ、核心に迫ることを言いました。

物理学的な答え:人間に見える色は、太陽光の可視光線と、それに対する物質の反応から生じる。緑の葉っぱは、主体のクロロフィルが、波長の短い青の可視光線と波長の長い赤や黄色の可視光線を吸収し、緑の部分だけ反射しているから。カロチノイドは、黄色の波長を反射し、他の色の波長を吸収、アントシアニンは、赤色の波長を反射し、他の色の波長を吸収。

この季節外れの質問をしようと今朝ふと思いついたのは、我が家の前庭に育つ樹齢50年の日本原産の「のむらもみじ」の赤紫の葉っぱが目に入ったから。おそらく江戸時代に天然のイロハモミジから品種改良されはじめ、公園や庭先に植えられているこの品種は、春先に赤紫色の葉っぱを広げ、夏に緑っぽくなり、秋に朱色の綺麗な紅葉をします。光合成をする期間に、緑じゃなく赤が優性なこのモミジには、綺麗な色を長い期間見たくて品種改良した人間の都合だけでなく、生物学的意味があるようです。天然のイロハモミジは、日陰の湿った場所に適応した樹種で、太陽光がたくさん当たる公園や庭では、紫外線が強すぎるため、自分をまもるため、赤色のアントシアニンをたくさん身につけたノムラモミジに変異し新しい環境に適応して行ったようです。

美しさの背景にあるもの

中央ヨーロッパの田舎の美しい景観。住んで25年、見慣れている景色ですが、いつ見ても新鮮で、ため息混じりに見とれてしまいます。特に花と新緑、生命の躍動が感じられる今の時期は。
この景色は、文化景観(カルチャーランドスケープ)と呼ばれ、人々の自然への働きかけ、営みがあってはじめて維持されます。副業や趣味が主体の農業や森林業、この景観を一つの資本とする観光業、個性豊かで質が高い家族経営の商店、地域の生活の需要と品質を支えるレベルの高い様々な手工業、グローバルに活躍しつつも地域の雇用と人材育成を大切にする中小企業、各種芸術家、行政、教育関係者、地域の各種NPO団体、そして人々の健康を支える医療。これら多様なプレイヤーが有機的に密接に繋がり補完し合うことで、地域が、この美しい景色が維持されています。
今回のコロナ危機は、この一見のどかで平和に見えるこの地域にも、大きなダメージを与えるでしょう。しかし、リーマンショックやその他の過去の危機を克服してきたように、「複合的な多様性」という危機への強さをもって、地域で助け合い、粘り強く、クリエイティブに乗り越え発展して行くでしょう。
ロックダウンから1ヶ月、軒先や散歩の途中やスーパーでの買い物のときに出会う近所の人や知人、友人、経営者、職人、会社員などと、2m以上の感染防止距離を置いて立ち話。話題の中心は自ずとコロナ。「今大変だけど、みんなで耐えて乗り切ろう」「新しい商売の方法を考えなきゃ」「健康が一番、気をつけて」と励まし、刺激しあっています。
私も、少なくともこれから数ヶ月は、この地域の美しい景色や持続可能なコンセプトや事例など、直接日本のお客さんに生で見せて体験してもらう視察セミナーはできませんが、インターネットの助けを借りてオンラインでのレクチャーやセミナーを提供し、あとはこの機会に執筆や、次の展開のための充電と構想の時間に当てたいと思っています。

木々が人間に伝える大切なメッセージ

森は多種多様な生き物が複合的に有機的に絡み合って存続しているエコシステムです。人間も森からたくさんの恩恵を受けています。森の主役は「木」です。質量においても、機能においても。最新の研究(Weizmann Institut of Science in Israel, 2018年)によると、地球上の生物の炭素質量で圧倒的に多いのは植物で、約80%を占めています。その植物質量の大半(約8割)は木です。2位はバクテリアで約13%、3位は菌類で2%。人間も含む動物は0.4 %しかありません。人間だけ取ると0.01%です。木は約3  億年前から地球上に存在しています。それに対して人間(ホモサピエンス)の歴史はたった15万年です。生物質量でも、存続の歴史でも、取るに足らない人間ですが、地球上の生物や環境に多大な影響を与えてきました。とりわけここ100年あまりのインパクトは凄まじいものがあります。そして現在、その活動により自らの存続の危機をもたらしています。

質量の上でも、存続年数でも、人間に遥かに勝る「木」。その木が主役である森という複合的なエコシステムには「賢く」「サステイナブル」な生存コンセプトがあります。だからこそ、地球上でたくさんの面積を有し、長く存続しているのだと推測されます。自然に敬意を払って自然と共に生活していた(している)人間は、森の賢さや持続可能性の断片を経験的に感じていましたが、ここ10年あまりの革新的な植物学の研究により、そのメカニズムが明らかになってきています。木も含む植物は、同種や他の植物種、そして菌類やバクテリア、動物と密なコミュニケーションをしています。学習能力、問題解決能力を持っています。ここに書くのは、森の主役である木の「生きるコンセプト」です。メルヘンではありません。科学的に証明されていることです。

同じ目線のパートナーシップ

木は根から土壌中の養分を吸収していますが、単独ではそれができません。根の先端部分に棲みつく菌類(菌根菌)の助けを借りています。菌根菌は周りのバクテリアに手伝ってもらい、土壌中の栄養分を、木の根が吸収しやすい形に調理して渡します。木はしかし、季節に応じて必要な栄養分が変わります。成長期の春に必要な料理と、休眠期の冬に必要な料理の種類と量は異なります。菌根菌は、木が出す多様な化学物質(分子)のシグナルに反応して、料理のレシピとボリュームを変えているのです。また木の緊急事態にも菌根菌は迅速に対応します。例えば、キクイムシが木に侵入し食べ始めると、木は防御物質である樹脂(ヤニ)をたくさん生産して自己防衛します。菌は木から送られてきた救急シグナルに迅速に反応し、キクイムシ防御のための樹脂生成用の特別レシピで調理し木に提供します。

その他、病原菌や虫の被害にあったときも同様です。木は症状や事態に合わせて個別のシグナルを菌根菌に送り、菌根菌はそれを正確に受けとり、ドンピシャの対応をします。これらキメ細かで迅速な菌根菌の助けに対して、木は菌根菌やバクテリアに十分なお礼をしています。何でお礼をするかというと、「糖分」と「落ち葉」です。木は、光合成で生成する糖分の約3分の1を菌根菌に提供します。木も菌&バクテリアも、お互いの助けがないと生きていきません。ここで起こっていることは、どちらか一方が他方を搾取するのではない、同じ目線のパートナーシップです。 

次世代や弱者へのの配慮

木は、自分の子孫への配慮も行なっています。まだ小さく弱く、日陰に生息していて、自分の力だけでは自活できない稚樹に対して、母樹は、自分のパートナーの菌根菌にシグナルを送り、子供へ養分の分配をしています。調理人であり給仕である菌根菌に対して「自分の食事はこれで十分、残りは、まだ十分に貴方とコミュニケーションできない、光合成する力も弱い子供たちに分け与えて欲しい」というお願いをして。また、病気で弱っている、枯れかけている仲間の木に対しても同様の配慮をしていることも観察されています。

光と土壌に対する過酷で冷酷な競争が、同種間や異種間で存在するのも事実ですが、一方でこのような次世代や弱者へのいたわりと配慮も同時に行われています。

連帯して問題解決

木は仲間と連帯し、危機的な状況を回避したり、脱っすることもします。例えば、キクイムシに食われた木は、「今自分がやられた。仲間よ、お前たちも素早く自己防衛対策したほうがいい」と周りの木々に対して空気を媒介にフェロモンの信号を送ります。それを受け取った木々は、自分の根に棲みつく菌根菌に、特別料理を注文し用意させて食し、猛スピードで樹脂生産し、それを樹皮部分に集め防御体制を整えます。木が生成するフェロモンには様々な種類、すなわち様々な言葉があります。仲間だけでなく、昆虫や鳥などにも明確な信号が送られます。益虫または益鳥として、自分を蝕む菌やムシを退治して欲しい時に。

また夏の日照りで乾燥が続いたときは「節水が必要だ!」と、森の木々みんなで信号を出し合い、連帯して光合成の生産量を減らし、水不足に対応します。またそのような問題が数年続いたときは、葉っぱを小さくする、という戦略の変更までして将来に備えます。これは生物学的に言うと、親から受け継いだ遺伝子コードに自ら修正を加える、という偉業です。これまで特別なノウハウと機械設備を備えた遺伝子学者・技術者にしかできないと思われていたことです。植物は、普通の人間には到底できないことを、生き残るために必要とあれば、一個体の一生の中でやってのけるのです。

人間が木や森から学ぶべきこと

人間の約2000倍も長く地球上に存続し、人間の約7000倍の質量を有する木々、その木が主役の森という生命複合体に対して、人間は、多大な畏敬の念をもって、木や森が発する言葉に耳を傾けるべきです。そこには、人間が、他の生物と一緒に地球上で生き延びるための大切なメッセージがあると私は感じています:

  • 明快で迅速でオープンなコミュニケーションを! 意地や誇り、羞恥心やエゴは捨てて、みんなのために情報の提供を!
  • 与えてもらったら、その分しっかり返してお礼する。同じ目線の敬意あるパートナーシップを!
  • 次世代や弱者にしっかり配慮しよう!
  • 問題や危機は、みんなで連帯して解決! 個人プレイは禁物!
  • 先代の経験や歴史、自らの経験から学び、適切な決断と行動を! 必要あらば、生きる戦略の変更もし、未来に備えよう!

記事に関係する代表的な学術論文:

Yinon M. Bar-Ona, Rob Phillipsb,c, and Ron Miloa (2018): The biomass distribution on Earth. PNAS Vol.115, No.25

František Baluška, Stefano Mancuso, Dieter Volkmann1& Peter Barlow (2004): Root apices as plant command centres: the unique ‘brain-like’ status of the root apex transition zone. Biologia, Bratislava, 59/Suppl. 13

Florian Walder, Helge Niemann, Mathimaran Natarajan, Moritz F. Lehmann, Thomas Boller, and Andres Wiemken (2012): Mycorrhizal Networks: Common Goods of Plants Shared under Unequal Terms of Trade. Plant Physiology, 2012 June, Vol. 159

A. Ekblad, Et. al. (2013): The production and turnover of extramatrical mycelium of ectomycorrhizal fungi in forest soils: role in carbon cycling. Plant Soil (2013) 366:1–27

Louise M. Egerton-Warburton, Jose ́ Ignacio Querejeta, Michael F. Allen (2007): Common mycorrhizal networks provide a potential pathway for the transfer of hydraulically lifted water between plants. Journal of Experimental Botany, Vol. 58, No. 6

Rodica Pena, Andrea Polle (2014): Attributing functions to ectomycorrhizal fungal identities in assemblages for nitrogen acquisition under stress. The ISME Journal (2014) 8

František Baluška, Stefano Mancuso, Dieter Volkmann, Peter Barlow (2009): The ‘root-brain’ hypothesis of Charles and Francis Darwin – Revival after more than 125 years. Plant Signaling & Behavior 4:12